声の主
俺たちは、声に意識を集中していた。
「死の森?ここはまだ、街道沿いのはずだが・・・。太陽の沈む方向に向かって、まっすぐ来たんだ。死の森には、入っていないと思うんだが・・。」
「馬鹿ね。今は乾季よ?太陽の位置なんてずれるに決まってるでしょ?それとも只々迷ったのかしら?」
「・・・。あのじじい!適当な事を教えやがったな!」
「アル、すぐにここを離れた方が良いんじゃないか?」
「もう、遅いわよ。死の森で火を使うなんて・・・。」
「何か、禁忌に触れるようなことでも・・・?」
「危ないじゃない!」
「・・・。」
「すみません。」
「今日はこのまま休んでもいいわ。でも、朝になったらもっと南側を進む事ね!さっきの話からすると、あなたたちは男爵領に行くんでしょ?死の森からは・・・・。あなた達にはまだ無理ね。おとなしく洞窟から回りなさい?」
「「・・・はい。」」
「・・・。」
「?消えた?」
どうやら、声の主はこの場を去った様だ。そして、俺たちは森の中を進みながら、何者かに追跡されていた。そしてその追跡を先ほどの声の主が排除してくれたようだ。敵意の無い監視の目、一体どちらの気配だったのだろうか?
「まだ見張られているのかな?」
「かもしれない。イニシアチブはあちらに取られているんだ。火は大きくせず、おとなしく行こうか・・・。」
「・・・だな。」
ビルットと俺は頷きあい、見えない存在を刺激するような事は避けようと誓った。
「アルバート、起きてくれ、交代の時間だ。」
ギニンに起こされた俺は、やたらと警戒しているギニンを見て不思議に思った。
「ギニン、どうしたんだ?何かあったのか?」
「お前たち、森の民に会ったんだってな・・・。」
「いや・・。会ったというか、声を聴いたな。」
「俺は感じる!あの辺に何かがいる!ずっとこっちを見ているような・・・。気を抜いたら襲ってきそうな気配が・・・。」
ビルットからどのような情報が回ってきたかは知らないが、森の民らしき声との会話が誇張されたのだろうか?よく見たら、サンタスも薄目を開けて警戒している。コーギは・・・爆睡中か。
「ビルット、サンタス、大丈夫だ。俺たちは森の民らしき人?に助けてもらったんだ。どうやら、黒い何かに追跡されていたらしく、それを排除してくれたらしい。俺たちが男爵領へ向かっている事を知って、援助してくれたんだろう。」
「ほんとだろうな!」
「急に叫ぶなサンタス。お前、ビビってんのか?」
「んなわけないだろ!お、俺様の活躍のチャンスが減ったから、悔しいだけだ!」
「だったら早く寝ろ。まだ時間はある。」
とりあえずギニンに現状を詳しく伝えた。俺たちは黒い何かに追われていた事、森の民らしき人に助けられた事、ここが死の森である事、俺たちでは死の森は越えられない事。それらを伝え、緊張を解くように伝えた。
「いや、有難いことだが・・・ずっと見られているのも気分が悪いな・・・。」
「そうだな。俺はどこから見られているかは分からんが、お前は分かるのか?すごいな。」
「昔、街のごみ置き場でアニキに拾われるまで、色々あったからな・・。あのままだったら今頃は、そのままゴミと一緒に捨てられていただろう。」
「お前、ずっと気になっていたんだが、サンタスに拾われたって言ったけど、何があったんだ?」
「・・・あれは、5年前の寒い日、俺は食い物を求めて徘徊していた。悪人が死なないしあわせの国でも、貧困で死ぬ人間は少なくはなかった。悪事を働いた所で、すべてが上手く行く訳でもなく、何をする気力も無くなっていた。そこへ、アニキが現れた。・・・野菜の炒め物・・・粗末なものではあったが、俺には最高に輝いて見えた。あの、ピーマンとナスの炒め物・・・。アニキは俺の前にそっと食べ物を置くと、何も言わず去っていったんだ。・・・地獄の中で神を見た気分だった。・・・それ以来、俺はアニキに忠誠を誓おうと決めたんだ!」
ビーマンとナス・・・。サンタスの苦手な食べ物じゃないか・・・。こっそり捨てに行ってたな?




