分かつ巨腕
便宜上、ここから8話となります。
「ハーク君! 無事だね!
いやぁ探したーー」
ハークに気づいたイチモは
笑顔を向ける。
その瞬間までは目を見開き
相対するふたりを動向を伺っていた。
前後左右に顔を動かす。
イチモの顔の横を何かが
高速で飛び交っており
避けている様子。
「この状況でその態度。
ーーやはり隠していたな?」
二人の間に、地を揺らす巨腕が
振り下ろされ、叩きつけられる。
すかさず避けた二人は
その主ともう片方とを
両方見れるように構えている。
「我が主の屋敷での狼藉。
見過ごすわけにはいかない!
例え貴殿ら三人、いや四人か。
主を、屋敷を、守るため
我が身を呈してでも、守らねば」
首にかけられたネクタイをキュッと正す。
細いフレームのおしゃれなメガネを
どこからか取り出してかける。
流暢に語るは、巨大なゴリラ。
大木のような白い巨腕。
体躯に似合わない短い足。
そしてハークには
見たことのある服を着ていた。
それは先ほどまで自分達を
襲いかかっていた大男の物
だということを。
「待ってくれ。貴方は
この建物の守人と見える。
私と、そこのハーク君たちは
山に迷い込んだだけだ。
帰り道さえ教えてくれたなら
すぐさま帰ろう。
貴方やこの建物に危害を加えない。
約束できる」
ふたりを視野にいれつつ
レムザはジリジリと距離を詰める。
「騙されるな、ジョー。
この男は侵入者だ。
ハーク君だけが、僕らの客人だ」
「むむ。むむむ……」
ゴリラはポケットから
その巨腕に見合う手帳を取り出し
パラパラとめくる。
手帳の外表紙は所々欠けており
しおり代わりの紐先は、長年使われたからか
ほつれて球体と化していた。
中の紙は白、ではなく少し黄色みがあり
端はぼろぼろである。触れば途端に
ほろりと下へ落ちてしまうほどである。
一通り目を通した後、勢いそのまま
手帳を閉じた。
「――否。
客人は約三十年間来ていない。
その予約も、後にも先にもない。
主は、大主神から仰せつかった役目
私にこの屋敷を守る役目を
与えてくださった。
――守る。何がなんでもだ。
貴殿らは、侵入者だ。
我が名を知る男、貴様は知らない」
「ーー嘘?」
イチモはたじろぎ、焦った様子。
イチモが一瞬ジョーと呼んだゴリラに
意識を向けたその瞬間。
レムザは駆け出した。
ハークの方へと走りだし、手を突きだす。
「捕まれ!」
* * * * *
「え、ちょっ?!」
とっさのレムザの言葉に
わずかに反応が遅れたが
彼の片腕にハークは捕まった。
「ッ!? 逃がさないッ!」
しかしそれを一歩遅れて
反応したイチモが、ハークへ手を伸ばす。
「掴ん……、ん?!」
「うっ!? あうあー!?」
イチモの手に捕まれていたのは
ハークではなく、ハークの服に
くっついていたユミナであった。
「ユミナっ!」
「ダメだ。逃げる!」
「礼節の欠ける侵入者。
もはや罪人とする」
「あー!」
ユミナはイチモの手を払いのけ
ハークへと手を伸ばす。
「オールディーー」
「おっと、危ないッ!」
天から振り下ろされた
ゴリラの巨腕に、分断される。
レムザは急いでその場を離れる。
イチモの姿を再度捉えた後
姿を消し、土煙に紛れた。
「煙に巻く。今回は土煙ですが……。
レムザさんの十八番ですね。
スタッフであるハーク君は大切でしょう。
しかし、この子は、置いていくので?」
イチモは叫ぶ。
片手で掴んだユミナを
荷物のように持っていく。
「貴殿も、侵入者だ」
「待て、ジョー。主はこう言う。
『神明は輝く時を知る』と」
「む」
イチモの言葉に
ジョーは一切の動きを止め
立ち止まる。
「彼の求めし物は、無論あの子。
この子もいつか。
しかし、これの方が良いか」
イチモはジョーと呼ぶゴリラに
一枚の赤い紙を見せる。
それを見たゴリラは
赤い紙を手帳に挟み
静かにどこかへ歩き出す。
「貴殿は、大主神の、何だ。
少なくとも、主使とは違う。
かといって信者とも違うだろう。
何者だ?」
「……家庭教師。少なくともね」
* * * * *
ーーユミナを置いていけない!
ここまで読んで頂きありがとうございます。
続きます。
次話投稿予定は2021.7.1(木)予定です。




