イチモとは一体何者か?
――ユミナを置いていけない!
ハークはそう言葉を飛ばす。
しかしレムザは、首を横に振る。
「ダメだ、ハーク君!
君を回収。イチモの素性を知る。
今回それが最優先だ。
イレギュラーは全て台無しにする!」
ゴリラ・ジョーの巨腕を利用して
建物内の死角となる一角に潜り込み
ふたりは姿を隠す。
「ユミナはまだ赤ん坊だ!
放っておけない!」
「……分かっているッ!
だが、二人を助けるのにリスクがある!
私一人では無理だ!!
それに、次は博士たちの救出もある!
無理だ! ユミナを置いて行かねばならない!」
「俺は、一人に入らないのか!?」
「そうだッ!
君はこの極寒の中、建物の中を
その身体で、竜となって動けるのか!」
「できるッ!」
「無茶だッ!!」
レムザは即座にそう言い切った。
* * * * *
「ハーク君。
極寒の地で活動できる動物は限られる。
まして恐竜。爬虫類となる君が
竜となって戦っても、勝てやしない!
わるいこたちが姿を変える動物の特徴は
少なからず人の時でも影響はある!
だからこそ、いまのこの環境は
ハーク君には不利だ!」
「でもっ……!」
「竜ではない。
人である君自身が、幼い君が
あの大男に、あのイチモに勝てるなら
話は別だ。しかし見ただろう」
レムザの言葉に、ハークは思考を止めた。
「イチモはなぜ君を拐ったか。
そもそもどうしてあの男は
わるいこ研究所を志望したか。
私は分からない」
――レムザはイチモの経歴を探っていた。
ハークがベルードに出会う少し前。
イチモは真新しいスーツに身を包んだ就活生。
レムザは面接官として出会う。
イチモの印象はどこにでもいる
模範的な大学生であった。
――なぜ研究所を志望したのか。
"子供たちの味方をしたいんです"
彼は教師になるべく勉強していた。
聞けば、自身の父親の姿を見て憧れ
自身も志したいと話す。
しかし学校では、より多くの子を
見なければならない。
ある程度まとまった教育を受けた子供を
何人も育て上げねばならないという
大陸全体の偉い人たちがそう考えていた。
学校は大陸を四分割してそれらにひとつ
総合的な学習の場として設けられている。
しかしそれだけでは賄いきれず
青空学校が大陸内ではいくらか
一般的であった。
もっとも、学校に通えるのは
ある程度の生活水準を持った家庭が主。
彼はひとりひとり真摯に向き合いたい。
しかし本当に向き合うべき子供たち
それは学ぶ機会や本来受けるべき当たり前を
得るのが難しい保護の子供たちである。
という熱意から、研究所で保護している
子達の教師として働きたいと話した。
この時、確かに必要だった。
子供たちの保護、ならまだ出来る。
しかし保護する人数が増え
建物内でひしめく中、スタッフの人数も
相応に必要となる。
しかしそれは達成できていない。
イチモはすぐに採用された。
雑用や基礎知識くらいしか
与えられなかったが、彼はレムザや
他の先輩スタッフの話を熱心に聞き
独学していた。
特にわるいこに対する知識はほとんどそれである。
「アナグマ博士の論文は元より
他の研究者の論文も目を通している。
熱心だが狂気に近い。直後だったかーー」
レムザはある保護の子から聞いた話を語る。
イチモが保護の子と関わるなか
事あるごとにその子の生育歴や環境を
それとなく聞いていた。
大体が対面、二人きりの時である。
また信頼関係も構築されており
子供たちは彼に語った。
それを端から見た子がレムザに伝えたのだ。
「誰でも踏み込んで欲しくないことがある。
当然私もだ。それを彼は信頼関係から引き出した。
そこまでする必要があるのか。
彼の目的はなんだ。
博士は気にしないとしたが、私はどこか引っ掛かった」
レムザは所長として
保護の子供たちを守る名目で、イチモを調査した。
出てくる情報は学校の様子や
成績、人柄。何も変哲もない。
穏やかそうな少年であり青年であった。
「不可解なのはそれ以前のこと。
彼がどこで生まれたかが書かれてない。
彼の両親は婚姻関係がない。
そして、彼の名前が、11歳の時に名付けられている」
「……どういうことなんだ。
イチモは、つまり、誰なんだ」
「考えられるのは、彼は
別の両親の元に育てられた。
それなら話はわかる。あくまで推測の域だ。
だからこそ、ハーク君を――」
「……あー!」
ユミナが遠くで叫んでいる。
ハークは無意識に身体が動き
その場から離れようと身を乗りだすも
レムザに肩を掴まれ引き留められる。
「……あの子は、君のなんだ?」
「わからない。けど、放っておけないッ!」
「なら、一人で助けにいけばいい!」
レムザの怒鳴り声に
ハークは圧されるも走り出す。
「……くそッ!」
ハークの背中を目で追い
レムザは壁を強く叩く。
壁には二回りほど大きな
拳の跡、そこから伸びる
複数の亀裂が残った。
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次話投稿予定は
2021.7.5(月)です。
7月からは木曜日更新を
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