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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
神鯨に、竜たちは挑む
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55/333

貫くは温かい血と、冷たい鉄槍

「ユミナ!」


ユミナは廊下に放置されていた。

廊下の真ん中。ひとり、ぺたんと

足を広げ手をついている。


「あう……、あうあー!」


その表情は恐怖にあり

涙がこぼれている。


ハークの姿を涙越しに見つけると

そちらの方へと小さな両の手のひらを向け

必死に伸ばしている。


どうやら立ち上がれないようで

手のひらをぶんぶん振っている。



ハークは急ぎ、駆けつける。


駆け出す足は、絡まりかけ

転んでも仕方ないほどだが

お構いなしにハークは、走る。



"ひゅうううううう……"


"ズドォォォォォン"


「ーー来たか。侵入者め」


二人の間、天井から落ちて現れた

ハークに立ちはだかるは

ジョーと呼ばれたゴリラ。


きっちりと締められた

ネクタイの位置を直す。


片方へと傾いた眼鏡を正し

ハークへと手のひらを広げ、構える。


ハークを捕まえんと相対する。



「ふんぬッ!!」


ゴリラ・ジョーは大きな掌を

ハークへ向けて天から叩きつける。


風圧が凄まじく、ハークは

後ろへ吹き飛ばされてしまう。


風圧に押し負け、転がりながらも

ハークは体勢を直す。


勢いを止め、いま目の前に

立ちはだかるゴリラを注視する。



「この、ゴリラ! どけぇぇぇぇぇ!」



「ならぬわぁぁぁぁぁ!」



* * * * *



ジョーの巨大な掌。


そこから精密にハークを狙って

繰り出される手指。


両の掌が、獲物を捕まえんとする

肉食獣の牙のように、横から襲いかかる。


「これが、最初で最後だッ!」


ジョーの両掌に捉えられ

ハークはその掌中へと

ガッチリ収められる。


「く、そ……ガァァァ!」


間一髪、ゴリラの両掌を

竜の腕で押し止める。


ギリギリと竜の腕に

生え揃った鱗が軋みあう。


「何たる若さ故の勢い。

 我が両掌を受け止め、且つーー」


ジョーの掌から

ポタポタと血が滴り落ちる。


ハークの竜の腕と共に

強靭で鋭い爪が、ジョーの掌を

半分まで突き刺していた。


「機転か、偶然か。

 我に一矢、いや一爪(いっそう)報いたか。

 だが、若さ故に、詰めが甘い!

 我が掌は、主を守る盾なり!

 それを、子竜の爪では、穿(うが)てぬッ!」


ジョーの掌に力がいっそう入る。



「グ、ギ、ギ……、ガァァァァ!」


ハークが押し潰されるその瞬間

ジョーに向かって身体をひねり出す。


ハークの竜の爪は

ジョーの両の掌から飛び出す。


まっすぐ、ジョーの胸ぐらに潜り込む。


「ムッ!?」


一瞬の理解へ、頭を使うジョー。


ハークを払い除けようと

行き着くまでのその間。


「ガ、アァァァァァァッ!」


ハークは爪を立てて

ジョーの上から下へ

前身にX字で斬りつけた!


「ウォォォォォ……!?」


傷を押さえるジョーの掌は

真っ赤に染まる。


溢れ出る血は

心拍の高鳴りを現しながら

外へと吹き出た。


「これしきを……

 越えられぬ我では……っ?!」


ジョーは身体を

少し動かしただけである。


しかしそれが

あまりに派手な動きと

言わんばかりに血が吹き出す。


ピタリと動かなければ

血はそう多く出ない。


あまりに出血量がおかしい。


ジョーは傷を確かめつつ

目の前の子竜を凝視する。



「何を……、何をした……!」



「ギャアァァァァァァッ!」


半竜ハークは雄叫びを上げる。


前に体勢を倒し、その勢いそのまま

ハークはジョーのX字の胸の傷に潜り込む。


ジョーが掌でハークを潰そうと

したのと同じように

ハークは己の竜の腕を突き出す。


ジョーの心臓に向かって

腕を力の限り、突進する。


「ッ?!」


ジョーの掌には捉えられなかった。


ただ自身へ突撃する弾丸の様。


子竜は、そのちいさな少年は

疾駆する。



心臓は、貫かれた。



* * * * *



流れ落ちる血は

床を赤く染める。


少し動くだけでぴちゃぴちゃと

その事実を確実の物とする。


ジョーは片腕だけ動かし

ハークの両腕を掴む。


しかしその力は弱い。


ずるりと前に倒れるジョー。

ハークは腕を振り払い

ジョーの最後を見届ける。



ハークはそのままユミナの元へ歩き出す。


一歩一歩踏み進める度に

ハークの体は元に戻る。


「うああぁーっ!

 ……あ、あうー!」


ユミナはハークの姿を

見つけると泣くのをやめ

嬉しそうに手を伸ばす。


「遅く、なった。

 ユミ、ナ」


ふたりの手が触れるその瞬間

ハークは背中に重く

冷たい物が突き刺さる。



鉄の槍。



表面に装飾の施された

見目麗しい鉄槍が

ハークの前身から

顔をのぞかせていた。


ハークの背から

心臓を貫き、胸を貫通する。


ハークは内から伝わる冷たさに

そのまま身体が止まる。


まるで内から凍ったようである。



「ーーごめんよハーク君。

 けどね、君を得るためには

 目的のためには、こうするしかない」


鉄槍の主は、イチモ。


ロニィの居た村の村長の、鉄に似た代物。


突きさす瞬間も、突き刺した後も

落ち着いた様子で、ハークへと話かける。



「ーーくそっ!

 ハークッ!!」


一歩遅れ、レムザが現れる。


イチモへと腕を伸ばしたーー

ここまで読んで頂き

ありがとうございます。


続きます。

次話投稿予定は

2021.7.9(金)です。


今回より木曜日投稿から

金曜日投稿に変えます。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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