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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】だって愛し、愛されたい
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332/333

真なる鴉の叫びは誰にも届かない

青髪の放つ白炎を辛うじて受け止めるハーク。

その勢いが落ちるその時、すかさず鉄槍に雷を纏わせる。

竜の腕でガッシリ掴み、大きく薙ぎ払って打ち消して見せると

お返しとばかりに一気に大きく振り下ろし、雷を纏うX字の風刃を飛ばす。


「(――速いッ!?)」


青髪は左腕の具合を確かめ、仕方なくそれを躱そうとする。

だが予測よりも速い。雷のX字風刃が青髪の身体を貫通した。


ハークはその様子を一瞬でも見逃さない。X字に斬られた青髪の姿は

がくりと力なく倒れるが、その姿はすぐ黒く塗りつぶされて霧散する。

青髪はハークと少し距離を取った場所に出現し、すぐさま左腕を構えた。


”パァン!“


「(――爆発した。避けきれなければ使うとみて間違い……ない!)」


唸りを上げる鉄機関砲オーダに、ドクドクと血液が流し込まれていく。

刺青が到達する瞬間、左腕は白く輝き始める。


「(ダァーッ! 左だ! 左に攻撃を集中しろ!)」


キーンの指示に、ハークは竜の足で一気に接近する。


「だろうな。……だが俺の力は鉄機関砲(これ)だけじゃない!」


襲い来るハークの目と鼻の先へヒュンッ! と発射される何か。

濡羽色の羽根がナイフの如く突き刺さり、その接近を牽制する。


しかしそれでもハークは止まらない。突き刺さる羽根を踏みつけ

今にも貫かんとする羽根は、着弾することなく宙で黒く焦がした。

雷の網を纏ったまま突進し、二本の鉄槍を大きく広げながら

捨て身の攻撃を仕掛けようとしていた。


「――原始的だ。トカゲらしいな!」


「……!? 止まれ、ハークッ!」


ハークの鉄槍の間合いまで迫る瞬間、鉄機関砲は一歩速く攻める。

しかしそれは先ほどの白炎が連なる螺旋ではない。

まるで大地に降り注ぐ火の雨。ハークは構わず攻め込むも、キーンは止める。


半歩引いて見えたキーンの視界には、今も羽根がハークを狙う様子が伺えた。

しかしそれらは愚直にハークへは向かわず、青髪が放つ白炎の雨の中を掻い潜る。

轟轟と燃え盛る白炎を纏い、濡羽色の羽根は勢いを増して放たれた。


「――うぐっ?!」


白炎纏う羽根は竜の鱗へ突撃する。鱗の表面を焼き払い、下の皮膚まで貫通する。

振り払うに難く、羽根の芯を辿って灼き尽くす白炎は、竜の疾駆を押し留めた。


わずか数秒、否ほんの一瞬の停止。その間に鉄機関砲は準備を整え終える。

「喰らいなッ!」と大きく叫んで放つ白炎の螺旋は、より強大となる。


「ダァーッ! ダメだ、逃げろ!」


キーンの采配は発射よりも速く、ハークは青髪の左側を位置取るように飛び込む。

ゴッ! と周囲の空気をも焦がし、放たれた白炎は水平線の彼方へ飛んで行った。


「――痛ッ!? ……クソッ! 仕留めそこなったか!」


青髪は左腕を押さえ、腕に力を込めて空転する弾倉(ブレスレット)から軋む音を打ち消した。


* * * * *


「逃げるだけか、ハーク! 弾薬も、装備も、知識も、経験も

 ……俺たちの方が何もかも上だ! 苦肉の策でそれを覆せるか?!」


青髪クラックの攻撃は激しさを増し、大きく広げた翼で空を駆ける。

鳴りを潜めたはずの刺青が左腕を覆い尽くそうとすればするほど

白炎の威力は跳ね上がっていく。


一方ハークは逃げの一手に徹していた。

鉄槍ウェネスを三つに戻し、竜の足で瓦礫を飛び越える。

襲い来る白炎をひらりと躱しながら、青髪の様子を伺った。


「(――今だ!)」


青髪の刺青が少し引っ込むその瞬間、竜の足は一気に大地を踏みしめる。

鉄杵ライゼンが唸りを上げ、加速して懐めがけて飛び込んだ。


「何を、企んでいる!」


鉄槍をひとつ構え、またも左から接近戦へ持ち込んだハーク。

青髪は迎撃せず往なしたその一瞬、ふとハークと青髪の目が合う。

ハークの目線はすぐさま左腕に注目する。


「目障りだ」と青髪はハークの腹部めがけて蹴り上げる。

しかし雷の力が迸り、蹴りを受け止め迎撃する雷の網が張られる。

網に触れた途端にバチバチと弾けたが、青髪は眉一つ動かさない。

そんな小細工など通用しないとなかりに、そのまま網ごと蹴り上げた。


「ガハッ!?」


「隙を伺っても無駄だ! 不意打ち、挑発などもう効かない!

 ……お望み通り、威嚇攻撃ではない本(・)物(・)を見せてやるッ!」


ハークは空高く吹き飛ばされる。その先には大きな黒鴉が形を成して待ち構える。

大きく哭いた黒鴉はハークを両の手足を両爪でガッシリ掴んだ。

ギリギリと力いっぱいに、ハークを胴を境に引き千切らんとする。

しかしハークは鉄杵を出現させ、バリバリと雷を纏ってみせる。

だが鴉の足には全く効かず、ただただ雷が弾け飛ぶだけで力は弱まらない。


必死に抜け出そうと抵抗するハークを狙いすまし、青髪は翼を広げて迫る。

これでは一方的にやられる。しかし今ここは空中、振り払っても落下するだけだ。


迫る青髪の左腕に白炎。それを発射せず、なんと大振りの両刃剣が如く形作る。

翼を大きく空を押しやり、右手を添えて構えながら一気に加速する。

黒鴉ごと一刀両断するつもりだ。――やられる。そうハークは感じ取り

やむを得ず鉄槍を手に取り、竜の鱗を身体中に纏って受け切ろうとする。


「ダァーッ! 下へぶっ飛べッ!」


“ガァァァァァ――ッ?!”


「ゔゔゔ……ゔッ!」


キーンの声。それと同時に黒鴉が突然叫び出し、足が少し緩んだ。

ハークの腹部がもぞもぞとうごめく。ユミナが低く唸りながら威嚇している。

服の隙間からユミナが息を吹くと、それが黒鴉の足に触れた途端

ボトボトと泥のように零れ落ちる。「ありがとうユミナ」と頭を撫でてやり

黒鴉の足を蹴って、ハークは地上へ向かって跳ぶ。



「――何だと?」


白炎が象った剣による一撃は、悶え苦しむ黒鴉を一刀両断した。

斬られた鴉は絶命し、白炎によって灼かれながらトドメを刺すに至った。


地上へ脱したハークは、服の中から自分と似た青髪の赤子を撫でていた。


青髪は黒鴉の様子を今一度確認する。なぜか鴉の足が形を保てずにいる。

それが雷による攻撃でも、竜の手足による裂傷ともまた違う。

壊死ではなく、まるでその一部だけが力が行き届いていない。

まだこの力を使いこなせずにいた頃と似た有様であった。


「(――あの赤ん坊の力か? ……聞いたことがない。

 他者を治す力か、それとも時間を戻す力。いや、真祖のとはまた違うな。

 ……妙だな。そんな力があるなら、主使の奴が血眼になって探し回るはずだ。

 ……いや違う。主使が見逃すはずがない。なら、泳(・)が(・)せ(・)て(・)い(・)る(・)と見るべき、か)」


青髪クラックの頭は、一瞬にしてあらゆる算段を打ち出す。

徹底的に且つ、圧倒的な実力差を見せつけた上で、ハークを殺す。

宿っているトカゲももれなく殺す。絶えず回る口をつぶしてやる。

そしてあの赤子は生かして捕らえる。それが叶わずとも、力さえ奪えばいい。

――だが焦るな。鴉の様子を見るに、自分自身が食らっては元も子もない。

腹の赤子に注意しつつ、ハークを圧倒しなければならない。


――ならやるべきは奴らの得意な接近戦(インファイト)に持ち込ませない。

此方の方が遠距離での攻撃が得意だ。それを押しつければいい。

槍や雷の当たる間合いへ詰めさせず、こちらの長射程(アウトレンジ)を押しつける。

予備の装備に手を付け始めている。向こうで戦っているのを呼ぶわけにはいかない。

まだ力の余韻が残っている可能性があるがやむを得ない。

こいつを糧にし、慎重にかつ一気に畳みかけねばならない。


青髪は崩れ去る鴉の足を羽根で切り落としてやると、右手を掲げた。


* * * * *


「ありがとうユミナ。お陰で助かった」


「うー! ふー!」


久しぶりに活躍し、ハークに撫でられてユミナは上機嫌であった。


その時、近くでボトっと何かが空から降ってきた。

ずるりずるりと崩れ落ちた黒鴉の足。それはまだ完全な状態を保った部分を

多めに残したまま落ちてきた。


「――ッ!? 見ろ! 奴はあれを取り込んでいやがるッ!!!」


ハークは見上げる。白炎の剣で斬られた黒鴉が、青髪の右腕に吸い込まれる。

その質量をそのまま丸呑みした様子で、右腕が異様なほど肥大化した後に

青髪の中心へと収まって消えていく。


ずるりと翼が生み出され、濡羽色の四翼を背負いし黒き死神が空より現れる。


「――叫天(きょうてん)……慟薙(どうち)ッ!」

ここまで本作をお読みいただきまして

誠にありがとうございます。


作者、諸事情により投稿がかなり遅れまして申し訳ございません。

またそれに伴いまして、一週お休みさせていただきます。


続きます。次話投稿予定は

2026年7月24日(金)……翌25日(土)あたりです。


お楽しみに。


追記:25話改稿のため、2026年8月7日より一部台詞を変えました。

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