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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】だって愛し、愛されたい
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333/333

帰ろう。そして、謝ろう

「――叫天(きょうてん)……慟薙(どうち)ッ!」


黒鴉を取り込み、濡羽色の四翼を背負う死神(クラック)は左手を掲げる。

大きく羽ばたかせて羽根を散らし、それらを規則正しく宙に並べあげた。

死神の左手に白炎が灯ると、地上へ向かって大きく薙ぎ払った後、天へ掲げる。

炎は羽根へ灯り、白と黒とが入り混じりて輝き、その先は地表へ向けられた。


「――降り注げ、焼き尽くせ、そして……奴らを跡形もなく、消せッ!」


目標、竜騎士ハーク。その他二名。左手が振り下ろされる。


その一帯へ向かって、白き火雨は絨毯爆撃の如く降り注ぐ。

それがハークが竜の足や雷の力で、どれだけ逃げようも叶わないほど。

まだその近くで黒鴉と戦うナギたちを、赤髪ウォートらをも飲み込むほどを。



それらが降り注いで焦土と化すには、まだ幾ばくかの猶予はあった。

案の定、ハークは竜の足で駆け出そうとするが、端まで並んだ白炎は広すぎる。

炎の勢いは凄まじく、まるで太陽そのものが迫るほどの熱を帯び

限界まで周囲の空気を焼き、海面がふつふつと蒸発していく様子が伺える。

周囲にはコンテナあれど、熱により天面から溶けて流れていく。


最後のあがきか、ハークの竜の足が一歩前へ踏み出そうとした。

その瞬間、ぐらりと体勢を崩す。青髪はその隙を見逃さない。

おそらく白炎を纏った羽根が、身体の奥深くまで突き刺さったからだろう。

今になってようやく足を挫くに至った。頭がぐらりと揺れ、その場に膝を突く。

しかし槍を杖代わりに耐えていた。休ませてはならない。やるなら今だ。


「――これで最後だ! 俺たちが……、いや俺(・)が(・)お前よりも――ッ!」


ハークを逃さないために、端から中心に向かって火雨を降り注がせる。

しかしハークが逃げる様子などない。この状況でも何か策があるのやもしれない。

警戒を怠らない死神に、地上の竜は突然大きく声を張り上げた。


「――レムザさんは、二人をずっと探していた! 仕事中もずっとだ!」


――レムザが?

何を話すかと思ったら、そんなことか。今さらそんな事を伝えられても遅い。

だが青髪はその事に意識が向いてしまい、ハークから一瞬目を逸らしてしまう。


”ダンッ!"


竜の足に雷が纏われ、大地を踏みしめて一気に飛び上がった。

鉄杵が唸りを上げ、背に備えた鉄槍へ雷を迸らせ、その勢いを加速させる。

まるで天へ上る竜の如く、空に鎮座する死神(クラック)めがけて突っ込んだ。


「俺に一通りの仕事を教え終えたら、次は二人の番と決めていた!

 ベルードの時もそうだ! それにレムザさんひとりで全て仕切っていた!

 ひと段落してから、二人をしっかり育成したいと言っていた!

 ――レ(・)ム(・)ザ(・)さ(・)ん(・)は(・)嘘(・)を(・)つ(・)か(・)な(・)い(・)! お前たちが一番知っているだろ!」


「――ッ!? ……そんな事、いくらでも言えるッ!」


雷竜ハークの疾駆を、死神は紙一重でかわして見せる。

だが振るった鉄槍の先が、死神の顔へ真っすぐ縦一閃を刻み込む。

死神の左目を切り裂かんと迫ったが、間一髪で神はそれを乗り越える。


「お前がそれを言って何になる!? 知ったような口で言うんじゃねえッ!」


死神は左手で雷を蹴散らそうとするが、この世界に雷を捉えるもの等いない。

死神はハッと気づく。この間合、雷竜ハークの得意とする接近戦の距離である。

だが地を行く竜に変わらない。どれだけ飛ぼうと、すぐ地上へ引きずり戻される。

だからこの一瞬にすべてを叩き込むつもりだ。死神は距離を取ろうとした瞬間

ハークの着るパーカーのフードが大きく動き、中から何かが躍り出た。


「ダァーハハハッ! あ! おい見てみろ! レムザの奴だ!」


キーンだ。突然大きな声で死神の左眼下である地上を指し示した。

左を狙う――否、右か。左を狙い続けて、今になって右側を攻める作戦だろう。

ならば望み通り向いてやる。しかし鉄槍の間合いから離れた後に、だ。


「――ダァー、頭が良くて助かるぜ」


小竜(キーン)の口がそう動いた瞬間、咄嗟に差し出してしまった右腕に激痛が走る。

それに驚く間もなく、今度は焼けつくような熱さと痛みがやってきた。

もはや右腕の痛みなど久しぶりであり、血の通う感覚が嫌でも肩へ伝う。


何事だ。死神は急いで右へ目を移すと、ハークの服の下から顔を覗かせる赤子。

あいつだ。小竜が左へ注意を向けさせ、そのわずかな間に赤子の力を使い

もはやとっくの昔に使い物にならなくなった死神の右腕を治(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。


「俺は昔の研究所の事は知らない! 仕事のことだってまだ全部知らない!

 だ、だから……二人から、俺に教えてほしい!」


鉄槍一閃を放った勢いを失わせることなく、ハークはそのままくるりと体勢を変え

距離を取り始めた死神へ向かって真っすぐ急加速する。

あまりの急旋回に、鉄杵がガタガタと軋む音を響かせ始める。


「ふ、ふざけるな! 殺そうとした相手に何を言ってやがる!?」


右腕に走る痛みを堪えつつ、左手に纏った白炎で迫りくる雷を打ち払おうとする。

しかし突然予想もしなかった話を振られ、死神は冷静さを一瞬だけ欠いた。

懐へ潜り込まれ、もはや雷竜の土俵へと持ち込まれてしまう。

鉄槍の先は死神に向けられず、その柄で死神に向かって叩きつけられる。

死神は左手で受け止めるも難く、とうとう腕輪(マガジン)にぐしゃりと亀裂が走る。


押し返そうと力を込めるも、ガクリと突然身体が重くなる。

またあの赤子かと脳裏を過るも、ハークの背に映る光景でハッと気づいた。

あれだけ空に並べたはずの火雨が燃え尽きて、塵となって霧散している。

それは地上で戦う鼠らが優勢となり、倒したカラスたちを取り込んで数を増やし

大きな団扇に姿を変え、ぶうんぶうんと吹き飛ばしていた。


もう一度展開すればいい。そう高をくくった死神だったが、力が入らない。

背に感じる違和感。黒鴉を取り込んで成した四翼が小さくなり、消えかかっていた。


ハークの攻撃の手を緩めない。一度鉄槍を仕舞い、振り被った瞬間に再出現させる。

大きく振り被り、天から地へ向かって死神の左肩めがけて叩きつけられる。

捉えた。鉄杵は最後の力を出し惜しむことなく、ありったけの雷をハークへ注ぐ。


「――帰ろう。そして、レムザさんに謝ろう」


雷竜は死神を叩き落とす。鉄杵が唸りをあげて尚加速する。

死神の四翼は消え去り、左の腕輪がとうとう壊れて青髪から零れ落ち

そこに残ったのは、濡羽色の髪を持つ少年クラックただ一人であった。


* * * * *


「――あ”ぁ”!? あいつら落ちて来るぞ!? 間に合わねぇ!」


「な、ならば私が――!」


「お待ちを、キャサリン殿。ここは私が――!」


「おいおいガライ。そんな状態で彼らを助けようだなんて、自分の状態を省みてから言いなよ。ああっと女王様。貴方が元・同盟相手をも心尽くす御方なのは承知ですが、残念なことにその御靴(ヒール)では間に合いません。貴方には治癒(ヒール)が似合いますので、代役を立てましょう。……という事で、ナギ君。君が言ってくれたまえ」


「あ”ぁ”? テメェの目は節穴か? ……俺も満身創痍だっつぅの!」


「――む。弟子よ。行かずとも良さそうだ。見よ、向こうを」


地上へ落下する二人の少年へ誰もが走って助けようとする中

海岸線から姿を現し、煙草を吸いながらゆっくりと歩いてくる男ひとり。


ひどくずぶ濡れで、クタクタとなったスーツに身を包んだその男。

髪を後ろへまとめるも所々からハネて、いかにも満身創痍なレムザであった。


「――何とか引き止めてくれたか。……流石に最後までは難しいか。

 ……部下のカバーは、上司の務めだ。ギリギリ間に合うな、イズモ?」


その問いかけに応えるように、レムザの背後から何本もの触手が伸びる。

互いに互いを絡まりあい、それらが合わさっていくと大きな触腕となる。


”ドォンッ!“


雷竜と少年が地上へ激突する寸前、触腕は見事二人を受け止める。

あまりの衝撃の為、受け止めて尚衝撃はすさまじかった。


「(一時はどうなるかと思ったが……うん?)」


触腕の様子がおかしい。受け止めた先からしなやかさを失って

ギクシャクと角ばってレムザの元まで伝播していく。

煙草を持つ指先から、鼻先から異様にヒリヒリする感じがやってきた。

それがパチッとした音がすると、レムザの身体が凍り付いた。


「――部下の攻撃を食らうのは何時以来だ? ……ベルードか、ナギか」


触腕に電撃が走る。ビリビリと迸らせながら伝ってレムザへたどりつく。

ずぶ濡れのレムザの身体に雷が走る。ドォンッ! と再度大きな音を発したが

レムザの骨格が一瞬だけ透けて見えるも、すぐに消え去って終わる。


身体中から煙が立つも、何事もなかったかのように再度煙草を取り出そうとする。

ライターに手を触れようとした瞬間、指先から電気が走ったために止めて

試しに煙草の先へ指先を近づける。放たれた電気は煙草の先をサッと燃やした。


「――はぁ。電気式着火具(ライター)は初めて、だな……」


震えながらも煙草を一口吸った後、後ろへ力なく倒れるレムザ。

あまりのことに整えた黒髪は堰を切ったように解け、赤髪へ一時的に戻る。

残り少ない力を振り絞った触腕が辛うじて受け止め、ゆっくりと下ろしてやる。

雷竜ハークたちも下ろすと、触腕はサッとどこかへ消えてしまった。


負傷した三人を助けんと陸地から、海から、また空から人々が駆け寄っていった。

ここまで本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。

作者の心身ともに不調のため、投稿を二日ほど大きく超えましたことを

心よりお詫び申し上げます。


なお今話を持って、勝手ながら25話を終わりとさせていただきます。

次回より26話開始予定です。事後報告となり申し訳ございません。


続きます。次話投稿予定は、26話を大まかに練るため

2026年9月辺りとさせていただきます。

詳しい日付はタグ内や旧Twitterなどで追ってお伝えします。


大変お疲れ様でした。それでは次回もどうぞお楽しみに。


追記:来月9月再開に加え、当話投稿後にどうしても気になる点があり、再開と並行しながら大幅に改稿します。当日にお読みいただきました方々、本作を長くお読みくださった皆様、大変申し訳ございません。もうしばらくお待ちください。


追記2:作者の諸事情により、急きょ全創作活動の停止及び

本作を無期限の休載と致します。申し訳ございません。

再開など、旧Twitterおよび当サイト内にて報告させていただきます。

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