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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
25話(仮)
327/328

つかえるものは和を重んじる

「……おのれ野良犬、おのれ若を挫きし者めがッ!」


レムザたちを逃さんと、ゴコウは残った子供らを指揮する。

手始めに、倉庫出入り口にまで伸びた二階部分へ、酸弾を叩き込ませた。

あちこちに着弾し、ガラガラと瓦礫の山となって出入り口を塞いでしまう。


「あぁ、あぁ、手勢をこうも……。この始末、貴様らの躯体だけでは済まさんぞ!」


ハチの一撃は重く、食らった部分を押さえながら、ゴコウは具合を確かめる。

先程の咳込みとは違い、いくらか慣れた様子でバキボキと鳴らした。

バラリと外れて落ちた黒鎧は、まるで時間を巻き戻す様に元の場所へ帰っていく。


「げほっげほっ! も、もうちょっとだったのに……! ち、ちくしょう!」


ナイフを持つ手に力が入る。手の甲から腕、額へビキビキと血管が浮き上がった。

ダルドはギリギリと歯を食いしばり、ガリガリと首元を掻きむしっている。

真っ赤に染まる目をレムザたちへ向ける様は、とても先ほどの人物とは思えない。


「若、ご安心くだされ……ッ! この通り、こちらの手勢は()()()()()()故。

 それに、ここは若自慢の工房。ここでは若が一番知り尽くしておりましょう」


「ーーそ、それもそうか。そうか……そ、そうだよな。ここは僕の工房だった」


「それでも彼奴らが上回ろうが、若が収めます品々を用いれば宜しいかと。

 彼奴等を倒せばきっと……、若――?」


少し冷静さを取り戻したダルドは、自らの工房である倉庫内を今一度見渡す。

長さに大きさ、貼られたラベルなど違うコンテナにドラム缶、木箱が並ぶ。

ふと倉庫内の一角に目を留める。まるで何者からも隠すようにあるそれ。

真正面に相対するレムザたちのすぐ近く。小さなドア付きコンテナに目を留める。

ハッとダルドは何かを思い出し、思案し始める。


「(流石は若。このゴコウが仕えるに相応しい御方。これぞ我が望み。

 少々、御心に難あれど、それでも他を聞く耳をお持ちであられる。

 ならばこのゴコウは、若の輝かしい道をお守りするが役目……ッ!)」


ゴコウがすぐにもレムザ達を仕留めんと振り返ったその時。

足元のすぐ近くで何かがぶつかった。ゴコウが食らった体節の主である子である。

だらんと力なく、もう息はしていない。ただの骨肉の塊で、涙が流れたまま。

その子を助けたい一心であろう他の子らが、ゴコウへ鋭い視線を向けた。

しかしそんな事などつゆ知らず、何のためらいもなくゴコウは口を開ける。

するりと吸い込まれる。ぐしゃり、ぐちゃり、バリボリと恐ろしい音だけが響く。


「……何を見ておる。お前たちの躯体は、元はと言えばこのゴコウの物。

 若のご慈悲を無下にし、お前たちが逃げ、裏切ろうものならと

 若は心を鬼にして力を振るわれたのだぞ! 全く何時になったら理解する?

 若のお力をほんの少しお使いし、お前たちはこのゴコウが力の一端を使える。

 光栄なことなのだぞ! さぁ分かったらとっとと支度し、奴らをぶちのめすぞ!」


レムザから奪った輪切りの太腿を、ゴコウは空の体節にあてがう。

するとみるみる内にゴコウの一部に変化する。ほぼぴったりに収まると

身体をうねらせ具合を確かめる。どうやら思いのほか馴染んだようで

先ほどよりも動きにキレがあった。


「おお! やはり若くて手練れの肉体は違う! 節々の痛みが軽く……。

 ……む! ふぎぃっ!? あぁっ!? まだ痛む?!」


* * * * *


「あんな術は見たこと無か」とハチが小さくこぼす。

ならガライの話通り、ダルドの持つナイフが原因だとレムザは予測する。

続けて、ゴコウもしくはダルドの手中に、自身のわるいこの関係者がいるはずと話す。


「もしかして力が使えない理由が、あいつらに奪われたワケで……?」


「ーー俺としたことが、油断していた。あまりに突飛な話だ。

 奴らに捕まるならまだしも、力を奪われるとはその時まで考えもしない。

 ……リーダー・ルナードの件があるにしろ、だ」


ダルドらの側に六名。逃げ遅れたよりも、別の理由が見て取れる。

酸弾がかすった子らに加え、ベルードたちがやむを得ず峰打ちした子など様々。


ゴコウらは体勢を立て直したのか、すぐさまレムザたちへ酸弾を撃ち込ませる。

ならばとハチは出入り口を塞がれたのを真似て、二階部分を直刀で斬りつけ

ガラガラと瓦礫の壁を作り出した。「ええい小癪な!」とゴコウは撃ち続けさせる。


「ーー酸弾があちこち飛んで、毒が強まっとる。視界も悪い。

 おいの刀でもベルードの打撃でも、壁は通らん。

 一気にケリ付けんと」


「……奴らに分がある。ダルド本人の工房で、何処に何があるかは当然。

 それに、どうも向こうは余裕がある。悠長に子供たちを操っては

 酸弾で狙い撃つばかりだ。あのゴコウが急襲、なんてマネはしない。

 ずっと後方から指揮ばかりで、俺の足をる時だけ出てきた。

 おそらく万が一を考え、絶対に前線へは出てこない。厄介な相手だ。

 ……このままではラチが明かないな」


「……今から穴掘って脱出、なんて時間ないワケで。

 毒を消し去る薬とか、救急箱とかあれば嬉しいワケでーー」


ベルードがそうこぼすと、レムザはハッと何かを思い出した。

「海運なら……」と、ふと壁に沿って置かれた棚に目を向ける。

ちょうど壁に沿った先に、埃を被った大きなドラム缶がいくつもあった。

酸弾がかするも丈夫で、貼られたラベルを一目見たレムザはピンときた。

ベルードたちにそれを指さした。


* * * * *


「ーーやけに静かすぎる。外側の者、前進しつつ様子を探れ!」


目の前の戦いに目もくれず、ダルドはただただ思案したまま。

代わって指揮するゴコウは、自身もまたジリジリと前進し様子を探る。


瓦礫の遮蔽から突然、一人が飛び出した。銀髪のベルードだ。

子供らに目もくれず、真っすぐどこかへ走っていく。


「逃がすな! 何か策を講じる気であろう! ならばそれを――!」


ゴコウの指揮よりも、走り抜けるベルードよりも速い影。

ギラリと直刀を構え、突風がごとく走り抜ける銀狼ハチである。

ハチは直刀を振るい、その先の全てのドラム缶を串刺し、大きく斬り付けた。


「今だ! 中身が全部出る様に、ばら撒くんだ!」


「ばらまくなら、無茶苦茶に――!」


“ガンッ! ガタンッ! ガコンッ!”


遮蔽からレムザの声。ベルードとハチは積まれたドラム缶を打撃で崩す。

ガコンッ! ガタンッ! ゴトンッ! とドラム缶はバラバラになり

勢いよくゴロゴロと倉庫内のあちこちへ転がっていく。

するとドラム缶からドボドボと液体がこぼれ、倉庫内の床をほぼ埋め尽くした。


「うわっ!? な、なんてことを! とうとうヤケでも起こし……。

 むむ!? ど、毒が弱まっていく!? これは一体!?」


「――海運なら、扱う品々によっては必要な代物がある。

 特に危険物や薬品類を扱っているなら尚更。ここの流通リストは調査済みだ。

 商会と手を組んでいる以上、この大陸でもかなり強力なのを置いてあるだろう。

 その危険物と同等かそれ以上の毒なら、雑だがある程度は弱めることが出来る。

 海運なら備蓄してあるよな? ()()()を――!」


流れた中和剤が酸弾を呑み込み、倉庫内に漂っていた毒と混ざりあう。

互いに打ち消しあっていくと、倉庫を囲った壁が下りていった。


子供らの足にまで浸かると、どういう訳か身体を自由に動かせるようになった。

船用の大きな扉までも開かれ始めると、レムザは子供たちに逃げるよう促す。


「く、くそう! このゴコウの毒をも打ち消しよったか!

 え、ええい待たんかっ! 若から受けたご恩を忘れるのか!

 貴様らを生かしておいたのは、若の御慈悲であることをーー!」


ゴコウが長い身体で扉を防ぎ、ガシャンガシャンと大あごで威嚇して見せる。

子どもたちは一度こそ立ち止まる。しかし背より吹き抜ける風に押されると

子どもたちは顔を上げ、改めて駆け出した。


しかしゴコウは逃げる子供たちに気を取られて失念していた。

転がったドラム缶に身を隠し、開かれる扉の隙間から差し込む光で

照らし出されるのは、二つの銀の風。


「――大丈夫! 俺たちがついている、ワケでッ!」


「自慢の毒がなければ、ただの虫一匹――ッ!」


”ズバァァァンッ!“


銀狼ハチが収め、ひらりと振るわれる直刀はゴコウの頭を切り落とす。

ベルードが打ち込む蹴りは、ゴコウの身体を吹き飛ばし、扉をこじ開けた。


「ぐはぁ――っ!」


子供たちは急いで倉庫を出ると、水平線の向こうに何隻かの船が見えた。

倉庫の方へ目を凝らし、事態を察知して大きな旗を振って指し示すのは

どうやらアンバーグラス重工が現場監督のロバートであった。


* * * * *


ゴコウの身体は海へと放り出され、鎧の重さからブクブクと沈んでいく。

その場に転がったゴコウの頭は、まだピクピクと動いていた。


「これで何とか無事――」


ベルードの表情が少し和らぐ。ハチは直刀を静かに収めた。

倉庫にいるレムザを呼ぼうと振り返った、その時。


”ブンッ!”


二人の間を、転がっていたはずのドラム缶が勢いよく吹き飛んできた。


二人は一瞬、忘れていた。ゴコウの宿主であるあの男を。

そして自身の工房と銘打った、一番よく知っているその男を。


今その男の手に、両刃のナイフが輝いてる。

その傍らには全く見覚えのない、灰色の長い髪の少女が一人。


「……お、お前は……!? まさか……み、『見張り』なのか……!?」


「――会いたかっただろ? 会いたかったよな? なぁレムザ?

 クレスヴェン闘争(あのひ)からはぐれて、必死に探したんだろ?

 でも見つからなかった。……そりゃあそうだ! 見つからないよ!

 この僕が、お前たちレッド=アシッドの汚い手から助けてあげたんだ!

 あんな所にずっといたら、君の美しさは()()()しまう!

 ……僕なら、この僕だからこそ、君の輝きを一層引き立たせることが出来る!

 そのために僕はここまでしてきたんだぞ! この僕が、ここまでね!

 で、でも時々思い出してたからさ……。嫌だったんだよね。

 ……でもこれで、約束は守ったよ? 会いたかっただろ、昔馴染み(レムザ)に。

 どうだい、僕の女神ドール? これで君は、次の神様ステージに……ッ!」


見張りと呼ばれた灰髪の少女は、レムザの身体を片腕だけで持ち上げている。

それは少女の腕にしてはあまりにも巨大。背中から生える一本の太い腕。

蟹の腕を基礎ベースに、乱雑に触手の如く飛び出すは様々な動物の様相。

ギリギリとレムザの首を掴み、今にも斬り落とそうとしている。


「――れ、れむ、ざ……? れむざ?」


虚ろな目をレムザに向ける灰髪の少女は、そうつぶやく。

視界にレムザを捉えると、その目に小さな光が灯った。


「……あ、あい……あいたかった。あいたかったよ」


「や、止めてくれ見張り! なぜこんなことを――!」


「……さみしかった。これからも、ずっと、いっしょに、いよう?」


少女の腕に力が入る。巨大な蟹の鋏が、いま閉じられた。

ここまで本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。

作者の都合により投稿を一週遅らせ、申し訳ございません。


続きます。次話投稿予定は

2026年4月24日(金)……もしくは25日(土)です。


お楽しみに。

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