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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】だって愛し、愛されたい
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326/333

卑怯者を守るは老虫ゴコウ

「――若のお命を狙うは貴様らか。ならばこのゴコウ、容赦はせん!」


ゴコウと名乗る巨大なムカデは、ダルドを守りながらレムザの前へ躍り出る。


その身に纏う黒鎧がガシャガシャと擦れあい、鈍い音を鳴らしている。

体節の背側一つ一つにびっちり付けられ、その間から細く小さくうねる脚の列。

身体を大きく見せるためか、長い胴を天高く伸ばして見下ろす。

その際に露となる体節の腹部には、幾度の戦いの証と思われる夥しい傷。

しかしレムザの目には、妙に体節一つ一つの大きさがまばらに見えた。


兜を被り、口元だけ露となった面を付ける。口元は長い白ひげを垂らし

その向こうに隠されただろう大あごをガシガシ鳴らして威嚇する。


「若をお守りするは、天より使わせし者より秘薬の密書を手に入れしこのゴコウ!

 貴様らなど、若の前に転がりし路傍が石! えぇい頭が高い!

 控えお……げっほげっほ! う、うへぇっ!? か、身体が痛む!」


意気込んで現れたものの、身体のあちこちからバキボキと軋む音が鳴る。

あまりのことか頭に近しい体節から、まるで人間のような長く細い腕が現れる。

おそらく腰辺りを叩く。あまりに人間臭い所作にレムザとベルードは首を傾げる。


「な、なんかおじいさんっぽいワケで……」


「ーーゴコウ? また厄介な奴が現れおうた」


「ええ? そんな強そうにはーー」


「応(おう)。強くは無か。厄介なのは奴の術と……、あの毒ぞ」


咳込んで吐き出される唾は、地面をジュワジュワ溶かしてみせる。

このムカデが子どもたちを操っている。レムザたちは駆け出して叩かんと迫る。


「うぇっほうぇっほ……。おおっと! 撃て撃て撃て!」


子供たちはゴコウの号令にすかさず応える。内外に分かれて指を構え、酸弾を発射する。

レムザに当たっても側を通り抜けた向こう側には、自分たちの仲間がいる。

しかし彼らはお構いなく撃ち出す。その目から涙が流れ、今にも逃げ出そうと

必死に身体を揺らしてみせるが動く気配はない。


「ーークソッ! 同士撃ちさせる気か!」


そうはさせまいと、レムザは止むを得ず攻撃を受けようとする。

しかし子どもたちはレムザを思ってか、酸弾の軌道はわずかに逸れる。


レムザを狙った酸弾は、うずくまったままのダルドの近くに着弾した。

ヒィッ! と彼が怯えた途端、ゴコウは体をうねらせて黒鎧でより頑丈に守る。

しかしその酸弾の主をゴコウは見逃さなかった。


ゴコウの体節ひとつに酸弾がかすってしまう。

ジュッと音を立て、少し焼けたような煙を立ち昇らせたと同時。

子供ひとりが悲鳴をあげた。それでも酸弾は絶えず発射される。

別の体節に当たると、別の子供も泣き叫んだ。


「ーー何だと!?」


それに驚くレムザなど気にもせず、ゴコウはわざとらしく大声を放つ。


「ーーあぁ、なんと自(・)ら(・)を撃つとは何事か!

 若のお慈悲を無下にするとは。はぁ……情けない。

 若がいなければ、貴様らなど供物にされるが、せめてもの救い!

 全く、身を切る思いでとあれほど……」


ゴコウは被弾した体節をひとつ、まるでブロックの様に引き抜く。

それを何のためらいもなく、大アゴでズタズタに引き裂き、食らっていく。

最初に悲鳴を上げた子どもが口から血を吐き、バタリと膝をついて倒れる。

すぐにも抱えて助け出さねば。レムザは振り返りたかった。

しかしその直ぐ側で、ゴコウの長い体の影が動く。


「ーーその子を助けたかろう? なら叶えてやろう。……貴様の身を以てな!」


ゴコウが食らった体節部分が、文字通り空となる。しかし体節に纏う鎧はそのまま。

するとゴコウは身体に力を込めると、なんと人のような腕を生み出す。

ぐるぐると具合を確かめると、空となった体節部分が光り輝いた。


「貴様は、そうだな。ーー足を頂こうか」


そう呟くと身体をうねらせ、腕を光り輝かせる。その目はレムザの太ももを狙う。

その場から急いで離れようとするが、足が押さえつけられて動かない。

倒れた子どもが地べたを這いずり、レムザの片足を必死になって掴んで離さない。

他の子もレムザへ向かって一斉に足にしがみつき、手を掴んで離さない。


「は、離してくれッ!」


「ほほう! これなら、まだ使ってやらんこともないぞ!」


“スコンっ!”


レムザの右太腿が、まるで輪切りのごとく引っこ抜かれてしまう。

その影響はすぐに現れ、レムザの体勢がぐらりと崩れた。

太ももを取られて尚、まだつま先まで感覚はある。しかしそれに至るはずの

引っこ抜かれた部分だけが、まるで痺れたように感覚がなくなっている。


ゴコウの手に収まり盗られる最中、レムザはちょうどダルドへ視線が向いた。

ゴコウは気が緩んだのか、その隙間から見えたのは少し起き上がった様子。

あの両刃のナイフを胸から大事そうに取り出し、握りしめている。

ナイフは輝く。ゴコウの空となった体節部分と似た光であった。


隙間越しにレムザと目線が合う。ダルドは口角を思いっきり上げ、笑った。

紫の前髪越しでもわかる、目元にはもう酷く染みついてしまったクマ。

生気のない黒く濁った眼に、ナイフの光に当てられ、わずかでも生(ひかり)が灯る。


――おまえも、僕の人形(てした)に、なっちまえ。


口元がそう動くと、レムザの視界は一気に落ちる。倒れたのを見計らうと

子供たちが覆いかぶさり、レムザの手足にしがみ付いて離さない。


「今度は利き腕を――!」


ゴコウが続けて腕を奪おうとする。ダルドは不気味な笑みを浮かべ

両手でしっかりとナイフを掴んで天に掲げる。刃はレムザの心臓を狙っていた。


「ーー今しか無かッ! 疾走れ! 駆けろッ!」


ダルドの光をかき消すような影ひとつ。輝きなどで照らされることなく

すらりと地を切り開き、すかさず天へ振り上げられるは直刀。


「レムザさんッ!」


子供たちの酸弾をかいくぐり、ベルードが狼の足で迫った。

それに付き従うは銀狼ハチ。ゴコウの腕がはらりと切り落とされる。


「斬っても死なんよな、お前は。だがその頭は――!」


「馬鹿め! たかが野良犬一匹、何が出来……ぐほっ?!」


ハチは直刀を瞬時に収め、一気にゴコウの懐へ潜り込む。

放たれるは狼の掌。下から上へかち上げる掌底の一撃。

これまでの攻撃よりもはるかに効いているのか、ゴコウの身体が震えあがった。


「うわっ!? ご、ゴコーー?!」


「余所見している場合では無い……ワケでッ!」


ベルードもダルドの目前まで迫る。狼の速さで身体を回転させ、足に力を込める。

ダルドが胸元へ掲げるナイフめがけ、真っ直ぐ打ち出される後ろ蹴り。


“ズォォォンッ!”


後ろ蹴りの威力は凄まじく、無意識に半歩下がったダルドだが吹き飛ばされる。

ちょうど後ろでハチの一撃をくらい、昏倒しかけるゴコウと激突してしまう。


ゴコウは意識を失ってしまう。ダルドを守る鎧が一転し、ガラガラ降り注ぐ。

すると、子供たちはハッと表情が軽くなる。レムザへしがみつく力が抜けていた。


「……!? は、早くここから出るんだ! アンバーグラスのロバートさんを探せ!」


レムザの言葉に、戸惑いながらも子供たちは一斉に出入口へ走った。

何者も居なくなったレムザを起し、ベルードが肩を貸す。


* * * * *


「ど、どういうワケで……っ!?」


「見たままだ。奴は、他の生き物の一部を奪っている。

 ……すまない、足をやられた。感覚が」


「……妙だ。奴は寄生して操ると聞いちょる。それで子供らを操ろうと思うたが……。

 奴め、まだ動きよるか。頑丈な奴じゃ」


ゴコウを押しのけ、脱出したダルドは急いで叩き起こそうとする。

すぐに意識を取り戻すと、改めて身体をうねらせてレムザ達を見据える。

ゴコウはすかさず子供たちへ目を移し、逃げ遅れた子を何人か引き戻す。


「……おのれ野良犬、おのれ若を挫きし者めがッ!」

ここまで本作をお読みいただき

誠にありがとうございます。

キリのよい所を模索し、投稿が遅れました。

お待たせいたしました。


続きます。次話投稿予定は

2026年4月10日(金)〜11日(土)です。


お楽しみに。



追伸:作者です。10日分ですが、どうしてもまとまらず

来週へ持ち越しとし、お休みさせていただきます。

申し訳ございません。

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