――認めてもらえるのか?
「ーーここまで来て! ここまで上り詰めて! あと少しの所でしくじった!
それがどうした。そんなのどうってことはなかっただろ!?
なのに……なのにここで止めちまうのか!? 今まで諦めなかったのによッ!」
青髪は怒りのまま赤髪を踏みつける。それに抵抗する素振りなどない。
代わりとばかりに、負傷した鼠たちが青髪から守らんと必死に身を挺している。
「お、お止め下さいませ! 騎士団長様をその様にーー!」
「ーー! ダァーッ! 疾走れハークッ! 赤髪をひっ捕らえっちまえ!」
「止せ! お前たちだけで何とかなる相手ではーー!」
「ダァーッ! シド! お前らは向こうを頼んだぜ!
……俺たちはなぁ、逃げらぁッ! 行け、ハーク! 力は温存しとけよ!」
キーンの一声にハークは竜の足となり、赤髪らへ疾走る。
それを追わんとするナギ、同じくガライだったが、すかさずシドは止める。
「奴の言う通り、二人に任せよ」とただそれ以上語らない。
不時着したキシマを回収せんとシドは残りを率いて進む。
* * * * *
「俺たちだけでどうするんだ!?」
「ダァーハハハッ! どうするじゃねえ。この時を待ってたんだよ!」
「待ってた?! あの二人となら、何度もーー」
「……よく見ろ。俺たちがどう動いたかすら、いま一切見ていない。
それに考えてみろ。なぜ奴らは敵を目の前に、いま喧嘩していやがる?
研究所から逃げて、どこぞの群れの頭になって、憧れの奴らの名を付けて
俺たち同様、鉄の武器まで手に入れた。……普通そこまでするか?
同じものを夢見て、同じように進んだだろうに……あの様だ」
キーンはパーカーフード越しに赤髪らを、竜の指で指し示す。
ハークが竜の足で地面を蹴って走っても、青髪は気づかない。
それどころか背を向け、視線は俯いた赤髪へ向いたまま。
「……あの様子だと、赤髪が折れた。その証拠に、女王自ら戦場に出ている。
ハーク、お前を確実に殺すために、あれだけ丁寧に追い詰めた奴だぞ?
それだけの威勢を持って、なぜ次の戦いで女王を差し向けた?
俺ならどんな負傷しても、テメェの勝負はテメェで決着をつける。
レムザの話と奴らの様子で、ピンときた。この中じゃ俺が一番適任だろう。
青髪を仕留めれば、レムザに二人まとめて引き渡せるぜ……ッ!」
「……俺たちだけで、青髪を止められるのか?」
「――あぁ。ハーク、俺が隙を作る。青髪が戸惑った時、鉄槍でも鉄杵でも
雷でも竜の力でも構わねえ。……奴を一撃で止めろ。二度と立ち上がらせるな」
「……分かった。合図はしてくれ」
ハークは力強く地面を踏みしめ、雷を纏って一気に加速した。
* * * * *
「ーー早く起きろッ! 女王を連れ戻して、奴らを全員縛り上げろ。
奴らから鉄の武器を取り上げ、俺たちのものにすればーー!」
青髪は赤髪ウォートを、気付けとばかりに蹴り上げようとする。
しかしその軍靴の先は、光り輝く一本の槍によって止められた。
ハークだ。竜の鱗に覆われた手足を持ち、その手には雷を纏う鉄槍を携える。
青髪をはじき飛ばす。怒りに呑まれた青髪だったが、一瞬で冷静さを取り戻す。
倒れる赤髪を背に、竜の眼でまっすぐ青髪を捉え、ハークは鉄槍を構える。
掌を握りしめ、青髪は歯を食いしばる。その腕には、あの鉄機関砲を備える。
小さな腕輪とそれに繋がるようにして腕全体を覆う刺青と化す。
「……ダァー。喧嘩か? さっきまで仲間だっただろうによ」
「ーーハーク、お前に宿っている奴か。主使から聞いている。
戦士でも騎士でもない、ただのトカゲ一匹だと」
「……ダァーハハハッ! ナメられたもんだな。相当目の敵にしてやがる。
だがお前らはそれどころじゃあない。……ハークをぶっ殺したい。
なのに片方がこの様だ。二人がかりじゃなけりゃ、ハークは倒せないもんな?
――あのレムザと同じ研究所スタッフに選ばれ、鉄の武器を使え、俺が居る。
……だがお前たちは、たかだか小せえ特殊部隊の頭になるのがやっとだ。
鉄の武器だって使いこなせない。その証拠に、威嚇攻撃で精いっぱい。
俺たちに致命傷すら与えてない。だからお前たちは奇襲と言葉を選んだ。
……違うか? そうしないと、勝てないもんな。二人がかりでようやくだろ?」
小竜の言葉はただ愚直なまでに鋭い。青髪の神経を丁寧に逆撫でる。
ハッタリだ。挑発だ。奴の十八番だ。主使はもとい、それまで集めた情報から
相手の冷静さを失わせ、判断を狂わせ、有利な状況へ持ち込むのを得意とする。
これほど敵に回すと厄介な相手はいない。青髪はキーンの言葉を真に受けない。
「――俺に挑発は聞かない。ウォートを人質にしても無駄だ。
鼠どもを従わせるのが女王、ウォートだけとは限らない」
青髪は左掌を掲げ、ハークへ向ける。刺青がひとりでに動き出した。
それはあの鉄機関砲と接続された太い管のように脈動する。
腕からは大きな水蒸気を立ち昇らせ、あの銃身が回る駆動音を響かせる。
力を込める掌を、深紅のごとく真っ赤に燃え上がらせた。
「二人まとめて殺す。赤髪が居なくても、レッド=アシッドは不滅だ。
俺が、俺として生きて、俺たちを証明すればいいッ!」
「――それで、レムザニットに認めてもらえるのか?」
キーンは姿を現し、青髪へ向かって静かに、ハッキリとそう言い放つ。
それは青髪の鉄機関砲の音にかき消され、自身に視線が向けられなくとも
その目でしっかりと分かるように、ゆっくりと口にする。
――今だ、ハークッ!
ハークは雷を纏う。鉄杵が唸りを上げ、三本の鉄槍を背負って加速する。
青髪の懐へ潜り込む。あるはずのない四本目の鉄槍が竜の手に現れる。
一瞬反応が遅れても尚、青髪は冷静に左腕で払おうとする。
しかし鉄槍を弾き返すことすらできない。
青髪の左腕と心臓を、鉄槍ウェネスが貫く。
ここまで本作をお読みいただき
誠にありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2026年3月27日(金)~28日(土)です。
お楽しみに。




