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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】だって愛し、愛されたい
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323/333

王国滅亡と絶交

――奪(と)ったッ!


迅雷を纏いし竜は、眼前の女王から王冠の方を奪い取る。

女性の頭に乗せるには丁度いい大きさではあったが、異様にずっしりと重い。

キアロの見立て通り、どれも緻密かつ寸分狂いなど無い装飾が目につく。


しかしハークがそれを手にした時、何やら違和感があった。

それがキアロやシドの言う通り、本当に鉄の武器なら何となく分かる。

南西部で青髪レドニスに鉄槍ウェネスを砕かれ、破片となったそれらを掴んだ時。

監獄島グレイ・ドルヴァスで、空から降ってきた鉄杵ライゼンを手にした時。

それらとは違う。見た目はそう見えるが、いざ手にしてみればよく出来た偽物。

本物は別にあり、それを元にそっくりそのまま真似たと言って良い。


「ダァーハハハッ! ぶっ壊しちまえ! そうすりゃーー!」


「ーーこれは鉄の武器じゃない! 偽物だ!」


周囲にも通る大声でそう答えたハーク。その声はナギたち、ガライたちにも伝わる。


「いやぁ参ったね」と申し訳なさなど微塵もなく、カラカラと笑うキアロ。

「笑い事では……ッ! ……はぁ、信じた我々も我々か」とガライは呆れた。


一方ナギは怒り、隠れたシドをつまみ出し「ジジイ、間違いじゃねぇか!」と詰める。

「……すまん」とただひと言返し、ならどうすると再度周囲を見回す。

すると、ヒュウっと背から海風が吹き抜ける。きゅいきゅいと小さな鳴き声。

ナギとシドは女王から一度目線を外して、すぐさま海の方へ振り返る。



「ーーな、なにぃッ?! じゃあ、半冠の方か!?」


ハークはすぐさま女王の頭上へ目を移す。すると手にしたはずの王冠が軽くなる。

同時、女王の頭に奪ったはずの王冠が元に戻っていくのが見えた。


「ーーお見事です。騎士団長様たちと近しきお力、大変素晴らしい。ですがーー!」


倒れたはずの女王は、まるで踊るように慣れた足運びで体勢を立て直した。

続けて、襲いかかったハークの身体へその白き細腕を添える。

迅雷の勢いを殺さず、そのまま方向のみ操りながら、くるりと投げ飛ばす。


「お、おおお!?」


「避けられなーーッ!?」


その先には、白き鎧騎士ガライが真正面に立つ。両者が互いを認識し避けるより速く

女王は華麗な手さばきで激突させた。


「私には譲れないことがあります故、ご容赦くださいませ。

 ……どうかお話しください。我が騎士王ポチョムキンはーー」


乱れたドレスを整え、くるりと翻ったその時。女王の頭上から、ピシリと大きな音。

ハークたちが目を向けると、あの王冠を天からまっすぐ大きな亀裂がひとつ走る。

それはハークが掴み、握りしめた部分ではない。その音は間近の女王には届かない。

土に根を下ろす植物が如く、亀裂は王冠を覆い尽くし、遂には甲高い音と共に壊れた。


「ーーあら? いったい何の音でしょう」


女王は辺りを見回す。此方へ目を丸くするハークたちの目線から

ようやく自身の頭上の違和に気づく。髪にこぼれ落ちた小さな破片を指でつかみ

突如として吹き荒んで抜ける海風に、王冠だったものの名残が飛んでいく。


「ーーあぁ、あぁ、あぁ。王冠、王冠が……」


西へ。大陸北のクレスヴェン山脈へ運ばれるそれらは、女王の元から離れる。

はるか彼方まで運ばれて破片は塵となり、虚空へと消え失せた。


* * * * *


“カァーッ!”


女王から王冠が失われたと同時。戦闘機らの様子が一変する。

あちこちでカクカクと調子を崩し、互いの翼や胴体がぶつかり始める。

搭乗者らが手動へ切り替え、間隔を取ろうとする。しかしそれが戦闘機らを苛立たせた。

戦闘機らは、いやカラスたちはジタバタと体をくねらせて鼠たちを背から払い除ける。

落下した鼠たちなど気に留めず、ハークたちではなく空に浮かんだ城へ向かった。


鼠たちはほぼ地上へ打ち捨てられるも、それでもカラスに乗ったままな者がいた。

あまりにしぶといため、身軽となった他のカラスらが助太刀し

くちばしでそれを取り払い、ボトボトと地上へ打ち捨てられる。


“ガラァーン、ガラァーン……”


城から鐘が大きく鳴り響く。鈍く、空気を震わせ何者にも伝わらせるその音。

城からわらわらと鼠たちが慌てて飛び出し、一目散に地上へ身を投じた。

一匹残らず掃き出され、こぼれ落ちて打ち捨てられた鼠らは黒い山となる。

鐘の音が二つ、三つと重なり合うとカラスらはその場で旋回し、狂喜した。


これに地上へ叩き落とされた鼠たちは怒り狂い、カラスたちへ野次を飛ばす。

だがカラスたちは何とも思わない。それどころか見下すようにガァガァと嘲笑った。

鼠たちは最早これまでと互いに顔を見合わせ、一致団結して黒い何かとなる。

その意思は最前線から最後方へ、一点から一帯へ広がる。それがひとつの形となり

巨人の腕のごとく振り回してカラスたちへはたき落としていく。


「……お、お止めなさい我が民たち! そして我が同盟様たち!

 同じ平穏を志したではありませんか! 攻撃を止めて下さい!

 女王の命です、私の言葉をお聞きなさい! 皆仲良くーー!」


女王の言葉は届かない。流れ弾が女王を掠め、突如女王へ特攻を仕掛けるカラスら。

あまりの数と速さに圧倒され、迅雷ひとつ往なした女王でも太刀打ちできない。

華麗に躱してみせるも、銃弾は彼女の四肢を貫き、服を肌を掠めていく。


女王の半冠に銃弾が当たる。女王の頭より離れ、半冠にヒビが入る。

それだけは、と手を伸ばす女王。しかし彼女の足はもう立つことは出来ない。

伸ばした手の感覚は無いに等しい。カラスらの銃口は女王の額を心臓を狙い澄ます。



「――助けるべき、だよなッ!」


迅雷が疾走る。銃弾は雷の網に絡め取られる。しかしその隙間を抜ける銃弾。

女王の前に白の鎧騎士。倒れかける女王を抱きかかえ、銃弾から彼女を守る。


「一時休戦、と行きましょう!」


呆気にとられる女王を他所に、ガライに引っ付いていたキアロが顔を出す。

まじまじと目の前に現れた女王の顔をじっと見つめた。


すると女王の背後から、するりと音も気配もなく何かが勢いよく飛び出す。

ガライの首めがけて、まるで虫の鋭い顎を大きく開いて飛び掛かった。

女王を守るのが精いっぱいで、まさかの奇襲にガライはほんの一瞬反応が遅れた。


――なんだい、君らしくないねガライ? これは高くつくよ?


キアロの手にする鉄筆が少し輝く。サラサラと虚空に文字が浮かび上がる。

すると文字が紙の如く虫の顎に巻き付き、鉄筆で箒のように払いのける。

虫の顎はハークの雷の網に捕まり、バリバリと焼き焦がし、塵となってしまった。


「やぁご機嫌麗しゅう。さぞ名のある国の女王様とお見受けいたします。その美しさは夜空を彩る星々の如く。飾り立てる品々は大層素晴らしきもの。先ほど我々の無礼、お許し願います。……さて、これほど騒(・)々(・)し(・)い(・)中では、一息吐く間も在りません! ――どうでしょう? ここは一時、僕らの策に乗っていただけますかな? もちろんタダとは言いません! まずは是非とも僕の絵のモデルに……おっと失礼! 貴方の身柄をこちらの手練れたちがお守り致しましょう。その代わり、無事に助け出しましたら……お話いただけますかな? 貴方のいう騎士団長たちに、まさにいま席を外した仲間が用がありましてね? 双方ともに悪い話じゃあありません。……隣人が突然自分に刃物を向けられたら、誰だって気が動転しましょう。それに、女王様を慕います民の皆さんを指揮するのは、貴方様が一番ご存じのはず。このガライの言う通り、一時休戦と行きましょう、女王様?」


あまりの事が目まぐるしく変わったため、女王は呆気に取られてそのまま頷いてしまう。

それを言質と受け取ったキアロは、急いで真っ白なキャンバスに鉄筆を走らせ

女王へサインを求める。そこには多くの事項が書き連ねるが、女王は署名する。


「――それじゃあ女王様、まず一つ目の質問。どうすれば、この騒ぎは止まりますかな? 先ほどあの空に浮かびます城から鳴り響いた鐘の音が原因で? それとも別の原因が?」


「え、あ……あの鐘の音は同盟の証。それを何者かが鳴らし、同盟解消を偽ったかと。

 鐘を再度鳴らすか、同盟相手でカラスを従えます騎士団長様にお願いする他――」


「聞いたかハーク。君のその力なら、あの城へ一気に飛んでいけないかね? その上で城の鐘を鳴らすか、もう一人の騎士団長とやらを探して――」


「む、無茶言うな!? 高すぎる!」


「あ、あの……お待ちくださいませ! あの城には私の騎士団長様がお休みになられて――」


「……止むを得ませぬ。このままでは埒があきませぬ」


――城を落とせば良いのかッ?!


どこからか響き渡る何者かの問いかけ。それは海の方で、ナギが誰かと話をしている。

躊躇するハークたちを他所に、キアロがそうだと答える。


「聞いたか!? あの城を叩き落せ! 中に誰かいるから加減してくれ!」


相分かったッ! と一声。大きく水しぶきを上げた次の瞬間、海から何かが飛び出す。

赤黒い甲冑の、巨躯の鎧武者。その手には体躯に見合う巨大な大剣。

空高く躍り出るは鬼気迫りし武者。大剣を握りしめて城へ向かって振りかぶる。


――烈刀(れっとう)、重断(じゅうだん)ッ! 白波(しらなみ)……ッ!


武者が真っすぐ振り下ろし、そのまま地上へ落下する。

それと少し遅れて、空に浮かんだ城がピシリと真っすぐな一閃。

城は左右対称にバッサリと斬られてしまう。


* * * * *


鎧武者は切り伏せた態勢のまま地上へ落下してしまう。

そのまま膝をつき、大剣を杖代わりにし、力を使い果たした様子であった。


「……まさか、キシマか!?」


「き、キシマ殿が!? 陸では力を発揮できないにも関わらず――!」


「ダァーッ! 奴の心配よりも、見ろ! 城から何か出てきたぞ!」


斬られた城はそのまま地上へ、レックス海運めがけて落下する。

事の次第に気づいたネズミとカラスらは、戦いをやめて一目散に逃げ出した。


「あぁ騎士団長様! あぁ――」


まさか城が本当に壊されてしまうなど考え付かなかったため

女王はその場で気を失ってしまう。ガライは周囲の状況が安全と分かると

キアロを荷物のように小脇に抱え、女王を優しく片腕で抱きかかえた。


「おいおいガライ。さっき僕が居なければ君は変な虫に襲われていたんだぞ? それなのにこの扱いなのか? それに女王との正式な契約書を、このキャンバスに書き留めたんだ。ここは僕の純粋な成果として――」


「確かにそうだが、王冠が鉄の武器と見誤った件と相殺することにする」



城は落下する最中、何者かが放り出されるのをハークとナギが捉える。

力なく落下するは赤髪のウォートと、今に空を飛ばんとする青髪のクラック。

赤髪は何やら黒い何かのようなものに身体を預け、ぐったりしている。

一方の青髪だが、隣にいる赤髪とは妙に背丈が違う。


青髪の爛れていた顔は名残として残るも、すっかり赤みが引いていた。

左顔面を覆うカラスの羽は、目元を隠す長い髪に置き換わっている。


――ッ! ――? ――ッ?! ――!


青髪はウォートへ怒りのまま、何かを言い放っている。

それに答えることも、反応すら見受けられない。


城は地上近くまで迫ると、なんとそれまであった城だったものが

サラサラと黒い煤の如く綺麗さっぱり霧散してしまう。

地上へ叩きつけられる赤髪は黒い何かによって無事に着地し

青髪は纏ったボロボロのローブから翼を広げ、ゆっくりと地上へ降り立つ。


「――てめぇの夢は、そんなものだったのかよッ!」


動かない赤髪の頭を、青髪は思いっきり蹴り上げた。

ここまで本作をお読みいただき

誠にありがとうございます。


突然の予定変更と長い休載、申し訳ございません。


続きます。次話投稿予定は

2026年3月20日(金)辺りです。


お楽しみに。

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