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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
半竜は、歩き出した。
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怒りが、時に道を開く

暗い倉庫内をハークは文字通り

手探りで進んでいく。


倉庫の二階の床を一歩一歩進む。

潜り込んできた窓から差し込む光に

ホコリが舞い、照らされる。


「ゲッホ、ゲホ……。

 あぁ……くそ、ホコリっぽい。

 しばらく掃除していないな。

 息、しづら……。鼻が」


ハークは極力声を出さないため

かつ息を確保するために

ゆっくり且つ口と鼻を押さえる。


“キーン……”


「ん?」


足先に何かがぶつかる。

わずかな光を頼りに目を凝らす。

どうやら木製の階段のとっかかりのようで

ハークは一段一段確かめつつ降りていく。


* * * * *


ギシギシと軋む一階へと続く階段。

入ってきた窓からの光が、一層頼りなくなる。


湿っぽく、手で覆っても鼻につく臭い。

ほとんど真っ暗となった一階で

ハークの目は暗闇に慣れずにいた。


ハークは早くここを出たくて仕方なかった。

周りが見えないという恐怖があるが

何よりホコリっぽい場所に前よりも

弱くなった気がしたのである。



一階と思わしき場所へと降り立つ。

いっそう暗く、光など届かない場所だった。


ふとハークの耳に、うなり声とも寝息とも

思える低い音を感じとる。


「(近くに、いる)」


ハークは壁伝いに進むと、何かが足先に触れる。

恐る恐る感触を確かめてみる。

細長く弾力のあるものであった。


“カチィーンーー”


甲高い、かつ鳴ったか分からないほどの

ちいさな金属音がハークの耳は聞き取った。


とっさの事にハークは驚き

倉庫の中の物に強くぶつかる!


ガラガラと物が崩れ落ちたようだ。

あれだけ気を付けていた

大きな音を立ててしまう。


「(……む! おい小僧……!

 着いたか! よくやった! ここだ!

 ここのかんぬきを――)」


音に気付いたロニィの声と、戸を叩く音。

ハークとは壁を背にして向こう側から聞こえてくる。



すると外からの音に感づいたのか

踏んでいたものが動く。


低くうなり、ぺたりぺたりと足音が鳴る。


「(小僧、どうした!? 聞こえないのか?!)」


何かが力を入れ、床を踏みしめる音を響かせる。

ロニィは扉に耳を当て、中の様子を伺った。


「逃げろ!」


ハークの呼び声に

ロニィはとっさに横へと飛び逃げる。


“ズシン! ズシン! ズシィン!”


扉の内側から強烈な衝撃と音が響く。

それが一度ならず二度、三度と加わっていく。


四回目で、扉は外へと吹き飛んだ!



中から現れたのは黒獅子。

まっすぐロニィの方へと見据え

地面に爪を立てる。


「エリー! 待ってくれ!」


ハークは急いで倉庫から脱出する。


* * * * *


村の守りに務めていた若者が

村長が、近くにいた村人が、

あまりの音に村中から人が集まってきた。


ロニィと黒獅子エリーを取り囲む。

ロニィは何が起ころうと

いつでも動けるよう構えている。


「またかロニィ!

 村に面倒ごとを持ち込まないでくれ!」


「黒い虎を放って何がしてぇんだ!?」


「まて! これにはワケが――」


"グルァァァ!"


黒獅子エリーが吼える。

それは自身を囲んでいる全てに向かって放たれた。


ほとんどの村人が驚き倒れる。


ロニィは両足をしっかり力を入れ、圧に耐える。


村長が辛うじてほんの少しだけ後ろへ押された。



ハークの目にはハッキリと捉える。

黒獅子エリーの目から、一筋の涙が流れている。


そして外に出たことにより分かるのは

黒獅子エリーの身体のあちこちに

叩かれた痕、縛った痕、斬られた痕であった。

それが顔以外、特に後ろ足や

お腹の部分に多く見られた。


黒獅子は吼え続ける。

低く、かつすすり泣くようである。

その圧に負け、村人は逃げ帰ってしまう。


「――これほどの強さ。

 やはり珍しいだけありますねぇ」


村長は突如現れる。

手を広げ、黒獅子へと向ける。

掌の先に鉄の塊が球となって集まる。


「ちくしょう。待て!」


ハークは黒獅子の前に出て、腕を広げる。


「おや、話の子ですか。

 ――さて、エビでなんたら、でしょうか。

 はじめまして、そして、さようなら!」


「ーーそうは、させん!」


鉄の塊から複数の鉄線が

不規則かつ的確に伸びる。


鉄線はまず向かってきたロニィへ伸び

複数本が絡み合い、大きな鉄の塊となって

ロニィの身体を正面から押し飛ばす。


「あぁ、ちく、しょう……」


そのまま近くの村人の家に叩きつけられ

甲斐むなしく倒れてしまう。



鉄線はロニィを制してすぐ

ハークと黒獅子エリーを多方向から捉えた。


エリーには足下や動くその先など

その場から一歩たりとも駆け出さないように

かつ傷つけないように鉄線を巡らす。


一方ハークには違った。

動きを止めるのは同じだが、それが少しずつ

手のひら、足の甲、両の肩、首筋などに

わずかに、何度もかすらせ、出血させている。


村長の鉄線は、同時にふたりを相手取る。

その様子はさながら手慣れたものである。


「さぁ。少しですが、楽しみを」


* * * * *


ハークは怒りを感じた。歯を食い縛る。

眼前でほくそ笑む村長を見据える。


「(珍しいから供物に? 熊でもライオンでも?

 それも人から動物になれば何でもいいのか?

 自分達のためだけに、人を犠牲にするのか!?

 俺は、それに、何も出来ないのか……?

 くそったれ。くそったれ。くそったれ!)」


怒りは、目の前の村長でも

そこに住んでいる村人でもない。

何もできず、ただ黒獅子エリーの前に

ただ成す術なく立っている自分自身に感じる。



後ろで涙を流す黒獅子エリーを背に

ハークの身体は鱗に覆われていく。


足先から膝に向かって、竜の足へと変わる。

強靭な竜の足には禍々しいかぎ爪を作り出す。

ズシリと質量を増したおかげか、地面に少し沈む。

かぎ爪は地面を掴んで離さない。そこだけえぐれていく。


指先から肩へと鱗をまとい

ハークの腕は、人間の腕の形を保ちながら

それに沿って竜の手を作り上げる。


彼の口角が少し裂け始める。

そこから見える歯、もといそれは

竜の強靭で鋭い牙である。



完全なラプトルではない。

しかしハークは理解できる。


いままさに、自分はわるいこになっている。

しかし自分は自分であるという感覚がある。



自身の目の前にはバルドリア山脈麓の村長。

彼から向けられているのは、紛れもない悪意である。

畜生を見る、人ではない、供物であるだけという意思。


ハークは静かに怒りを持つ。

村長からの鉄塊の攻撃は、竜の鱗を通さない。

はがれても、すぐに鱗が身体を覆っていく――

続きます。次で4話は終わりです。

予定通り、一区切りとなります。


次話投稿予定は2021年3月29日(月)です。

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