達人は猫をまね、人を放り投げられる
「儀式ってなんだ!?」
物陰に隠れつつ、ハークは問いかける。
「村の存続に、供物がいる。
米や麦が、いつからか肉だ魚だに変わった。
最近は遠方の品物も並んでいる。
黒獅子は、珍しさから供物に
最適と考えたんだろう」
ロニィの案内で、周りに注意しつつ
村長家の裏にたどり着く。
村長家は木の柵で囲われ
庭を挟んで中の様子が伺えた。
「待ってくれ。村長と誰かが話している」
「何? 村長が? それが誰かは見えるか?」
ハークは目を凝らす。
* * * * *
「これはこれは主使様。
ご機嫌麗しーー」
「村長。貴様、何のつもりだ」
「はて。何か私ーー」
「その鉄、使ったそうだな? 」
主使と呼ばれた人物。
七三分けで細目の眼鏡をかけた四十ほどの男。
紺の袴に黒の羽織、中は白の着物を身に付ける。
手元には閉じられた扇子。
懐には紫の小さな長方形に折られた布が、顔を覗かせている。
「大主神様の教えを忘れたか。
それを賜った時、誓った言葉を捨てたか?」
「いえ。滅相もない。
一度たりとも忘れはしません」
村長と主使は会話を続けている。
* * * * *
「白い服に黒の上を着ている。
眼鏡で細い目。何かあおぐものを持っている」
「おそらく主使だ。
なぜ今来た……? まだ来る時期ではないはず。
いや、まずはこのまま進むぞ」
ロニィは静かに進む。
しかしそれを追うハークは
誤って足元の小枝を踏み折ってしまう!
「誰だ!」
村長は音のする外へと目をやる。
ハークは焦りから声をあげかけたが
ロニィが口元を掌で押さえる。
”みー、みー”
「ほぅ、猫か。お前のか」
「いえ。野良でしょう。
あるいは村人の飼い猫かと」
村長と使主は話を続ける。
ロニィの機転により、うまく通せた。
「(よくそんな声を)」
「(幼い日の娘をあやした時の事が
まさかこんな所で……)」
* * * * *
村長の家の一角。
村の倉庫とは別の、個人の倉庫が見つかる。
白い壁に斜め格子模様の二階建て。
入り口と二階部の窓のふたつだけが
倉庫に入れそうであった。
「小僧。上が開いている。
あそこへ投げ入れるから
中から鍵を開けてきてくれ」
「投げ入れ……、投げ入れる?!
そんな事出来るわけ――」
「よく見ろ。あそこの大きさは
子供一人くらいだ。ワシでは無理だ。
これは床も石造りだ。掘るのも無理」
有無を言わさずロニィはハークを抱える。
そのまま片腕の力だけで二階をめがける。
その力は壮年の男とは思えない、
強靭で勢いのある投石機のようだった。
「(イヤーッ!)」
「(うわあああああ!)」
ハークは迫る窓枠に運良くすっぽり入った。
「(よし! そのまま中へいけ!
下のかんぬきを外せばいい!)」
窓から落ちないよう
急いで中へとハークは潜り込む。
床にずり落ち、床に積もったホコリが舞い散る。
暗い倉庫内で、ゴホゴホとせき込むハークは思った。
「かんぬきって、なんだよ……」
少し遅れての投稿です。
申し訳ありません。続いてます。
次話投稿予定は、2021年3月25日(木)です。




