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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
半竜は、歩き出した。
27/328

何事も、終わり良ければ、御の字

「ギ……ガ……ガ……!」


ハークは恐竜ラプトルと化した片腕を

素早く一度だけ前を薙ぎ払う。


鉄線がほとんどその腕の速さと

鋭い鉤爪の前にバラバラと切られていく。


小さくなった鉄はボトボトと地に落ち、

村長の手元の鉄塊に戻らなかった。


「な、なんと、竜の子……。

 は、はは……、黒いライオンに竜の子!

 これは、期待できーー」


そうつぶやく村長の掌は

ラプトル・ハークの一跳躍にて

竜の片手にてすっぽり覆われてしまう。


「ーーほ」


村長がそれに気づいたのは

自身の掌がぐしゃりと圧縮された事実。


手のひらの骨は粉砕されている。

指の爪は指先にはない。

圧縮された手のひらの塊に埋まっている。


「お、おおおおお!?」


手を押さえ、その場に膝から崩れ落ちる村長。


それを上から見下すラプトル・ハークは、

それ以上村長に何かすることもなく

ゆっくりと元の位置に戻った。



「ガ……ガ……ギ……」


ロニィの前に立つハーク。

何かを伝えようと声を絞る。


突然のことに理解が追い付かないロニィに、

ハークは震える竜の手で黒獅子エリーを

指差す。


「……戻るのか。

 ……戻ろう、と言うのか。

 そうなのか、小僧」


その言葉に頷く。


ラプトル・ハークは黒獅子エリーに駆け寄る。

膝を突き、彼女の少し汚れてしまったタテガミを

優しく丁重に触れる。額同士を合わせる。


そのまま自身が先行し、歩きだす。



「お、おめぇさんら!

 これで帰れると思うな! 化け物め!

 やっぱり化け物だ!」


村人の一人が物陰から叫ぶ。

それに感化された他の村人も

そうだそうだと賛同する。


次第に声が強くなる。

その隙に村人たちは、村長に駆け寄った。


「こ、このままでは、返さない!

 私には、私にはこの、大主神様から授かった

 この力が、あるっ!」


村長は村人に支えられながら

もう片方の手をハークへ向ける。

少し見劣るも、鉄塊が生まれる。

鉄線がハークへと襲い掛かる!


潰された方よりも精度も鋭さが悪いも

ハークの身体を傷つけていく。

竜の鱗を避け、素である人の部分を狙った。


鉄線はそこを確実に貫く!


「(よしっ!)」


村長は確かな手ごたえを感じ、口元がほころぶ。


しかし鉄線は貫いた部分から、放射状に飛び散る。

先ほど、竜の鱗に鉄線を当てた時と同じ状況が

ハークの人の部分でも起こったのだ。



ハークはゆっくりと村長の方を見つめる。

同時に、村人たちにも目をやった。


村の人間たちは、そのまま凍り付いた。


異形の目。人の目とも竜の目とも言えない。

ただ、悲しげに、見つめている。


村人には、人の形をするもやはり恐ろしい。

小さな、ただ目の前にいる竜の子の

その目を畏れた。



「小僧。すまんが娘を拾っていく。

 それから戻ろう」


ラプトル・ハークは頷かず

そのまま歩くも倉庫へと方向を変えた。



「(竜の子。あぁこんな村に来て

 つまらなかったが、いい土産話が出来たな)」


三人の姿と一部始終を

物陰から見ていたのは

主使しゅしと呼ばれた男。


誰の目にも触れられず

ひとり静かに村の門から

そそくさと立ち去った。


* * * * *


ロニィの小屋へと戻った一行は、

空からのバラバラと風を切る音を耳にする。


遠くの空から輸送用ヘリが二機、

小屋へと向かっていた。


「みんな無事?」


ヘリからアナグマ博士が降り立つ。

表情は普段と変わらない様子だが

少し不安の色が見えている。


その後ろにはイチモの姿。

手には博士のものと思わしきカバンを

大事そうに抱えている。


彼はあちこちに目線を飛ばしている。

落ち着かない様子である。

一通り見た後、ホッと肩を力を抜いた。



「博士。久しいな」


「ロニィ。相変わらずのようだね。

 ……積もる話もあるけど

 今はふたりと、娘さんが先だね。

 ……おいでよ。娘さんも一緒に」


ロニィは小屋から巻物を回収する。

なぜか一緒に入れられた娘フェンリーの

本を手にし、ヘリに乗り込む。



「ガ……ガガ……」


ハークは博士の姿を見て

ホッとした様子であったが

何故か、心がざわついていた。

焦り、恐怖の入り混じる感情であった。


博士はハークと向き合う。

ハークに向けられた目は

穏やかで、やさしさのあるものだった。

変わらない立ち振る舞いであった。


「ハークくん。うん。おかえり。

 前とは、ずいぶん違うね。

 でもしっかり意識を持ってるね。

 これだけでも十分。ロニィのおかげ、かな。

 ……帰ってから考えよう。まずは、帰ろうね」


「ぐるる」


「ミス・エリー。

 無事でよかった。

 涙のワケは今度ね。

 さぁみんな帰ろう」


ヘリは全員を乗せ、飛び立つ。



ロニィは眠りにつく娘を抱えながら

村へと目線を落とす。


村人はヘリを指差し、様々な感情を出していた。

ある者は何かを怒りに任せて叫んでいる。

ある者は睨みつけている。


「もう、戻れないな」


ハークはヘリに設けられた格納庫に自ら入る。

そして、閉まる扉を見届けた後に

ゆっくりと身体を隅に寄せ、膝を抱え

頭をその間に入れる。少し震えているようだ。


黒獅子エリーは博士の乗るヘリへと入る。

博士の顔が見える格納庫内で、静かに眠った。



――その中で、イチモだけが

地上から離れるヘリの窓から

村近くの森に目を向ける。


木々の合間から、身を隠しながら

どこかへ電話をかける男の姿を捉える。

細目で眼鏡をかけた四十ほどの男。

ふと、イチモの方へ一瞥いちべつする。

男はそのまま電話を終え、どこかへ消える。



村は小さくなる

お疲れ様でした。ここまでが4話となります。

ここがひとまずの一区切りとなります。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

もし良ければ評価・感想を頂けると励みになります。


次話投稿予定は、2021年4月1日(木)です。

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