第1弾 ゲームスタート
「あの野郎……もっと早く言えよ!!」
俺がなぜ怒っているのか?それは昨日参加すると言ってしまったプライベートマッチの日時が6時間後である。というメールをもらったからだ。こちとら5年間のアプデファイルがたまってあと4時間もかかるんだぞ!!さすがに2時間で(移動を考えればもっと少ない)感覚を取り戻せるわけねぇーだろうが!!
[4時間後]
「よっしゃ!!終わった!!リンクスタート!!!」
VRゲーム開発陣の悪ふざけで実装された(エイプリルフールネタで言ったつもりが本当に実装されてしまったらしい)ボイスコマンドでログインする。
急げ!急げ!!勝利の女神がパンツをちらつかせることはないけど急げ!!
ログインすると大マゼラン星雲に単独で放射能除去システムをもらいに行くSFアニメのリメイクアニメに出てくる爆撃を食らう前の都市のような巨大超高層ビル街に建っている。
ここは初期リスポーン地点にほど近いバスターミナルのような場所だ。ここから徒歩3分圏内に銃砲店・射撃演習場・放棄地下施設・都市間転送装置……など重要施設にアクセスできるログイン地点としては好条件の場所だ。
まずはステータスウィンドーを開き自分の装備やスキル……ビルドを確認していく。
「ふむふむ……今回は強襲任務装備でいいか……近接機動砲打撃ビルドは突撃番長だからな……啖呵切ったのだから、ソロ用のビルドになるか……オールマイティービルドにするか」
オールマイティービルドとは近距離から遠距離まですべてこなし、応急手当などの戦闘支援もすべて自前で行うという器用貧乏になりやすいビルドだ。RPGで例えるなら、ヒーラーに攻撃系スキルを覚えさせたソロ専用ビルドが近いだろうか?とにかく、ぼっち御用達のビルドである。エンジョイ勢がやると大抵器用貧乏で終わるが、一部の本物は仕上げてくるから案外馬鹿にできないものでもある。
プライマリー FALクレイジーイーグル
セカンダリー シグP226
バックアップ Mk23デルタピストル
とりあえずこれで行こう。射撃演習場へGO!
[射撃演習場 第4レーン]
パン! ババ!ババ!ドドドドドドド!!ターン!パン!パン!パン!
おお、やってる。やってる。昔を思い出すな。
すぐに射撃レーンに入りプライマリーのクレイジーイーグルを実体化させる。
まずは伏せて狙う。的の距離は約300メートル。
スコープを覗くと視界の中央で円が表示され、収縮を繰り返す。収縮の速度や大きさは心拍数や銃身の揺れによって変化するようになっている。つまり、戦闘中に興奮してアドレナリンが大量放出されるとほとんど当たらなくなる。だから常に冷静に、静かに、が要求される。
スー、ハー
昔のことを思い出しながら心を落ち着かせ、息を止める。
……ダン!
心拍数が落ち着き、周囲の音が小さくなった時、円が小さくなり、ターゲットの中央に来た時、発射した。
「距離300では問題ないな」
年単位で触れてなかったが、元ゲーマーの感覚は忘れてなかったみたいだ。
時間まで射撃を続けた。まだ完全とは言い難いがエイム感覚もだいぶ取り戻せたと思う。野良のチームデスマッチでキルレが2を超えるぐらいかな?まあ、ガチ芋すれば、いくらでも上げられちゃうのがチームデスマッチのルール的な欠陥だが。
装備をしまい、インベントリーからウィンドブレーカーを実体化させ羽織る。
約束の場所にしている大型ドーム球場の駐車場に行くと、そこには優紀たちと思われる六人組がいた。
「悪いな。待たせた」
「いや俺たちも今来たところだ」
どこのカップルだ!
それは、その辺の溶鉱炉に投げ捨てておくとしてプレイヤーネームはヨーク、ルーク、レーカン、シグルド、ユッケ、シーナとなっている。
「PT登録だけするぞ。しとかないと参加できないからな」
「そうだな」
優紀のPTに参加すると出待ちしていたのかモヒカンが似合いそうなゲス集団がぞろぞろと近づいてくる。
「あの世紀末集団が対戦相手か?」
「あぁ……」
世紀末集団が俺らの前で止まると先頭にいたやつが話を始める。
「この可愛いショタは助っ人か?」
世の中には特殊な趣味をお持ちの方がたくさんいると言うが、VRワールドに行くと急増する。理由としてはネット掲示板と同じだ。現実と違い、ロールプレイ扱いできるし、重大事件扱いされなければプロバイダ責任法は適用されないから身バレする危険性も少ない。楽しみ方の一つとして認識されている。……市民権は存在しないが。
こういう公害の対処は慣れている。
俺は笑顔を張り付けて応対する。
「そうですよ。こんにちは」
「礼儀がなってるじゃねーか。こいつも条件に追加な」
お前らは粘着行為を恥ずかしいとは思はないのか?と思うが。というかそもそもショタコンとか気持ち悪い、虫唾が走る!
「いいですよ。けどこちらも一つ追加します。おじさんたちの全財産を下さい」
「いいぜ勝負を始めるぞ。モードはデスマッチだ」
デスマッチはリスポーンなしでどちらかが全滅するまで続くゲームモードだ。
そして、このゲームモードに確定した瞬間、勝率が大きくなった。
BGOにおいて、今回のようなプライベートマッチでは[ボマー&ディフェンス]か[デミネーション]が主流である。しかしこの二つはマップを徹底的に調査して立ち回りを研究しなければならない。エンジョイ勢を自称する半端モノ集団では足踏みするタイプのモードだ。だからこそ、気軽にプレイできるデスマッチを選択したのだろう。
「開始は5分後だ」
そう言って世紀末集団は来た道を戻ってどこかへ行く。
「お前らの武器だけ教えてもらっていいか?」
「俺はARとハンドガンだ」
「俺はアサルトにアングレだ」
「僕はSMG2丁だよ」
「俺様は軽機だ!」
「私はSRとマシンピストルよ」
「私は二丁拳銃です」
火力の主軸たるLMGガナーが1人に、遠隔火力のスナイパー1人、突撃役の近接機動打撃が2人、バランスの良い中距離火力担当が2人で1人はグレネーダーか。バランスの良いPT編制だ。
そこに独立遊撃ユニットとしてオールマイティービルドが1人追加編成される……思ったより簡単だな。
「アームズレベルは?」
BGOではプレイヤー以外にもアームズとスキルにレベルがある。
アームズレベルはダメージを与えることで経験値がたまる。アームズレベルはオートエイムの補正強化や弾速強化、攻撃力微増などのボーナスがあるが実感できる補正は50を意味のある補正は60を超えたあたりからと言われている。つまり一番欲しいときになくて、ある程度余裕が出てきたあたりからじわじわと効果が出てくる。
これだけ聞くと上げなくてもいいように感じるが、一部の強武器のアンロック条件に特定のアームズレベルが指定されているから上げとかないと後で後悔することになる。
「今言ったのは60前後だ」
そこまで育てるには相当の努力と苦労があったはずだ。特にやっと意味のある補正になってこれからってときだ。アカウントを消しますなんて出来るわけがない。
「シキの装備はどうなんだ?」
「サプ付きDMR」
「……………」×6
サプ付きとはサプレッサー付きの略でBGOナンバーワン不人気カスタムパーツだ。理由は銃声が10デシベル以下になる代わりに与ダメが4割減となり、撃ち合いに勝てないからだ。もっとも、スナイパーは射程の優越によってスナイパー以外を一方的にいたぶり、スナイパー同士の戦いは撃ち合いではなく読み合いになるため、関係ないと言える。
一方的にいたぶれる絶対半径をもつスナイパーはほとんどいないが……
これで見た目が優れていれば素敵アタッチメントだったのだがただの太い筒であるため完全な産廃あつかいだ。
「おい!待てよ!!」
シグルドは俺に文句があるようだ。当然だろう。撃ち合いに勝てない武器を使うのだから。
「サプ付きで火力が下がってるのに半端モンのDMRだと!てめぇ!!舐めプのつもりか!?」
これは何言っても無駄だな。しかし、いかなる正論・理論武装を叩き潰せる至言がある。
「それがどうした!!」
しばらくすると、視界がぐにゃりと歪み、若干の浮遊感を感じた。これは転移したときの感覚だ。
目を開けると周囲はアメリカンな住宅街が広がっている。マップを確認すると、マップ中央に高層ビル街……おそらく、ビジネス街だろう。マップ北東に5本の滑走路をもつ巨大な国際空港、その西側にゾンビに囲まれても2か月ぐらい籠城できそうな巨大なアウトレットパーク、ビジネス街の南に低中層の雑居ビルや個人商店などが立ち並ぶ衛星都市、マップの南側3分の1は巨大な森林地帯が広がる。
狙撃を生かすならビジネス街、近接機動砲打撃ビルドを生かすなら住宅街か南部の衛星都市、敵勢力の火力・索敵・移動能力を削ぐのであれば南部の森林地帯だが……
「アウトレットだな」
やはり、アウトレットに引き篭もり、迎撃戦と言うのは燃えるものがある。そして、敵の位置は北東の巨大国際空港ターミナル。うまくいけば広大な駐車場を移動中の敵を一方的に嬲り殺せるかもしれない。
そうと決まれば早速移動開始だ。




