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AI棒  作者: 君名 言葉
第四章 センテレントエリア編
39/50

第三十九話 conquer

 ガバッ!

 朝一番、シンはベッドから転げ落ちそうな勢いで飛び起きた。

「まずい!? 今何時だ!?」

 時刻は9時55分。後5分で歓迎パーティーが始まる。

「ああ……よかった……」

 普通の人間なら、この時点で相当焦るはずだ。しかし、シンはスピードに特化したトレース型ということもあり、その最高時速はマッハまで到達する。中央エリアのセレモニーホールまで行くことなど、容易いことだ。

「んーよく寝た」

 荷物として持ってきた、小さめのスーツケースから適当な一着を取り出し、家を出た。


「Hey,sari 飛行強化モード」

『了解』


 一瞬のうちに体が浮き上がり、一旦空中で静止すると、上空に向かって一直線に飛び出す。

 ただ、ここは巨大なドームの中。天井にぶつからないように注意しなければ。

 飛行強化モードの威力は絶大だった。飛行しているシンの姿を視認できた者はいなかった。


 ◆


 シンが会場の前に到着すると、待ってましたと言わんばかりに、職員らしき男に声をかけられた。今度は、ドローンではなく、ちゃんとした人間だ。

「あ! シンさんですか?! もうすぐ始まります、一番前のテーブルにお席がありますので、そこでお願いします!」

 当然だが、最後の入場者だったらしい。焦っている男の様子を見て、少し罪悪感を感じた。

 新入りが一番最後とは如何なものか、とは思うが、遅刻しなかっただけマシだろう。


 ホール内に入場すると、中は薄暗く、結婚式の披露宴のような席配置となっているのが分かった。

 置かれたテーブルは八つ。各テーブルには、テレビで見たことのあるアーグラ優勝者、恰幅の良い政治家、日本を代表する企業の取り締まり役などが座っている。そして、周りには大勢の職員や研究者らしき風貌の者が立っている。この会場の中だけで、軽く500人はいそうだ。

 そんな中、最前の、各テーブルとは反対の方を向いているテーブル。そこが、シン、コルン、サキの席だった。


 抜き足差し足でテーブルに忍び寄ったのだが、案の定多くの視線を浴びることとなった。しかも、三席設けられているうちの、真ん中の席だったからなおさらだ。

 できるだけ申し訳ない感を演出して席に座ると、すぐ左に座るコルンに小声で囁かれる。

「シン、何かあったの?」

「す、すまない、起きたのがさっきなんだ」

「昨日、恐神最高管理官とあの後話してたんでしょ? それなら仕方ない面もあるけど……」

 ここでフォローを入れてくれる人間といえば、コルンくらいだろう。さすが優男。

 ふと右を向いてみると、強い眼差しでこちらを睨むサキの姿があった。怖いので、とりあえず目配せで謝罪しておく。


 なんてことをしているうちに、場内の電気がさらに暗くなり、聞き覚えのある声が響き渡った。

「準備が整いましたので、只今より、センテレントエリア新会員入会、歓迎パーティーを始めさせていただきます」

 うん?この声どこかで……?

「司会は私、カムイが務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」

 ああ、アーグラでも司会をしていたカムイという男だ。司会業は何でもやらされるのだろうか。

「まず初めに、今回、新たにここ、センテレントエリアに入会される三名に、自己紹介をいただきたいと思います」

 はっ? 聞いてないぞそんなこと。

「では、正面から見て右側、コルンさん、よろしくお願いします」

「はい」


 コルンは事前にやることを聞いていたんだな。こういう所抜かりないからな。とにかく、コルンが話している間に、何を喋るか考えなければ。

 シンはコルンの自己紹介に一切耳を貸さず、頭を高速回転させた。


「コルンと申します。戦闘タイプは砲撃型、特別訓練やアーティカルグランプリでは、主に援護射撃、それから、リーダーのシン君と協力して作戦を考案していました。至らない所も多々ございますが、どうぞよろしくお願いします」


 パチパチパチパチ……

 大きな拍手が送られ、ふぅ、と息をつくコルン。まずい。もう終わってしまった。

「ありがとうございます。それでは、お次、左側のサキさん、お願いします」

 よかったー! 後少し考えられるぞ!

「ええ。ゴホン、サキと言います。防御型、最高出力数は変身時の340。精一杯頑張ります」


 慣れない敬語を使うサキの自己紹介も早々に済み、いよいよシンの番が回ってきた。

「ありがとうございました。最後に、シンさんです」

 もう覚悟を決めるしかない。

「どうも。名前は……シンと言います。戦闘タイプは、トレース型」

 そう言った瞬間、会場が少しザワザワしだした。何かまずいことでも言っただろうか。

「ええっと……この三人でチームを組んでいるときは、序盤の相手の妨害、中盤から終盤のコントロール役、そしてフィニッシャーのような役割を果たしていました。もっと強くなって、必ず貢献してみせます」

 おお、意外にやるな、俺。結構上手くできたのではないだろうか。

 ここで、司会のカムイにバトンパスとなった。


「ありがとうございました。あと、もう一方、改造業界で名を馳せる、菊間様には、研究者としてこの地に入会していただきました。宜しくお願い致します。これにて自己紹介は終了です。これからは、センテレントエリアの概要説明を改めて行わせていただきます。定期報告も兼ねておりますので、よくお聞きください」


 ウィーーン


 シン達の座るテーブルの反対側の壁に、巨大なスクリーンが降りてきた。これで説明を行うらしい。

「皆様、入り口側の上の方をご覧ください」


 全員が後ろに向きを変えだした。白衣を着た、白い髭の男にスポットライトが当たり、何やら喋り出す。

「えー、では今から、ここ、センテレントエリアの説明をさせていただく。特に、今回新しく入会した三名にとっては重要なこと。耳をしっかり傾けてもらいたい……」


 そこからは、例の生命体、"バビヨン"のこと、そのためにアーグラとセンテレントエリアが作られたこと、そして、来るべき宇宙戦争のことについて、淡々と語られた。

 シンはもちろん驚くことはなかったが、初耳の二人は、いきなりのしかかった重大すぎる使命に不安を覚えているようだった。


 一通り聞いたことのある話が終わると、定期報告会へと移った。つまり、ここからはほぼ全員が初見情報のわけだ。

「それでは、定期報告へと話を進める。まず初めに、皆さんに言っておくことがある」

 会場がどよめいた。何だろう。いつものパターンと違うらしい。


「今回で、定期報告会は最後となるでしょう。これ以上、報告することはないと思っていただいて結構」


 白髭の研究者その発言を皮切りに、あちらこちらで話し声の渦が広がりだした。

「皆さん、お静かに願いたい。とにかく、今回の報告を聞いていただきたい」

 全員が息を飲み、報告内容を待った。


「昨晩の21時13分。観測チームの元に、とある信号が届いた。他でもない、"バビヨン"からである」


 バビヨンからの信号だと……? 仮に受信したとして、読み取れるものなのか。

「これまでも何度か信号を受け取って、解読を試みていた観測チームだが、今回の信号により、今まで不明だった部分全てが解読された」

 なんと。バビヨンの意思が分かるようになったのだ。


「そして、その信号を、英語を用いて訳した。その結果出てきた文字が……これである」


 画面いっぱいに、英文が映し出された。少しいびつなので最初は分かりにくかったが、だんだんと目が慣れてくると、はっきりと文が見えてきた。


 conquer M50 after a month


 冒頭にあるのは……? conquerだ。conquer……確か意味は、『征服』、『支配』……


 征服……だと……?


 どこかで悲鳴が上がった。シンの背中には冷や汗が流れ、会場のどよめきは収まらなかった。

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