第四十話 七人の英雄
騒然とするセレモニーホールの中、白髭の研究者は続けた。
「静粛に願う。このメッセージが何を意味するか、言うまでもない。一ヶ月以内に、宇宙戦争が始まろうとしているのです」
場内の喧騒は止まる気配を見せない。むしろ、どんどん大きくなっている。
あと一歩遅ければ、全員がパニックとなる所だった。シンの視線の方向に、見知った男が立っていた。
そう、昨夜も話していた、恐神だ。
彼が壇上に登った瞬間、空気が凍りついた。先程までのうるさかった様子を微塵も感じさせない、今まで通りの場内に戻っていた。
「気持ちは分かるが落ち着きたまえ。諸君」
深く低い声でそう言い渡す。鶴の一声で全員が口を閉じた。
「私はついさっき、日本政府も加えた、国際会議に参加してきた。もちろん、インターネット上での会議だが。各国の首脳と話し合った結果、このメッセージは地球への明確な敵対行為とみなし、国際法二十四条、侵略防衛法に則り、武力による抵抗を行うことを決定した」
この発言に、全員が息を飲んだ。シンも、いよいよ来たかと、少しばかりの焦りを見せる。
「だが、武力による抵抗と言っても、抵抗するのはもちろん、ここ、センテレントエリア所属のアーティー達だ。ちょうど、全員揃っているしな。君達は、世界中から猛者が集まるアーティカルグランプリを制している。今ここには、世界一強いアーティー10人が揃っている! 何も恐れることはない! 我々は、ただただサポートに尽力すれば良い!」
「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」
その言葉が契機となり、会場は不思議と熱気に包まれた。それほど、ここの職員全員がアーティーを信頼している証なのだろうか。
結局、歓声に包まれてその式典及び報告会は、お開きとなった。少しだけ恐神と話す時間があったが、話したことと言えば、「今日13時に中央管理塔の最高管理官室に来い」とだけだった。
一旦それぞれの家に戻ることを決め、シン、コルン、サキの3人は一緒に帰ることとなった。エリア上空を、3人並んで飛行する。
「なんだが壮大な話になっちゃったわね。ついこの間まで、私たちなんてただのアーティーだったって言うのに」
「本当だよ。話が飛躍しすぎてて、ドッキリにかけられてるみたいだ」
昨晩から事実を知っているシンとは違い、今日になっていきなり使命を突きつけられた2人にとって、状況を飲み込むことは容易ではないだろう。
「まあ確かに、少々受け入れ難くはあるがな。でも、俺達に地球の命運がかかっているのは確かだな」
「そうだよね。もう飲み込むしかないよね」
コルンは訝しげな表情を崩さなかった。
「そういえば、1時間後には、また中央管理塔に行くんでしょ? 何か話があるのかしら」
「恐らくそうだろうな。そこで、対面することにもなるかもしれない」
「対面? 誰とするの?」
サキはイマイチピンと来ないみたいだ。だが、シンにはもう見当がついている。
「決まってるだろ。レジェンド達だよ」
◇
そう、この1時間前の会話が、まさに的中していた。
現に、今、中央管理塔の最高管理官室にいるシンの目の前には、アーティーで知らない者いない、7人の英雄が座っているのだから。
会議室にありそうな、円形の机に、見るからに高級そうなふかふかの椅子が10席用意されている。上座に座る恐神の席を加えると11席。
そして更にシン、コルン、サキを除いた7席に居座るアーティー達。
一人一人のオーラだけで、息が詰まるなるほど凄まじい雰囲気だ。威厳、品格、容姿、それら全てが強さを物語っている。
恐神が口を開いた。
「集まってくれてありがとう諸君。いよいよ、バビヨンとの戦争は現実味を帯びてきた。そして、この度、力強いアーティー3人も仲間に加わった。シン君、コルン君、サキ君については先ほどの式典で自己紹介があったのだからいいだろう。今から3人に向けて、この7人を紹介しよう。無論、ほとんど知っているだろうがね」
もちろん、シンは全員のことを知っている。名前、戦闘タイプ、優勝したアーグラの大会番号まで完璧に記憶している。
奥の席から紹介が始まるらしい。奥に行けば行くほど、優勝した大会の時期が古い回になっているようだ。
「まずは、大会第1号優勝者、"キング"だ。もはや紹介するまでもないがね。彼は要望により、1人だけこの中央管理塔の地下に住んでいる。そして、このチームをまとめるリーダーでもあるんだ。戦闘タイプは、全能型。この中では最大の出力数を誇っているよ」
この大男、キングを知らない人間は、地球に存在しないだろう。それほどのレベルで有名なこの男は、ガッシリとした体格に、右目にできた大きな傷跡が特徴だ。口数が少なく、頑固な性格と聞いているが、戦闘面では地球最強だろう。アーグラでは圧倒的な強さで優勝し、その名を轟かせ、伝説となった。
恐神に紹介されると、キングは閉じていた左目を少しだけ開け、こちらを見た。突然のことで驚いたシンの心臓が、早打ちするのが伝わってきた。
「新入り達。よろしく頼む。特に……トレース型のお前……」
いきなり名指しされ、ひどく困惑した。どうしたというのだろうか。
「は、はい!」
「お前には期待している……」
「あ、ありがとうございます!」
どういった風の吹き回しか、キングに褒められてしまった。いや、褒められたのかどうかは不明だが、この上なく嬉しことは確かだ。
よし……期待を裏切らないようにしよう……
シンは、頰が熱を帯びるのを感じ取った。
その後も順調に紹介は続き、無事に全員の紹介が終わった。念のため、sariに全ての音声を録音させておき、情報をまとめさせた。端末を触って、出来上がったメモを見てみる。
◆
第一回優勝 "キング"(全能型)
地球上のアーティーで唯一の戦闘タイプ、全能型のアーティー。その強さは破格。チーム内のリーダー、役割はオールラウンダー。最年長。
第二回優勝 "リッカ"(防御型)
アーグラ初の、女性優勝者。スピードと機動力を生かした防御で、敵を寄せ付けない。通称、孤高の女帝。チーム内では副リーダー、役割は防御全般。外見は息を飲むほど美しいが、年齢不明。
第三回優勝者 "ヘッド"(パワー型)
単純な破壊力はチーム1。パワー型ながらスピードにも優れている。発達した腕パーツは攻守共に利用できる。チーム内では貴重な、物理ダメージソース。見た目は少し怖い。
第四回優勝 "アントン"(砲撃型)
全アーティー中、最も玉数が多く、飛び道具のプロフェッショナル。それでいて、接近戦も戦える。あちこち飛び回りながら射撃するので、回避性能も抜群。遠距離からのダメージソースとして欠かせない存在で、関西弁を喋る、気さくな人物。
第五回優勝 "ヴィーナス"(サポート型)
リッカに続いて、史上2人目の女性優勝者。特技はほとんどがサポート系の特技。ステータス強化系や修復系はチームに絶対に必要であり、それを自分自身にかけて戦うこともできるのが強み。容姿は可愛い。年齢は若め。
第六回優勝 "サーバス"(復活型)
ダメージを受けてもパーツ間の電子力で元通りになる。火力のない敵に対しては不死身のような存在。この男のもっとも特筆すべき特徴は、小型飛行ロボットを生産して戦わせる、【工場】という特技を持つ事。年齢は不明。推定40歳。メガネをかけ、知性に溢れていそうな感じがする。
第七回優勝者"バキ"(属性型)
2万人に1人と言われるほど珍しい戦闘タイプ、【属性型】の使用者。火、水、風、土、光の5属性のフォースのいずれかを選択し、自分に纏わせて戦う。纏うフォースによってステータス、特技が変化する。どの属性にも瞬時に切り替える事ができる。年齢は20歳でシン達に最も近い。少し危ない印象の青年。
◆
ざっとこんなもんか。なんだか、強さの詰め合わせって感じだな。
綺麗にまとめられたメモを見て、自分がこの場にいることの凄さを実感する。いつの間にか、とんでもない所に来てしまった。
「よし、それでは紹介も終わった所だ、最後に私自身を紹介しよう」
そう言うと、恐神は自身のAIを起動させた。シンは一度見た光景だが、初見のコルンとサキは驚き戸惑っている。
「え? え!? 恐神最高管理官、あなたもアーティーなんですか!?」
コルンが凄い勢いで疑問をぶつけた。
「はは、管理官でいいさ。当然、私もアーティーだ」
「マジか……」
昨日の一件で管理官がアーティーであることは分かったが、戦闘タイプはまだ知らない。
シンも期待して、次の言葉を待った。
「私の戦闘タイプは、【創造型】だ。新しい特技を、創ることができる」
この言葉の意味を理解するのに、かなりの時間を要した。それくらい、この初めて聞く戦闘タイプは、シンの中にある常識を変えたのだった。




