8 リリアの嘘
その日の夜。ディナーの後、リリアは父に言いました。
「お父様! もしアレクシス様がこれまでの方の様にお姉様ではなく私を選んだ場合、私はそのお話をお受けするつもりです!」
「──ほぅ……気に留めておこう」
頬を染めながらも自信あり気に宣言するリリアを一瞥し、父はそう答えました。
父は、自身が次期当主の婿として選んだ令息を次々に落とし、姉の縁談の邪魔をするリリアをどのように思っているのでしょうか。
言葉、表情──何をとっても全く考えの読めない父に、わたくしは少しの不安を覚えました。
これまでは、両親も使用人も──そしてわたくしも、リリアの行いを止めることはありませんでした。
それが婿候補の令息の心根を知るのに都合が良かったからです。
その為か、リリアは何度注意してもアレクシス様をエントランスホールでお迎えするという行為を止めませんでした。
「何故アレクシス様を出迎えてはいけないの?」
「婚約者や家族を出迎えるのであれば、何の問題もありません。ですが──」
「だけど、アレクシス様は私の『運命』なの。私は彼に愛されることで、より美しくなれるのよ。
それに、お姉様はこれまでは何にも言わなかったじゃない。何故アレクシス様だけは出迎えてはいけないの?」
止めるどころか、これまでは注意することなどなかったわたくしが、今回に限りその行為を咎めることをリリアは『障害』であると認識し、喜んですらいるようなのです。
私自身、何故今回に限り、リリアの無作法が気になって仕方がないのか、分からないのです。
案外本当に二人の出会いは運命で、その恋路の障害となるようにわたくしの運命も回り始めたのかもしれません。
その日は珍しく執事がわたくしのところにやって来ました。
リリアはいつも通りエントランスホールでヴァルハイト様を出迎えると、わたくしの準備が整っていないと嘘をつき、応接間へと誘導したそうなのです。
それであれば、『準備が出来たわたくし』が応接室に出向く必要があります。
ヴァルハイト様はこれまでの方と違い、リリアとの会話を早々に切り上げると、すぐにわたくしの待つ中庭に来てくださっていました。きっとご自分の役割を理解しておられるのでしょう。
しかし、その為にヴァルハイト様との仲がなかなか進展しないことを焦ったリリアは、ゆっくり会話をする時間を設けたかったのではないかと思います。
わたくしが応接室へと向かうと、リリアとヴァルハイト様の会話が聞こえてきました。
「『真実の愛』、ですか?」
未婚の男女が二人きりになることは許されませんので、応接室の扉は半分ほど開いております。話し声はもちろん、中の様子も垣間見ることができます。
「えぇ、そうです。『障害』を乗り越え、真に愛し合う者同士の間に実る愛──それは運命の相手との恋! 素敵だと思いませんか?
殿方は真実の愛で結ばれた令嬢のために政略の相手を断罪し、愛する令嬢と結ばれるのです。愛された令嬢はより美しく輝き、二人は幸せになるのです!」
リリアはソファーを移動し、ヴァルハイト様の隣に座ると胸の前で手を組み、彼を上目使いで見上げました。リリアの髪には、あの日のコサージュが揺れています。
「私、ずっと『真実の愛』のお相手と巡り合うのを心待ちにしているのです……」
「──リリア嬢……」
ヴァルハイト様がリリアの名を呼び微笑んだところで、わたくしは耐えられず、応接室の扉をノックしました。




