7 招かれざる乱入者
「そちらは貴女に差し上げましょう」
ヴァルハイト様は、先触れもなく突然お茶会の席に現れ、コサージュを奪い、欲したリリアに確かにそうおっしゃいました。
「まぁ、嬉しい。ありがとうございます、アレクシス様!」
そう言ってコサージュを抱きしめ喜ぶリリアから視線を外し、わたくしの方へ向き直ると「エレノア嬢には、改めて貴女に似合うコサージュを贈らせていただきます」と言ってくださいました。
ですがこのような愚行を笑って許せるのです。やはり、彼もこれまでの方と変わりなかったということでしょう。
「はい。楽しみにしておりますわ」
例えそれが社交辞令であったとしても、これ以上この場を乱さないために、わたくしはそれを受け入れなければなりません。
「予定が急になくなってしまったの。せっかくオシャレしたのに残念で──もしよろしければお茶会に同席させていただけないかと思い、こちらに参りましたの」
わたくしはリリアにそのような予定が無いことを知っています。
百歩譲ってリリアの言っていることが本当の事だとしても、直接本人が来れば断れなくなってしまうため、通常参加の可否の確認は、侍女や執事を通して行うべきです。
しかも、リリアはどう見てもこの場のホストであるわたくしにではなく、ヴァルハイト様に尋ねているように見えました。彼も困惑しているのが見てとれます。
きっとわたくしが事前に「リリアがヴァルハイト様に接触しても、無理に止めずとも良い」と指示を出していたため、誰もリリアを止めなかったのでしょう。
これまでもわたくしの婚約者候補を誘惑してきたリリアでしたが、ここまであからさまで強引なことをするとは想定外でした。
ヴァルハイト様に失礼に当たるため、ここでリリアを叱責するわけにも、婚約者候補との顔合わせで妹とはいえ他の令嬢を同席させる訳にもいきません。
なのに──
「私は構いませんよ」
わたくしがどうやってリリアを屋敷に戻すか考えあぐねている間に、ヴァルハイト様が許可を出してしまわれたのです。
「アレクシス様──嬉しいわ」
リリアは満面の笑みを浮かべると、ヴァルハイト様の名を呼び、椅子を自ら引いて、彼の隣に座りました。
絶句──これまで散々マナー違反をしてきたリリアですが、許可なく令息の名を呼ぶ、令嬢が自ら椅子を引く、男性の隣に座る……更なる醜態の上乗せに、わたくしは再び言葉を失ってしまいました。そして、ここまでくると人は冷静になれるものなのだと知りました。
お相手は侯爵令息……通常であれば、家族に一人でもこの様な者がいるということで、家の品格を疑われてしまい、逆に断られてしまいます。怒って帰る──そうされる可能性もあるのです。
ですが、そんな心配をよそに、ヴァルハイト様はリリアの行動を許容し、笑みを浮かべて見守っています。
(そう、彼はリリアの『真実の愛』の相手だったという訳ですのね)
この調子ではヴァルハイト様がリリアを受け入れ、これまでの令息と同じことを口にするのも時間の問題なのでしょう。
こうして、五人目の婚約者候補であるヴァルハイト様との初顔合わせは幕を閉じたのでした。




