4 五人目の婚約者候補
その日、アレクシスは婚約者候補との顔合わせのためシュタイン伯爵家に来訪した。
定刻よりわずかに早く到着したアレクシスは、執事によってエントランスホールに招き入れられてすぐ、若い女性に声を掛けられた。
「ごきげんよう。はじめましての方ですわね」
声のする方を見上げると、その声の主は窓から差し込む陽光を背に、階段の上からアレクシスを見つめていた。
緩やかに波打つ髪と細く華奢な肢体……傍から見るとその光景は、さながら天使が降臨したかと思わせるような美しさであった。
「え?」
貴族として、幼い頃から何が起ころうと動じないように教育されてきたアレクシスをもってしても、その衝撃的な出会いには、声をあげざるを得なかった。
アレクシスが息を飲んだそのわずかな間に、声の主は軽やかに階段を駆け下りると、あっという間にアレクシスの前までやって来た。
そして、アレクシスと視線を合わせると、デイドレスをちょこんとつまんで首をこてんと傾け、上目遣いで微笑んだ。
「シュタイン伯爵家次女のリリアですわ。お会いできてうれしいです」
先程までは日の光があってか、神々しい美しさであったが、近くで見るとプラチナブロンドの髪と碧い瞳の庇護欲をそそる、愛らしい令嬢だった。
令嬢の名乗りにアレクシスは「ほぅ」と深い息を吐くと、気を取り直して笑みを浮かべてそれに答えた。
「私はヴァルハイト侯爵家のアレクシスと申します。今日は婚約者となるエレノア嬢との顔合わせで伺わせていただきました」
「まぁ! お姉様の婚約者の方でしたのね。──こんなに素敵な方と婚約出来るなんて、お姉様が羨ましいわ……」
リリアは胸の前で両手を組むと、何かを期待するようにアレクシスを見た。
「……」
しかし、アレクシスは言葉を失い、微動だにできない様子──エントランスホールに静寂が訪れた。
そこへ、空気と化していた執事が声を掛ける。
「ヴァルハイト様、お時間です。どうぞ、こちらへ」
「あ、あぁ。すまない。案内を頼む」
「あのっ……また、お会い出来ますか?」
リリアからの問いかけに、アレクシスは曖昧な笑みで答えると、リリアに背を向けその場を離れた。
リリアは姉の元に向かうアレクシスを、いつまでもいつまでも、熱のこもった瞳で見つめていた。
「あぁ、お姉様の婚約者──あの方こそが私の真実の愛のお相手なのね……」
*--*--*
「こちらでございます」
執事がアレクシスを案内したのは応接室ではなく、中庭だった。
薔薇の植え込みの先に足を進めると、アフタヌーンティーの準備がされた東屋が見え、ちょうど令嬢が本を置き、立ち上がったところだった。
リリアと違い、落ち着いた金髪と深い藍の瞳の令嬢だ。
アレクシスが近寄くまで来ると、その令嬢は「はじめまして」と言って、美しいカーテシーを披露した。
「シュタイン家の長女、エレノアと申します。本日はご多忙の中、ご足労いただきありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします」
彼女はアレクシスを見て微笑んではいたが、リリアと違い、声は硬く、その瞳は冷たかった。




