3 三人の婚約者候補
リリアの『真実の愛』のお相手探し。
それは、ちょうどわたくしの婚約者の選定がはじまったのと同時期でした。
一人目の候補の方とのお茶会当日。
馬車の音は聞こえたのになかなか本人が姿を見せないことを不信に思っていると、お客様を出迎えたはずの執事がやってきました。
「エレノアお嬢様、実はリリアお嬢様が──」
執事によると、どうやらリリアがエントランスホールでお客様を引き留めているとのことでした。
家族でも婚約者でもない者がエントランスホールで出迎える……それはマナーに反した行いです。
このお茶会は婚約前の顔合わせです。正式なものではないため、両親が出てくることはありません。
何度か声をかけたそうですが、話が盛り上がり令息の方もなかなか動こうとされないため、とりあえずわたくしの方へ報せにやって来たとのことでした。
婚約者候補でしかありませんが、わたくしは仕方なくエントランスホールへ出向くと、婚約者候補の令息に声を掛け、さり気なくアフタヌーンティーの準備がされた東屋へとご案内しました。
「あの、また、お会い出来ますか?」
「もちろん! こちらには、またお茶会でお邪魔することになるからね」
その方は、儚げに縋るリリアにそう告げました。後ろ髪を引かれているような素振りを見せ、わたくしの方へと歩いてくる彼の向こうに、嬉しそうに微笑むリリアが立っていました。
それは、『真実の愛』を盛り上げる『障害』の登場を心から喜んでいるような、そんな笑みでした。
わたくしはその時、リリアが障害のある恋を乗り越えることで生まれる『真実の愛』に夢中らしいと知っていました。
それは、リリア自ら『真実の愛』の素晴らしさを、わたくしに説いてくれたからです。
リリアは深く考えることなく、ただただ物語に描かれるような美しい恋物語を現実のものにしようとしているだけのように感じました。
「なんて事なの……!!」
彼は邸に来た際に、二度ほどリリアと言葉を交わしただけで本気でリリアに恋をしてしまったらしく、三度目にはわたくしの婚約者候補を辞退すると申し出があったのです。
二人目、三人目も同様でした。
彼らは邸にやって来る度にリリアとの短い逢瀬を楽しみ、挙句わたくしの婚約者候補を辞退。口を揃えて伯爵である父にリリアと婚約したいと訴えました。
「リリア嬢と婚約したいのです。嫡子の変更を検討していただけませんか?」
「エレノア嬢ではなく、リリア嬢とであれば婿入りし彼女を支えシュタイン家を盛り立てていくと誓えます」
「どちらもシュタイン家の実子。長子相続の制度など無い以上、どちらが家を継いでも良いのでは?」
そして皆様、口々にそんなことをおっしゃっていました。
なにか勘違いされているようですが、この家の後継はわたくしであると、他でもない現当主である父が決めたのです。
たとえ仕事が出来る方だとしても、婿に入るという身でありながら、次期当主を指名できるなどという傲った考えを持つ者を、シュタイン伯爵家に迎え入れる訳がありません。
そもそもリリアに次期当主になる気概などありません。彼女はわたくしが幼い頃から受けている当主教育を見て、どんなに当主が大変か知り、自らその権利を放棄したのですから。
それに、何度説明しても彼らがまだ候補でしかないことを理解しないリリアは、姉の婚約者という『障害』があるはずなのに簡単に手に入る彼らに物足りなさを感じ、もう欠片も興味がないのです。
婿入りしなければならない立場の彼らの想いは、はじめから小指の先ほども成就する可能性はなかったのです。
四人目の方は、リリアを選ばずわたくしを変えようとしたという点では、前の三人よりは幾分評価できますが、ご自分の立場を理解出来ていないというところは、同じでした。
本当に、なんて事でしょう……!!
喜びのあまり、叫びだしそうです。こんな都合の良いことは無いからです。
リリアのお陰で、失敗を恐れながらわたくしが慣れぬ目利きをする前に、あちらから瑕疵を晒してくださるのですもの。
そうですわね。リリアも『真実の愛』のためにわたくしを利用しているのです。わたくしもあなたを利用させて頂くことにしますわ。




