2 『真実の愛』の相手
シュタイン伯爵家には男児がいないため、第一子であるわたくしは幼い頃からこの家の当主になるために育てられてきました。
父は言いました。
「女の身であれば、将来妊娠出産と執務がままならない時がやってくるだろう。
その時に君を支え、有事には当主代行という役目を務めることの出来る人材を幾人か見繕った。その中から次期当主であるお前が信用できると思える者を選びなさい」と。
わたくしはお茶会という顔合わせの場、その短い時間で、その方が信用に足るかを見極めなければならなくなりました。
次期当主として伴侶と共に領地を治めるのはわたくしです。父から与えられた相手では無く、自分が納得した相手を迎え、選んだ以上はその責任を自分で負えということなのだと思います。
それは次期当主として、その目利きを試されているのだと理解しました。
なにより領民のため、間違えるわけにはいかないというプレッシャーが、わたくしの肩に重くのし掛かりました。
ですが、事は思ったより簡単でした。
わたくしにはリリアという1つ下の妹がいます。
リリアはプラチナブロンドの髪と潤んだ碧い瞳、愛くるしい顔の美しい令嬢です。
この国は長子が相続するという決まりはありません。ですが、勉強を嫌うリリアは、早々に次期当主となる権利を放棄しました。
彼女は、持って生まれた容姿を維持し、いつまでも輝き続けるために、裕福な貴族に嫁入りすることを望んだのです。
ですが、市井で流行っている恋物語を読んでから、リリアはこれまでの考えを改めました。
「想いあっているのに結ばれる事の出来ない男女が惹かれあう。そして数々の『障害』を乗り越え、絆を深めついに結ばれる……『真実の愛』──なんて素敵なのかしら!」
そう、恋物語の影響から、『真実の愛』の相手を探すようになってしまったのです。
しかし、物語の中で描かれている『障害』の多くは身分差。伯爵家の次女という中位の身分であるリリアは、貴族家であればどこに嫁ごうとあまり問題視はされないため、身分は障害になりえません。
王族へ嫁ぐには足りませんが、過酷な王子妃教育があると聞き、それは望んでいないようです。
残るは貴賤結婚ですが、リリアは現在の美しさへの執着を捨てたわけではありません。先立つものがなければその美しさが保てないことを知っている彼女は、はじめから一定以上の水準の資産を持つ貴族家以外、選択肢には入れていません。
要は、これまでの条件に『障害があること』という条件が加わっただけなのです。
そして、リリアは考えた末、ひとつの結論に達しました。
爵位と恋路を妨げる障害──それを兼ね備えた相手……
(あぁ、そうだわ)
望まぬ婚約者のいる男性──
「お姉様の婚約者が、私の『真実の愛』のお相手だったのね」と──




