13 リリアの望み
「お姉様、私、この家を継ぎたいのです。嫡子の座を譲ってください」
「はい?」
一瞬、リリアが何を言っているのかわかりませんでしたが、どうやら『真実の愛』を手に入れるために、嫡子となれば良いのだと思い至ったようです。
「あなた、勉強が嫌だからと次期当主の座を辞退したのではなかったかしら?」
当主後継は、なりたいからなれるというものではありません。
「お願いよ。お姉様、そんなひどいことを言わないで。
お姉様もご存じでしょう? アレクシス様は私の真実の愛のお相手なのです。
お姉様が当主の座を譲ってくれさえすれば、私は今以上に美しく在れるの。アレクシス様と二人であればどんな困難でも乗り越えることができるわ」
どうやらリリアは障害を乗り越えて一緒になるのではなく、一緒になってから障害を乗り越えることにしたようです。
リリアの言う『真実の愛』は、『障害』という名の他者の不幸の上に成り立つ愛を正当化している言葉です。そして、この妹は『真実の愛』は、『障害』であるわたくしが、全てを手放すことで得られる愛であると言っているのです。
確かにヴァルハイト様はお父様が選んだお方です。彼であれば、領地経営もこなされるでしょう。
ですが、わたくしにも矜持があります。ここまで馬鹿にされて頷けるはずがありません。
それに、当主になれば美しくなれるなど……まさか伯爵家の財産を自分の美貌を保つために使おうとでもいうのでしょうか。
「リリア、あなたは勉強が嫌だと幼い頃に後継となる権利を放棄しました。
わたくしが伯爵家を継ぐために勉学に励んでいる時も、髪の手入れをし、ドレスやアクセサリーを選んでいたでしょう。
なにより、美しさや愛の成就のために次期当主の席を望むあなたが、伯爵領の民のために何かができるとは思えません。
どんなに頼まれようと、これだけはお断りします」
そもそも、このようなこと、わたくしの一存で決められることではありません。
「アレクシス様と一緒であれば、大丈夫よ! だって『真実の愛』の力で結ばれれば、ハッピーエンドだと決まっているの。きっと伯爵領の領民も幸せになれるわ!」
リリアはわたくしを怒らせたいのでしょうか。
『愛』で領民が幸せになるなんて、わたくしだけでなく、お父様も馬鹿にしているのです。
「──後継の指名は現当主であるお父様が行うことです。その様な世迷言で当主が務まるとお思いになるのなら、わたくしにではなくお父様に話すべきですわ。
お父様が同意なされば、わたくしの意志など関係なく後継は交代となるでしょう」
そろそろ約束の時間も迫っています。
わたくしは、リリアに言いたいことを伝えると、話は終わったと部屋の出口を指し示しました。
リリアの言い分が通るわけはありませんが、これ以上わたくしが何を言ってもリリアが納得することは無いでしょう。父から言い聞かせてもらうしかありません。
「ほら、私ってば小さい頃に当主にはならないってお父様に宣言してしまったでしょう? だから、お姉様に辞退していただく方が話が早いのではないかと思ったの。
お姉様には『婚約破棄を五回もされた自分には、もう婚約者は現れないだろうから次期当主は無理だ』ってお父様に話してほしいのよ。
そしたら、私がなにも言わなくても、お父様はあの宣言をなかったことにして、私に継いでくれって頼みに来るでしょう?」




