12 エレノアの決心
ヴァルハイト様はリリアが名を呼ぶことを咎めず、わたくしとの顔合わせのお茶の席に同席することを許し、わたくしへの贈り物であったはずのコサージュを彼女が望むまま、躊躇うことなく贈りました。
そして、先日は『薔薇の生花』まで……
この国では、貴族が生花を贈るのは家族か婚約者……送った花が枯れる前に次の花を贈ることが出来る相手というのがマナーです。
その為、男性が生花を未婚の女性に贈るのは──
(プロポーズと同義……)
けれどヴァルハイト様はその想いを内に秘め、貴族という地位を維持するためにわたくしを選んだのです。
わたくしは見誤りました。
結論を先送りにし、彼との交流を続けてきたのは、好きな本や好みの茶葉、好きな言葉や将来のヴィジョンなどを、わたくしに教えてくれた彼を、信じたかったから。
贈られた彼の瞳の色のコサージュを、特別な物であると、思いたかったからなのです……
わたくしは、自分の中にヴァルハイト様に対する思慕の念があったことに、今更気付きました。
きっとわたくしは扱いやすかったことでしょう。
話を合わせ、自身の色のコサージュを与えるだけで舞い上がり、リリアとの逢瀬を見て見ぬふりをしてくれるのですから。
*――*――*
普段は学んだことが机上の空論にならぬよう、午後からは父の仕事を手伝いながらその仕事の様子や判断を、時には実地に赴いたりしながら学んでいます。
ですが、本日は両親が所用で留守にしており、家での執務もないため、ヴァルハイト様との最後のお茶会の日に指定させていただきました。
リリアを想いながら当主となるわたくしの夫になることは許されません。その想いは、いつしかシュタイン伯爵家に悪影響を及ぼすからです。
父には判断が遅いと叱責されるかもしれませんが、わたくしは本日、ヴァルハイト様に婚約者候補から外す旨をお伝えする予定です。
そうすれば、ヴァルハイト様がこの邸にやって来ることは無くなります。
これからもわたくしに隠れて逢瀬を続けるつもりであるだろうヴァルハイト様への、意趣返しです。
窓から中庭を見下ろすと、最後のアフタヌーンティーの準備を終えた東屋が見えました。
「もうそんな時間ですのね」
わたくしがあの場所でヴァルハイト様を待つのも今日で最後です。
六人目こそ、リリアの魅力に流されない人であって欲しいのですが、無理かもしれません。
「お姉様、ちょっといいかしら」
わたくしが東屋に向かうために立ち上がると、リリアが深刻そうな表情でわたくしの部屋へやって来ました。
「もうじきヴァルハイト様をお迎えする時間ですが、少しの時間なら良いですよ」
わたくしに言われなくても、リリアはヴァルハイト様をお迎えするために、時間前にエントランスホールへ向うでしょうから、長くはかからないでしょう。
リリアは以前、ヴァルハイト様から婚約の申し込みがあればお受けすると、お父様に言っていました。
おそらくヴァルハイト様のご実家が侯爵家であることから、思いさえ通じれば生活などどうとでもなるとでも思っていたのでしょう。
これまでにも、候補の令息からリリア宛に婚約の申し込みがきたことも、勘違いすることになった要因かもしれません。
だからでしょうか。リリアは、ヴァルハイト様のお話を聞いて、かなりショックを受けたようで、ずっとふさぎ込んでいました。
通常、嫡子ではないヴァルハイト様から、同じく嫡子ではないリリアへ婚約の申し込みが来ることはありません。
わたくしとの婚約話が無くなれば、彼がこの屋敷に来ることもないでしょう。これこそリリアが望んだ『障害』であると言えます。
二人の愛の犠牲になるなど、わたくしは御免です。
リリアとヴァルハイト様が『真実の愛』の相手だというのであれば、愛の力でこの『障害』を、乗り越えれば良いのです。
わたくしは過去の想いを捨て、先に進ませて頂きます。
「お姉様、私、この家を継ぎたいのです。嫡子の座を譲ってください」
わたくしの決心を知ってか知らずか、リリアは部屋に入るなり、そう切り出したのです。




