11 アレクシスの思惑
ヴァルハイト様と交流をはじめて、半月が経ちました。
このまま順調に進めば、もう半月後には彼とわたくしたちは正式に婚約することになります。
彼はこれまでの婚約者候補たちと違い、わたくしを見てくれます。
愛読書も重なっているものが多く、本の話から、色や花、食などお互いの好みの話から、これまで何を学んできたかということにまで話が及んだりすることもあります。
ただ、半月たった今でもリリアの言動は相変わらずで、ヴァルハイト様もそれを拒否なさることはありません。
特に気になるのは呼び名です。婚約者候補であるわたくしが『ヴァルハイト様』と家名でお呼びしているにもかかわらず、リリアは『アレクシス様』と彼の名を呼んでいるのです。
『シュタイン伯爵令嬢』が二人居る我が家で、彼がわたくしたちを『エレノア嬢』『リリア嬢』と呼ぶのは致し方ないことです。
ならばこちらも名前をお呼びする……リリアがそう思っているのであれば、いずれ義理の兄妹になるわけですから、わたくしが狭量なだけかもしれません。
わたくしは、それを『候補』の段階で受け入れているヴァルハイト様の真意をはかりかねているのです。
そんな風に、彼と過ごす時間を不安とも心地よいとも感じる矛盾に悩んでいたある日、わたくしは聞いてしまいました。
どっち付かずのヴァルハイト様に痺れを切らしたリリアが、再び嘘で彼を応接室に連れ出し、想いを告げているのを……
「アレクシス様! 私、貴方をお慕いしております。
私と貴方は真実の愛で結ばれる運命ですもの。貴方の気持ちは分かっております。──どうかなにも恐れず私を選んでくださいませ!!」
扉の開いた応接室での会話など、誰が聞いているかわかりません。そのような場所で想いを告げるなど、リリアはよほど追い詰められていたのでしょう。
それもそのはず、リリアの予定では、今頃ヴァルハイト様はわたくしとの婚約を破棄し、自分と再婚約をしていたはずなのですから。
実際は、彼とわたくしは婚約者候補であるだけで婚約していません。一月間婚約者候補としての交流を持ってから、正式に決まることになっています。
思い込みが激しいとはいえ、何故未だに気付かないのか不思議でなりません。
二人はわたくしが聞いているなんて思いもしなかったのでしょう。そのまま話を続けました。
「リリア嬢……簡単に言うが、私も君も後継ではないんだよ。万が一君が私と一緒になることになった場合、貴族籍を抜け、平民になることになる。それを理解しているかい?
ドレスもアクセサリーもない。髪を梳いてくれる使用人もいない。
これまで貴族として生活してきた君に、それが耐えられるかい?」
「え……平民……? なぜ、侯爵令息であるアレクシス様が……?」
「当然だろう? 嫡子ではない子には継ぐ家がないのだから……」
「そ、そんな……アレクシス様と私は結ばれない運命なのですか……? うぅ……」
そこでわたくしは合点がいきました。
ヴァルハイト様は、内心でリリアが良いと思いながらも、貴族であり続けるためにわたくしと婚約しようとしていたのです。
愚かな方ではないとは思っていましたが──これがわたくしの中で燻っていた違和感への答えだったのです。
わたくしは、リリアの嗚咽が響く応接室に入る勇気が持てず、侍女に本日は気分が優れないためお会いできないと、ヴァルハイト様への伝言を頼み、その場を立ち去りました。
わたくしは部屋に戻り、これ以上何も考えなくて済むよう、読みかけの本を開きました。




