10 わたくしのためのコサージュ
「大丈夫ですか? 体調がすぐれないのでは?」
お茶会がはじまってすぐ、ヴァルハイト様はわたくしを気遣うように、そう尋ねられました。
わたくしとしたことが、動揺を隠せていなかったようです。お客様に気を遣わせてしまうなど、ホスト失格です。
「いいえ、そのようなことは……」
そのようなことはありません。そうはっきり答えたかったのですが、最後まで言葉にすることが出来ませんでした。
未婚の男性が、同じく未婚の女性に生花を手渡す……これはプロポーズと同義です。
わたくしはリリアの『真実の愛』を利用して、婚約者候補の誠実さを推し量りました。
そして、彼もこれまでの方と同じく、リリアに心を傾けた。
それが全てです。
今回も、リリアのお陰で簡単に判断することが出来そうです。思惑通りに事が進んだのです。
(ありがたいことです……)
ではなぜ、わたくしはヴァルハイト様がリリアに生花を贈っている場面を目撃し、動揺しているのでしょうか。
「これで、元気が出ると良いのですが……」
彼はわたくしの言葉を信じていないのかそうおっしゃると、サテンリボンがかれられたプレゼントの包みを取り出しました。
「先日は失礼しました。エレノア嬢の髪色を存じ上げなかったとはいえ、配慮するべきでした。
──こちらを受け取っていただけますか?」
わたくしは驚きました。
まさか、コサージュのことを覚えておられるとは思わなかったのです。
「開封しても?」
あれは、社交辞令であったはずなのに……
「もちろん。貴方のために作らせた物です。きっと気に入ってくださると思いますよ」
明るい髪色のリリアと違い、落ち着いた色味のわたくしは、身につける色を選ばざるを得ません。
そのため、いただく贈り物もボルドーなどの無難な色味が多いのです。おそらくこの箱の中身も──
「……っ!」
わたくしは息をのみました。
メインのお花の色はアイスブルー……大輪の薔薇と蕾のアーティフィシャルフラワー。その薔薇を包み込むように配されたマットな質感のセージグリーンの葉。アクセントとして使用されているチャコールグレーの細いサテンリボン──華やかな印象のコサージュなのに柔らかな落ち着きを感じさせ、前回リリアの手に渡ったコサージュより、わたくし好みの物でした。
そしてなにより、わたくしが身につけるとクラシカルな印象となりますが、リリアのプラチナブロンドに合わせると、全体の色がぼやけて地味な印象になるでしょう。
それは、先程ヴァルハイト様がおっしゃられたように、間違いなくわたくしのために作られたコサージュでした。
そして何より、アイスブルーはヴァルハイト様の瞳の色なのです。
わたくしは彼が何を思い、何を考えているのか、分からなくなってしまいました。




