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目利き 八百屋が異世界転生して 腐った王国を見切り世界を救う話  作者: もしものべりすと


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第十七章 分荷作戦

ひと月かけて、俺は辺境を回った。


 最初に訪ねたのは、川沿いの村だった。


 以前、俺の改革で芋の流通を回復させた村だ。村人たちは俺を、まるで身内のように迎えてくれた。


 俺は村長に率直に話した。


「俺を追放した王宮を、立て直したい。手を貸してくれ」


 村長は即座に頷いた。


「翔太様のためなら、村ごとお供しましょう」


 俺は村から、五人の若者を預かった。


 次に、山あいの村へ。


 ここでも同じだった。


 俺は足のついた信頼を回収していた。


 俺が半年前に蒔いた小さな種が、芽を出していた。


 次は、辺境伯セレシオン公爵領の本領へ向かった。


 辺境伯セレシオンは、五十代の精悍な男だった。


 彼は俺の話を、最後まで黙って聞いた。


 俺はダルシムの不正の証拠と、彼が裏で物資の供給を絞っていた数字を、公爵に開示した。


 公爵は書類を見終わると、低い声で言った。


「タドコロ殿。我が辺境伯領、貴殿の作戦を全面的に支持します」


「ありがたい」


「ただし条件が一つ。私の長男ヴァルター・ホロウォズを、貴殿の側近としてお使いください」


 ヴァルターが奥の扉から進み出てきた。


 彼は深く一礼した。


「タドコロ殿、よろしくお願い申し上げます」


 俺は彼の手を握った。


 ヴァルターは文官として有能だった。彼を側近に得たことは、俺の作戦の大きな後押しになった。


 その後、俺は亜人の村にも足を運んだ。


 森の奥にあるエルフの集落。地下の都市にあるドワーフの工房。湖の畔にある人魚の集落。


 彼らは人間とは距離を置いていた。


 けれど俺は目利きで、彼らが必要としているものを見抜いた。


 エルフには、彼らが森で採れない海産物を。


 ドワーフには、彼らが鍛冶で必要な特殊な木炭を。


 人魚には、彼らが湖で得られない山の薬草を。


 それぞれを流通させる約束をした。


 その代わりに、彼らからも人材を借りた。


 エルフから、弓兵を十人。


 ドワーフから、技師を五人。


 人魚から、伝令役を三人。


 俺はひと月の間に、千人を超える独自の支援部隊を組織していた。


 その間、宮廷ではダルシムが、俺の「失踪」を公式に「逃亡」と発表していた。


 貴族たちは口々に、俺を罵った。


 国王アルフレッドは玉座の上で、毎日青ざめていた。


 そして王都の物価は、再び上がり始めていた。


 俺が改革した倉庫から、ダルシム派の役人たちがこっそりと在庫を抜いて、別の倉庫に隠していた。


 市場では再び、しおれた野菜が高い値段で売られていた。


 貧民街では子供たちが、また芋を食えずに寝ていた。


 ガウェインは、左腕の傷がようやく塞がり始めていた。


 彼は宮殿の医務室で、半月ベッドの上にいた。


 ある夜、彼はベッドからふいに起き上がった。


 看護の修道女が慌てて、彼の体を支えた。


「ガウェイン様、まだ無理は」


「私は王国騎士団長だ」


 彼は立ち上がった。


「タドコロ殿が戦っている。私が寝ていていい道理はない」


 彼は片腕で剣を握り、装具を着けた。鎧は左腕の部分が空っぽだった。


 それでも彼は馬に乗った。


 彼は王都を出て、辺境伯領へと向かった。


 道中、彼の馬の後ろに、宮廷魔術師長エルヴィラが馬車で続いていた。


 エルヴィラもまた、病床から起き上がっていた。


 彼女は椿の杖を握り、白い髪を整え直していた。


 二人は辺境伯領で、俺と合流した。


 ガウェインは俺の前で片膝をついた。


「タドコロ殿。もう一度、貴殿の剣となろう」


「ガウェイン殿、あんた、その腕で」


「左腕がなくとも、右腕は健在だ。剣の腕は衰えていない」


 ガウェインは笑った。


 彼の右腕に、深い決意があった。


 エルヴィラは深く一礼した。


「タドコロ殿、私の魔力も、貴殿の作戦にお使いください」


「エルヴィラ殿、ありがたい」


 俺は二人の手を握った。


 左腕を失ったガウェインと、病み上がりのエルヴィラ。


 二人とも完全ではなかった。


 けれど俺の作戦には、彼らの「経験」と「叡智」が何よりも必要だった。


 俺は辺境伯領の地図室に、すべての仲間を集めた。


 地図の上に、ヴァルターが王都を中心に四つの方角を示す印をつけた。


「タドコロ殿の作戦は、これでございます」


 ヴァルターが説明を始めた。


「王都を四方から、補給拠点で囲みます。北の拠点にはエルフの弓兵と、辺境伯領の重騎兵。南の拠点にはドワーフの工兵と、川沿いの村々の物流班。東の拠点には山あいの村々の生産班と、人魚の伝令網。西の拠点には宮廷魔術師団の魔法陣と、エルヴィラ殿の指揮」


 ヴァルターは印を、もう一度指し示した。


「これらの四つの拠点は、互いに補給ラインで結ばれます。一つが攻撃を受けても、他の三つから即座に補給と援軍が届く」


「分荷システム、ですね」


 エルフの長老が低い声で言った。


「ええ。タドコロ殿の商業のやり方、そのものです」


 ヴァルターは微笑んだ。


「物資の戦略的な再配分、それが王国を救う作戦の核でございます」


 俺は全員を見渡した。


「これは戦争じゃない」


 俺は低く続けた。


「健全な商業の再構築だ。腐った流通を流す。それが俺たちの戦いだ」


 全員が頷いた。


 その夜、俺たちは王都へ向けて進軍を開始した。


 四方向から、ゆっくりと慎重に、王都を包囲していく。


 戦闘ではない。


 補給ラインで、王都を繋ぐ。


 俺は王都の東門の郊外に、本隊と共にたどり着いた。


 月明かりの下で、王都を見上げた。


 王都の上空には、不気味な瘴気の渦が広がり始めていた。


 暗い紫色の渦が、王宮の真上でゆっくりと回っていた。


 エルヴィラが俺の隣で息を呑んだ。


「タドコロ殿……あれが、世界の北の果てで目覚めようとしているもの。それの前兆でございます」

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