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目利き 八百屋が異世界転生して 腐った王国を見切り世界を救う話  作者: もしものべりすと


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第十三章 分荷の罠

「俺に、救援部隊の指揮権を」


 俺は、国王アルフレッドに、直訴した。


 謁見の間で、ダルシムは何も言わなかった。ただ、銀色の指を組み、薄い微笑みを浮かべて、俺を眺めていた。


「タドコロ殿、貴殿は商人であって、軍人ではない」


「だからこそ、です」


 俺は続けた。


「魔物の大群を、剣で抑えることは、ガウェイン殿にお任せします。俺の役目は、戦線の後方で、補給と物資の流通を管理することです。先入先出、分荷、適正な配分。これが、軍を支える」


 ガウェインが、進み出た。


「タドコロ殿の言は、もっともでございます。私は、剣を振るうために、安定した補給を必要とします」


 ガウェインの胸の鎧には、戦の準備のための新たな金属の装具が、追加されていた。


 国王は、しばらく沈黙した。


 彼は、ダルシムを見、それから、俺を見た。


「分かった。タドコロ殿に、後方支援の指揮権を授ける。ダルシム、貴殿は、財務大臣として、必要な予算と物資を、即座に手配せよ」


「承りました」


 ダルシムは、優雅に頭を下げた。


 その時、俺は、彼の口角が、わずかに上がるのを、見逃さなかった。


 翌日、俺は、王都の物資倉庫に立っていた。


 ガウェイン率いる先発の騎士団は、すでに辺境に向けて出発していた。俺の役目は、その後方で、補給ラインを構築することだった。


 倉庫には、王国軍向けの食糧、矢、医療品、毛布、武具修理用の材料、馬の飼料。すべてが揃っていた。


 ただ、量が、おかしかった。


 俺は、出庫担当の役人を呼んだ。


「この量で、何日分だ」


「は、三千人の部隊で、五日分でございます」


「足りない。最低でも、二十日分は必要だ」


「ダルシム大臣のご決裁が、五日分でございました」


 俺の背筋を、冷たいものが走った。


 ダルシムは、書類上は、すべて「適正」に処理していた。けれど、その「適正」は、最低限の数字に絞られていた。


 俺はすぐに、追加の物資を発注した。


 ところが、王都の周辺の卸売業者が、軒並み、「在庫がない」と回答してきた。


 ある業者は、価格を三倍に吊り上げてきた。


 ある業者は、納期を一ヶ月後と回答してきた。


 ある業者は、突然連絡が取れなくなった。


 俺は、すぐに気づいた。


 ダルシムが、裏で、卸売業者に圧力をかけている。


 俺の補給ラインが、根元から、切られようとしている。


 俺は、ヴァルター・ホロウォズを呼んだ。


「辺境伯閣下に、急ぎ伝言を。王都の物資が、足りない。辺境伯領の倉庫から、追加を回してくれ」


「即座に手配いたします」


 ヴァルターは、駆け出した。


 しかし、辺境伯領からの物資が到着するには、最短で十日かかる。


 その間に、ガウェイン率いる先発隊が、補給を失う可能性があった。


 俺は、伝令を急派した。


「ガウェイン殿に、進軍速度を緩めるよう、伝えてくれ。後方からの補給を待て、と」


 伝令は、駆け出した。


 しかし、その伝令も、街道の途中で、何者かに襲われ、殺された。


 次の伝令も、たどり着けなかった。


 三人目の伝令で、ようやく、辺境伯領の中継地点まで届いた。だが、そこから先、ガウェインの本隊までの伝言は、なぜか不達となった。


 ガウェイン率いる三千の騎士団は、補給を失った状態で、辺境のセレーナ村方面へと、進撃を続けていた。


 俺は、王都の宮殿の地図室で、状況を把握していた。


 手は、震えていた。


 ダルシムが、徹底的に、補給を絶っていた。物資の供給を絞り、伝令を妨害し、現場の指揮系統を寸断していた。


 彼は、王都の中で、合法的に、それをやっていた。


「ハイキ、ロス」


 俺は、ひとり、呟いた。


 彼は、ガウェインの騎士団を、廃棄ロスにするつもりだ。


 戦死者を出させ、辺境を見捨て、その上で、俺の改革の失敗を、宮廷に喧伝する。彼の十年のシステムを取り戻すために。


 俺は、すぐに、エルヴィラを呼んだ。


 彼女は、宮廷魔術師長として、長距離の伝令魔法を使うことができる。距離は限定的だが、街道沿いを伝って、ガウェインのもとに、メッセージを届けることができる。


「エルヴィラ殿、頼む」


「タドコロ殿、お任せください」


 エルヴィラは、すぐに魔法陣を組んだ。


 彼女の高い杖の先から、銀色の光が放たれ、街道に沿って、北へと飛んでいった。


 しかし、半日が経っても、返信はなかった。


 深夜、エルヴィラが、青ざめた顔で、俺の部屋に現れた。


「タドコロ殿、伝令魔法が、途中で、断たれました」


「断たれた?」


「街道の途中、何者かの魔術干渉によって、私の魔力が、遮断されています。これは、宮廷魔術師の中でも、高位の者にしかできない芸当」


 俺の口の中が、乾いた。


「ダルシム派の魔術師、ですか」


「いえ」


 エルヴィラの声が、震えていた。


「これは、私と同等以上の魔力です。宮廷魔術師の中で、私と同等の魔力を持つ者は、存在しないはず」


 俺は、彼女の顔を、見つめた。


 ダルシムの背後に、誰かがいる。


 俺の知らない、もっと大きな何かが。


 翌朝、辺境からの伝令が、ようやく王都に到着した。


 伝令は、半死半生だった。馬から落ちて、宮殿の正門で、倒れた。


 彼は、最後の力を振り絞って、こう叫んだ。


「ガウェイン団長の本隊が、補給を絶たれ、孤立。魔物の大群と激突、戦線崩壊。団長は、剣が折れ、左腕を負傷。退却を、開始したものの、損害は、千を超えるとの」


 俺は、その場で、膝をついた。


 千人。


 千人の命が、ダルシムの「合法的な妨害」によって、失われた。


 俺は、両拳を、地面に押し付けた。


 目の前が、白くなった。


 その時、宮殿の鐘が、けたたましく鳴り響いた。


 別の伝令が、駆け込んできた。


「辺境のセレーナ村、ならびに近隣三村、魔物の襲撃により、全焼。生存者の確認、未だ取れず」


 俺の顔から、すべての血が引いた。


 ガウェインの剣が、折れた、と。


 その背後で、セレーナ村が、燃えている、と。

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