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天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第三章 九州争乱編

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69話 戸口の秤

更新が遅くなり申し訳ございません。

時代考証などが甘い部分がありますがエンターテインメントとしてお楽しみください。

頑張って更新頻度を上げていきます。


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1つの作品に向き合うのではなく

世界観が違うものを並行で書き進める方が、筆が早いことに気づきました。

テーマは違いますが、こちらもぜひお楽しみください。


『氷が解ける音をきく-転生バーテンダーの気ままなスローライフ-』

https://ncode.syosetu.com/n6126mb/

弘治三年(一五五七年)十月。

平戸の港に、秋の風が吹いている。


松浦隆信(まつら たかのぶ)は港を見下ろす丘の上に立ち、腕を組んでいた。

眼下に博多からの荷船が二艘入ってくる。

対馬の旗を掲げた小舟が一艘。


————————————————————


四年前、この地に佐伯利興は自らやってきた。

あまりに若すぎる年齢よりも落ち着いた目をした男だった。


隆信は今でもその日のことを覚えている。

籠手田を介して顔を合わせることになった時は正直なところ大して期待はしていなかった。

対馬の守護代など、これまでも何人か相手にしてきた。

宗家の家中の話はいつも同じで、朝鮮との交易の話か、倭寇の取り締まりの話か、どちらかだった。


しかし——利興は方向性が違っていた。

互いの対等な交易を提示してきたとき、隆信は少し驚いた。

たかが一つの島から出てきた若者がこちらに頭を下げるのではなく、対等に話をしようとしている。


今思い返せば対等な関係であればこそ、交易と連携は長く続いたのだろう。

その間、共に津領をはじめとして懐に多額の儲けを入れている。

しかし今、その関係を考え直さねばならない状況が舞い降りてきた。


————————————————————


三日前の夕刻のことだ。

広間に入ってきた籠手田安昌(こてだ やすまさ)は、いつもとは違う喉につかえたような微妙な表情をたたえていた。


長年この男を見てきた隆信には、すぐに変化を察する。


「大友の使者が参りました。吉弘鑑理(よしひろ あきただ)殿の手のものにて。

内容は——対馬との取引を控える要求にございます」


隆信は床の間の掛け軸に目を向けたまま、しばらく口は開かなかった。

「南蛮船の件は」

「長崎への入港を妨げることができないか、という話も含まれております」

「お前はどう思う」


籠手田は一度膝の上で手を重ねてから、口を開いた。

「……難しいところです」

「率直に申せ」


「大友は鎌倉より続く名門です。逆らえば長い目で見て当家に不利になるでしょう。

 しかし——佐伯家との取引は、当家に実際の利をもたらしてきた。

 どちらを取るかは——殿のご判断を仰ぎたく」

「大友の使者への返答は」

「留め置いております。返答にもご判断をいただきたく」


「わかった。少し時をくれ」

籠手田が広間を出ていった後、部屋の中に夕暮れの光が長く伸びていた。


————————————————————


三日が経っても、考えは固まらなかった。

丘の上から港を眺めるたびに、同じことが頭の中で繰り返された。


大友に従うことは、難しくない。

大友は鎌倉より続く名門だ。

九州の武士の多くが、先祖代々この家と何らかの縁を持っている。

松浦も例外ではない。

隆信の父・興信は大内氏と深く結んでいたが、大内が崩れた後、盟主として頼んだのは大友家である。

大友の旗を見れば膝を折る——それは隆信自身の本意とは関係なく、わずかながら刻まれている感覚だ。


それに、佐伯家は勢いありとはいえ、未だに大友の力は圧倒的だ。

逆らえば何かと不都合が生じる。


しかし——。

大友の介入に従えば、平戸は大友の意のままに動く港になる危惧もある。

松浦の独立性を、自ら削ることになるだろう。


大国とは言えないまでも自らの手で切り取ってきた自立である。

父・興信が急死したとき、隆信はまだ十三歳だった。

元服前で実務に当たれず、家中は一時混乱した。

籠手田が支えてくれなければ、松浦はあの時点で他勢力に飲み込まれていたかもしれない。


そこから十五年かけて、隆信は現在の平戸を作り上げた。

貿易船を呼び込み、王直と手を結び、九州の商いの一角を担う港に育てた。

父から受け継いだ土地を守るというだけではなく、自分が作り上げたものだという感覚もある。


その地を——大友の顔色を伺いながら動かすことになる。

(それは、俺が望んでいたことか)


丘の上に立ったまま、隆信は変わらず港を眺めていた。

南蛮船が一艘、沖に見える。

平戸に向かってくるのか、それとも別の港へ向かうのか。まだ分からない。

しかしあの船が長崎に入るようになれば——平戸の立場は大きく変わる。


利興が長崎を整えようとしているのは知っている。

来春、南蛮船が長崎に入れば、平戸を経由しなくても取引が出来る商人が出てくるだろう。

大友がそれを恐れているのも分かる。


しかし——それは平戸にとっても、脅威である。

この時代の明までの海域に影響力を持つ王直ですら、佐伯家との取引拡大のために平戸から拠点を動かす可能性が出てくる。

大友の示唆に乗って長崎への入港を妨げることは、大友を助けながら、同時に自分の港の競合を潰すことにもなる。

そこまで考えたとき、隆信は自分の中に、利を計算している部分があることに気づいた。

(どちらの判断を下すにせよ、当家の命運を決める刻であるか)

その認識が、かえって決断を難しくした。


————————————————————


その夜、隆信は眠れなかった。

城の外から、港の音が届いてくる。

荷を降ろす男たちの掛け声。波の音。


ハッキリとしない意識のまま、佐伯利興という男に想いを馳せる。

あの男は、言葉と行動が一致している。交易にせよ、他勢力への連携にせよ

この数年で言葉にしてきたことを形にし、それは証明してきた。

本来は一蓮托生、組むに足る男ではある。


しかし——利興がどれほど誠実であっても、抗えない力も存在することは事実だ。


この戦国の世で生き残るためには、力のある者に従うのが摂理である。

隆信の父がそうだったように、隆信もこれまでそうしてきた。

それは恥ではない。民を抱える国人として当然の判断だ。


(しかし)

隆信は天井を見た。

紛いなりにも保ってきた独立を手放すのか

佐伯家の描く構想に賭けることは出来ないのか

ただ、このまま答えを出さないわけにはいかないと思った。


————————————————————


夜が明けてから、籠手田を呼んだ。

籠手田が広間に入り、隆信の顔を見ても何も言わなかった。

隆信が口を開くまで、張り詰めた沈黙が落ちる。


「大友の使者に返事を出す」

「……内容はいかに」

「対馬との取引を控えよう。

 南蛮船の長崎入りについては——当家の水軍で、平戸以外への入港を妨げる旨をお伝えせよ」


籠手田は深く頭を下げた。

返書を認めるために広間を出ていく背中を、隆信は目で追った。


(利興殿、すまぬ)


口には出さなかった。


利興が誠実な男であることは、今も変わらず思っている。

しかしこの九州で生き残るためには——そういう判断が必要な時がある。

これが隆信の出した答えだった。


しかし——答えを出した後も、迷いを払った晴れやかな感覚は抱けない。

窓の外では、対馬から寄港した小舟が荷を降ろし終えて港を出ていくところが見えた。

その小舟の行き先を、隆信はしばらく目で追った。

書き続けると決めたので、日間でも週間でも

1度は1位を取れるように頑張ります!


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特に日間ランキングに載っていると、ブクマいただけていない皆様にも

更新が知っていただきやすいんじゃないかと思ってます。


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他の方にも届けるため、次回見つけやすくしていただくために、ぜひ「評価☆」をいただけますと幸いです。

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