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天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第三章 九州争乱編

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65話 大名の輪郭

更新が遅くなり申し訳ございません。


時代考証などが甘い部分がありますがエンターテインメントとしてお楽しみください。

頑張って更新頻度を上げていきます。

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1つの作品に向き合うのではなく

世界観が違うものを並行で書き進める方が、筆が早いことに気づきました。

テーマは違いますが、こちらもぜひお楽しみください。


『氷が解ける音をきく-転生バーテンダーの気ままなスローライフ-』

https://ncode.syosetu.com/n6126mb/

弘治三年(一五五七年)九月。

怡土・高祖城。


佐伯利興(さえき としおき)は地図の前に座っていた。

机の上には書状が三通。

それぞれ神屋寿禎(かみや じゅてい)島津貴久(しまづ たかひさ)、景満からのものだ。

いずれも昨日届き、昨夜のうちに読み終えている。


読み終えてはいる。しかし——何かが引っかかっていた。

山本康範(やまもと やすのり)が茶を持って入ってきた。

利興の机の前に静かに置き、傍に腰を下ろす。


「どうぞ」

「……ああ」


利興は茶を手に取ったが、飲まなかった。


「何か引っかかっておられますか」


こういう時に黙って下がらないのが、この男だった。

傍にいる時間も長くなっている。

利興が考え込む時の顔と、考えを整理できている時の顔の違いを、康範は正確に見分けていた。


「神屋の書状だ。博多の商人の間に、妙な緊張があると書いてある。何かを待っているような気配だと」

「大友の動きで?」

「そうだ。義鎮は先月末、博多の町衆を通じてこちらに挨拶を送ってきた。

 肥前の件を認める、博多を介して取引を続けたいという内容だ。

 しかし——同じ時期に、大友の使者が有馬の城下に入っている」


「有馬は肥前の国人衆の中でも、旗色を明確にしておりませんな」

「ああ。しかし——」


利興は書状から目を離し、地図を見た。


「私には義鎮が、そこまで細かく動く人間に見えていなかった。

 腰の重い男だと思っていた。

 事実、先立っての龍造寺との戦の折に動くことが最も好機であったのだ。

 動く前に考えすぎる。大国に胡座をかいた男であると思っていたのだがな」


康範は利興の隣に膝をついた。

「その見立ては——間違っていないと思います」

「間違っていない?」

「義鎮殿は、確かにそういう人物でしょう。しかし——」


康範は地図を見た。博多から有馬まで、視線でゆっくりとなぞる。

「利興殿が読み違えているのは、義鎮殿個人のことではないかもしれませんな」


————————————————————


利興は思わず康範を見つめる。


「どういう意味だ」

「義鎮殿個人ではなく大友という家に考えを巡らせてくだされ」



「大友家は鎌倉の頃から続く名門です。

 豊後に根を張って、もう三百年以上経つ。

 その間に何度も戦乱があり、何度も主君が変わり、それでも大友は残り続けた。なぜか分かりますか」


「……国力と、博多の利だ」


「それだけではないと思いますのですよ」


康範の声は静かだった。

しかし利興には、その静けさの中に何か重たい事実がある気がしていた。


「九州の国人衆の多くは、先祖代々、大友と何らかの繋がりを持っています。

 大友から偏諱を受けた家があ李、大友の裁定で所領を認められた家がある。

 大友の旗の下で共に戦った家がある。そういう繋がりが、三百年分積み重なっております」


「……それは分かっている」

「では——有馬が返事を先延ばしにしている理由は、何だと思われますか」


利興は答えなかった。


「当家に降ることの利が薄いからではないと思います。

 当家の掲げる条件は、有馬にとって悪くないはずです。

 しかし有馬の家中の多くは——佐伯につくという選択を、本能的に躊躇っている。

 大友に逆らう、ということへの、理屈ではない怖れがある」


「理屈ではない怖れ」


「武士とはそういうものなのです。鎌倉以来の名門に弓を引く。

 それは単なる政治的な選択ではなく、先祖への不義に見える者がいる。

 そういう価値観を、利興殿はこれまで相手にしてきたことがなかったのではないですか」


部屋の中に、長い沈黙があった。


玄界灘から風が入ってきた。

利興は地図に目を落とす。


博多。平戸。有馬。

これまで、この三点は「利で動かせる駒」として見えていた。

しかし今、康範の言葉を通して見ると

——その三点の下に、利興が触れたことのない骨格が見えてきた気がした。


三百年分の、武士の記憶。

銭と理では溶かせない、先祖代々の価値観。


「……私は」

利興は声に出した。


「義鎮を凌げば、大友すら降せると考えていた。

 しかし本当の相手は——大友という家が九州に積み上げてきた三百年なのかもしれんな」


康範は何も言わなかった。

余計なことを言わないのも、この男の長所だった。


しばらくして、利興は顔を上げた。

「神屋殿に返書を出す。

 博多における大友の動きを、より細かく報告してもらう。

 特に——松浦への大友の接触がないかを注視してほしいと伝えてくれ」


「承知しました」


「来月、直茂が怡土に来る。

 その前に有馬の返書の有無を確認する。来ていなければ——それ自体が答えだ」


康範は立ち上がった。

「康範」

「はい」

「今日の話は——よく言ってくれた」


康範は軽く頭を下げた。

「俺は傍で利興殿を見てまいりました。殿は恐ろしく聡い。

 おそらく私には思いもよらぬことを考えておいででしょう。

 だからこそ銭と理で動かせない人間と初めて向き合う日が来たとき

 早めにお伝えしておこうと思っていたのですよ」


それだけ言って、康範は退室した。


————————————————————


一人になった利興は、再び地図の前に座った。

博多。平戸。有馬。


三点を、指でゆっくりとなぞった。

これまでの十数年、利興は常に「相手より先に動く」ことで盤面を有利に保ってきた。

対馬の密貿易を暴いたのも、壱岐を取ったのも、博多に根を張ったのも、肥前に手を伸ばしたのも

——全て、相手が気づく前に動いてきた。


そしてその全ての局面で、相手は「利と理で動く人間」だった。

利があれば、断りが腹に落ちれば動く。

その原理で、これまで盤面を読んできた。


しかし今感じている大友の重力は——全く異質のものだ。

義鎮が命じなくても、大友の旗を見るだけで膝を折る武士がいる。


三百年の歴史が作り出した、理では測れない引力だ。


(俺が長崎を動かし始めた瞬間に、その引力が一斉に働き始める)


有馬が揺れるのは、義鎮に動かされるからではない。

大友という重力に引き戻されるからだ。

そしてその重力は——松浦にも、博多の商人にも、同じように働いている可能性があった。


利興は茶を飲んだ。

茶はもう冷めていた。


————————————————————

弘治三年・九月 肥前・村中城

その夜、鍋島直茂(なべしま なおしげ)のもとに有馬からの使いがやってきた。


直茂が送った書状——佐伯家への降伏勧告への返事だ。


封を開いて、直茂の手が止まった。


「此度の件、家中にて協議の上、改めてご返書申し上げる」


簡素にそれだけ記されていた。


(先延ばしだ)


直茂は私信を折り畳んだ。

先延ばしは答えの一つだ。

しかしその答えが何を意味するのか——直茂には、嫌な感触があった。


有馬の家中は、佐伯の条件が悪いから迷っているのではないだろう。

おそらく佐伯家の急激な勢力拡大を警戒した大友家から。裏で手が回っているはずだ。


(これは——利興殿が経験したことのない力かもしれない)


直茂は机に向かった。

筆を取る。利興への書状だ。


今後、起こりうる危険のある事態を羅列し

主君への注意喚起の内容を短い時間でまとめ上げる。


書き終えて、直茂は筆を置いた。


窓の外、村中城の秋の空が広がっている。

隆信がいた頃、この城には常に熱があった。

怒鳴り声があり、笑い声があり、誰かが常に動いていた。

今は静かだ。

しかしその静けさの中に——直茂には、遠くで何かが動き始める気配が届いていた。

大友の矛先が、今、この肥前に向けて働き始めている。

書き続けると決めたので、日間でも週間でも

1度は1位を取れるように頑張ります!


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特に日間ランキングに載っていると、ブクマいただけていない皆様にも

更新が知っていただきやすいんじゃないかと思ってます。


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他の方にも届けるため、次回見つけやすくしていただくために、ぜひ「評価☆」をいただけますと幸いです。

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