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天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第三章 九州争乱編

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53話 国割評定(下)

本業が忙しく、更新が滞っておりました。

そんな中でも、涙が出るほど嬉しい感想をいただきました。

完結まで書き続ける覚悟を決めました。

構想はありますので、更新が遅くなるかもしれませんがお付き合いいただけますと幸いです。


頑張って更新頻度を上げていきます。


-----


ほのぼの系も書きたくなり、2作目も始めました。

箸休め的な更新になりますが、歴史物と一緒に読んでいただけると嬉しいです。


氷が解ける音をきく-転生バーテンダーの気ままなスローライフ-

https://ncode.syosetu.com/n6126mb/

利興が地図の上に指を滑らせる様子を、利繁は食い入るように見つめていた。

対馬、壱岐、唐津に武雄。

兄が重要拠点に指を置くたびに、広間の空気が研ぎ澄まされ、重圧を伴って膨れ上がっていく。


「今後の方針を伝える」


利興の声は静かだ。しかし、広間の全員がその一音も漏らさぬよう耳を傾けている。

評定が始まってから、兄は一度も声を荒らげていない。

各々が担当する領内の報告を聞いても。鼓舞することもない。

ただ淡々と、帳簿に記された事実を積み上げている。

そこにいる誰もが雑談をせず、脱線もしない。

武士の寄合というよりは、巨大な商家の奥座敷のような光景が、一刻近く続いていた。


————————————————————

今後の大枠の配置は下記の通りである。


津奈調親(つな しげちか):壱岐国を直轄領として領有。対馬、壱岐の軍事統率権を拝領。

柳川調信(やながわ しげのぶ):対馬国の代官として朝鮮との交易を担当。対馬、壱岐の民政も監督する。

佐須景満(さす かげみつ):名護屋の新城郭と王直、松浦党と交易を担当。


そこに大名として、ここ怡土(いと)・高祖城に居を移し

博多とさらに東に見据える大友に備えるのが、兄である佐伯利興(さえき としおき)である。

副将として城下の開発と軍指揮を担うのが、側近である山本康範(やまもと やすのり)


ここに少し前より、新たな領地となった武雄の開発と、対龍造寺を任せられた

佐伯利繁(さえき とししげ)ならびに副将として新参である後藤貴明(ごとう たかあき)が加わる。


利繁は自らの発言の機が来ると、武雄の現状を短く報告した。

「武雄は元来、刀剣などの鉄産業が盛んな土地。

 対馬の銀山開発で生まれる鉄をこちらに移し、新たな物産といたします。

 さらに鉄を対馬経由で朝鮮の銅と交換するルート、試験的ではありますが開通いたしました。

 また、武雄山中にも鉄鉱の出る場所を特定しております。今月中に開けば、生産量は倍となります」


兄は無言で頷く。

利繁も言葉少なに応じる。

武雄での半月の苦労が、わずかば刻で処理される。

だが、この速度こそが佐伯の強さだと、利繁は身をもって理解していた。

事務的に見える兄にも、長年の津奈の働きに報い、恩賞として土地を与える情も度量もあるのだ。


「龍造寺との決戦は避けられないだろう。しかし今当たれば恐らく五分。

 勝利をしても、被害は大きくなる。そこでまずは、龍造寺を包囲する」


利興の言葉に、後藤貴明が身を乗り出した。

「包囲とは……物理的な囲いを作るということでしょうか」


「いや。怡土から東、唐津から南、武雄から西。三方から龍造寺の経済を締め上げる。

 龍造寺の本拠は村中城。すでに袋の鼠よ。

 周囲の『物の流れ』を押さえれば、奴らは動けなくなる。兵糧すら干上がることになろう」


利興は冷徹に言い放つ。


「龍造寺の物産は博多経由で外に出ている。

 その西の入り口を我らが握れば、奴らの富はこちらを通らざるを得ない。

 そこで通常の倍の値でも構わん。全て買い上げよ。たちまち龍造寺領内から物産は消える」


利繁はこのやり取りを聞きながら、自らの役割を再確認した。

武雄から北——まずは鉄を使って唐津への商人の路を太くする。

物が動くようになれば。商人も武雄を無視出来ない。

我らに協力的な商人が増えれば、こちらの匙加減で龍造寺の南側を経済的に窒息させることが出来る。


だが、その円環を完成させるには、最後の欠片が必要だった。


————————————————————


「恐れながら兄上、龍造寺が領する村中城の眼前。南にも海がありまする。

 三方からの包囲も、海を介した交易を行われては無意味ではありませぬか。物量も陸上とは比にならず」


「よう気付いた。そこで先に肥前長崎よ。

 今は、貴明の親類たる大村が治めておろう。ここを降し、内海への制海権を握る。

 すでに大村は南蛮人に土地を寄進しながら取引を進めてもいるらしい。

 長崎の窓口が開けば、唐津は日本海、長崎は南蛮、対馬は朝鮮。

 この三方から銭が入れば、龍造寺との決戦、ひいては九州攻略の費用はすべて賄える」


利繁は地図を見た。長崎の深い入り江。あそこが開けば、唐津より大きな南蛮船が入港できる。

さらに島原方面から有明海を封鎖すれば、兄の言う通り龍造寺は手も脚もでないだろう。


「長崎を征するのはいつ頃をお考えで」

貴明の問いに、利興が利繁へ視線を向けた。


「利繁、いかがか」


全員の視線が利繁に集まる。


「出兵は、今しばらくお待ちください

 後藤殿が大村方面の情報を集めております。一月から二月後といったところでしょう」


「わかった。今月中に目処を出せ」

「承知しました」


利繁は兄の言葉に頭を下げた。

————————————————————


評定を終えた利繁は、武雄への帰路を急いでいた。


春の陽光が注ぐ肥前の山道。

馬を走らせる利繁の背後には、後藤貴明と数名の側近たちが続く。

蹄の音が規則正しく響く中、利繁の頭は既に、武雄という土地とそこに根付く国人衆たちを治める方法で埋め尽くされていた。


「利繁様、少々急ぎすぎではございませぬか」

側近の一人が声をかけるが、利繁は振り返りもしない。


「時間は、金や鉄と同じく限られた資源なのだ。兄上に『二月』と申し上げたのだからな。

 新たな産業の振興に軍事の手配。やらねばならんことは山ほどある。時がない」


利繁の言葉は鋭い。

かつて対馬の港で、兄の背中を不安げに追っていた少年の面影は、そこにはなかった。


武雄という土地は、肥前の中心部と西端の長崎、そして北の唐津を結ぶ「要」である。

この要所の開発が滞っては、兄・利興が描いた龍造寺包囲網は、砂上の楼閣に終わる。


武雄城に入ったのは、日が大きく西に傾いた頃だった。

だが、利繁は城で休息を摂ることを良しとしなかった。

馬を降り、泥に汚れた袴のまま、城下に集まった武雄の国人衆や地侍たちを広間に呼び集めた。


「皆、よく集まった。怡土での評定の内容、および今後の配置を伝える」


利繁が地図を広げると、国人衆の間にざわめきが広がった。

彼らが目にしたのは、見たこともないほど精緻な地図だった。

そこには山々の高低、川の流れだけでなく、建設が予定されている「新しい道」が赤い線で書き込まれていた。


「今日この時から、武雄は単なる土地ではない。佐伯の、そして九州の富を生み出す源となると心得よ!」


「……富、でございますか? 佐伯様は我ら武士に、商人の真似事をせよと仰るのかな」

最前列に座る年配の地侍が、不快げに顔を歪めた。


「左様。武士の役目はこれまで『領地を守る』ことだった。いわゆる一所懸命であるな。

 だが、これからは『領地を動かす』ことに変わる。

 いいか、この赤い線を見ろ。武雄から唐津の港まで、一直線に道を敷く」


「道を作るなど、多額の銭と人手がかかります。今の武雄には、そんな余裕など……」


「銭ならある」


利繁は、懐から一通の書状を取り出し、畳の上に叩きつけた。

「博多の商人・神屋かみやからの借用状だ。

 武雄で生産される刀剣と新たな鉄鉱脈から生産される鉄の三割。

 これらを、向こう三年間博多へ優先的に流すと約束した。

 その担保として、既に銀は怡土に届けられている。明日には、その一部がここへ着く」


広間が静まり返った。

まだ掘り出してもいない鉄を売り、その金で道を造る。

そんな発想、この地の国人たちには思いもつかなかった。

彼らにとって富とは、秋に収穫される米であり、敵から奪う略奪品でしかなかったからだ。


「納得がいかぬ者は、今すぐこの場を去れ。

 ただし、佐伯の統治の仕組みから外れた者にはこちらからの考慮もないぞ。

 反旗を翻してすり潰されるか、独力で土地を開発せよ。

 それらの者は龍造寺との決戦が始まるまでには、我らと遜色ない装備と備えを揃えておくことだ。

 兵糧も武器も持たぬまま、かの熊の餌食になるなど笑えぬからな」


隣で聞いていた後藤貴明は、微かに戦慄した。

この若者は兄の明確な絵図と統治の方法を学んでいる。

それを自分の血肉とし、武雄という土地に合わせて最適化しようとしている。


「後藤殿。其方には、この道を普請する総指揮を任せる」

「……私が? 大村方面の調略はいかがいたしましょう」


「並行して行なってもらえるか。

 昼間は兵を出し、人夫と共に普請に従事し体を鍛えさせる。

 武士の誇りなどという曖昧なものは、この道が完成した時に得られる『利』で書き換えてやる」


「……承知した、利繁殿。某も貴公が言う通り、佐伯の統治には逆らえそうにない」


貴明は苦笑しながら、深々と頭を下げた。

書き続けると決めたので、日間でも週間でも

1度は1位を取れるように頑張ります!


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