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天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第三章 九州争乱編

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52/71

50話 開門

第三章突入です。

引き続きよろしくお願いいたします。


初めての執筆となります。

時代考証などが甘い部分がありますが、エンターテインメントとしてお楽しみください。


頑張って更新頻度を上げていきます。

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ほのぼの系も書きたくなり、2作目も始めました。

箸休め的な更新になりますが、歴史物と一緒に読んでいただけると嬉しいです。


氷が解ける音をきく-転生バーテンダーの気ままなスローライフ-

https://ncode.syosetu.com/n6126mb/

天文二十六年(一五五七年)二月。

武雄、塚崎城。

夜明け前の冷気は、昨夜の城内の喧騒すらも凍らせたかのように静まり返っていた。


————————————————————


本丸の広間では、後藤貴明(ごとう たかあき)が一人、自身の得物である十文字槍の穂先を磨いていた。

「……民のため、か」

昨夜、自ら口にした言葉が、冷え切った空気の中に白く消える。


後藤家を継いで以来、彼は常に「戦うこと」で家を、そして民を守ってきた。

敵を殺し、あるいは追い払う。

その武勇こそが統治の正当性であり、誇りであった。

しかし、先立っての負け戦と佐伯軍による包囲は、彼の価値観を根本から揺さぶっていた。


佐伯軍は、その背後にある圧倒的な「富」の力を見せつけてくる。

整然と並ぶ最新の武具、専業兵士たちの鍛え抜かれた肉体、工夫を施された兵糧の炊き出しの匂い。


それらは己自身が積み上げてきた「武士の意地」では決して届かないだろう。

佐伯家の使者はそれを富を生み出す「仕組み」と言った。


「貴明様、お支度が整いました」

影のように現れた老臣が、静かに頭を下げる。


貴明は立ち上がり、紅蓮の甲冑の緒を締め直した。

白装束は着ない。負け犬として首を差し出すのではない。

新しい仕組みの中に、後藤の武勇を「持ち込む」ための門出なのだ。


「開門せよ」

貴明の低い号令が、城内に響き渡った。


————————————————————


ギギィッ……。

固く閉ざされていた塚崎城の大手門が、内側からゆっくりと押し開かれた。

門の隙間から差し込む冬の朝陽が、土煙を黄金色に染める。


現れたのは、後藤貴明、ただ一人。

馬にも乗らず、家臣も連れず、ただ一振りの槍を片手に、彼は堂々と門外へと踏み出した。


門の先、わずか百歩の地点。

そこには、漆黒の具足を纏った佐伯利繁(さえき とししげ)が、黒鹿毛の馬に跨り、泰然と待ち構えていた。


周囲を囲む五〇〇〇の佐伯兵たちは、貴明の姿を認めるや、一斉に槍の石突を地面に打ち鳴らした。


ドォン、ドォン、ドォン。


それは嘲笑の音ではない。

自分たちが死力を尽くして戦った敵将への、一人姿を表した益荒男への敬意を表したものであった。


貴明は利繁の数歩手前まで歩みを進めると、足を止めた。

二人の間に、冷たい風が吹き抜ける。


凍てつく川の中で、互いの命を削り合うように太刀を交わした二人である。

その時の殺気は、今は深い静謐へと変わっていた。


「……待たせたな、佐伯利繁殿」

貴明の声は、掠れながらも力強かった。


利繁は無言で馬から降りた。

具足が重々しくぶつかり合う音を立て、二人は同じ土の上に、対等な目の高さで立つ。


「後藤貴明殿。良き返答を、お持ちいただけたか」


「ああ。……後藤家は降伏致す。

 俺の首が必要なら、今ここで撥ねるがいい。

 伝え聞いた条件の通り、塚崎の民と兵には、佐伯の仕組みとやらで豊かな暮らしを実現してくれ」


貴明は、自身の槍をゆっくりと地面に置いた。

「己の意地より、民の暮らしを選んだ。……それが、俺の出した答えだ」


利繁の瞳が、僅かに細められた。

そこには勝ち誇った色などなく、むしろ深い安堵と、貴明という男への確かな敬意が宿っていた。


「……後藤殿のその言葉、しかと受け取った。

 佐伯利興の名において誓おう。今日この時より、塚崎の民は佐伯の民だ。

 飢えさせることは、我が兄が許さん」


利繁は一歩踏み出し、地面に置かれた貴明の槍を拾い上げた。

そして、それを再び貴明の手へと差し出した。


「槍は持っていけ。

 貴殿の役目は、ここで終わりではない。

 ……今日からは私の副将として、その槍を、さらに広大な地を切り拓くために使っていただきたい」


「……敗戦の将に、過分な評価だと思うが」


「負けたのは『昨日までの仕組み』だ。貴殿の武勇が負けたわけではない」

利繁は微かに笑った。


「それに、貴殿のような男を丸腰にするのは、肥前の損失だ。

 ……改めて言おう。歓迎するぞ、貴明殿。俺と共に、新しい世の先陣を切ってくれ」


貴明はしばらくの間、自分の手の中に戻ってきた槍の重さを確かめていた。

そして、差し出された利繁の手を、骨が鳴るほどの力で握り返した。


————————————————————


和睦の儀は、これ以上ないほど静かに、しかし早急に進んだ。

利繁は即座に、包囲していた五〇〇〇の兵に対し、武器を収めるよう命じた。


それと入れ替わるように、城外の輜重隊が動き出す。

運ばれてきたのは、名護屋から届いたばかりの大量の米俵と、越冬のための薪であった。


「炊き出しの準備をせよ! 城内の者たちにも、まずは温かい粥を配れ!」


利繁の号令が飛ぶ。

先ほどまで殺し合っていた佐伯の兵と後藤の兵が、戸惑いながらも、一つの焚き火を囲み始める。

冷え切った空気に、米を炊く甘い匂いが広がり始めた。


貴明は、城門の脇に腰を下ろし、その光景を眺めていた。

家臣たちが恐る恐る城から出てきて、佐伯の兵から粥を受け取っている。


一人の少年兵が、熱い粥を口にした瞬間に大粒の涙を流した。

その涙は、屈辱ではなく、生き延びたという安堵と、空腹が満たされる喜びによるものだった。


(これで……よかったのだ)


貴明は深く息を吐いた。

その背後、城の奥深くからは、まだ敗北の重みに沈む空気も漂っている。


だが、目の前で広がる「腹一杯飯を食う」という佐伯家では当たり前の光景が

それを少しずつ上書きしていく。


その時、遠く北の街道から、一団の騎馬武者が近づいてくるのが見えた。

中央には、漆黒の陣羽織を纏った男。


「……兄上」

利繁が呟き、姿勢を正した。


冬の朝陽が、高く上り始める。

霜の降りた肥前の大地が、これから始まる巨大な動乱を予感させるように、白く輝いていた。

読んでくださる皆様のおかげで、50話を書き終えることができましたm(_ _)m

本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m


さて、本日は少し実験をしています。

普段は1話=5000文字前後なのですが、本日は1話=3000文字前後で更新回数を多くしています。

皆さん、どちらが読みやすいでしょうか?

教えていただけますと幸いです。


(更新多いと、タイトル考えるの大変&1日の総文字数は増えている(T_T))

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面白いと感じていただけましたら

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特に日間ランキングに載っていると、ブクマいただけていない皆様にも

更新が知っていただきやすいんじゃないかと思ってます。

少しでも次話を読んで良いかなと思っていただけましたら

他の方にも届けるため、次回見つけやすくしていただくために、ぜひ「評価☆」をいただけますと幸いです。

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