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天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第三章 九州争乱編

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46話 進軍

第三章突入です。

引き続きよろしくお願いいたします。


初めての執筆となります。

時代考証などが甘い部分がありますが、エンターテインメントとしてお楽しみください。


頑張って更新頻度を上げていきます。

-----

ほのぼの系も書きたくなり、2作目も始めました。

箸休め的な更新になりますが、歴史物と一緒に読んでいただけると嬉しいです。


氷が解ける音をきく-転生バーテンダーの気ままなスローライフ-

https://ncode.syosetu.com/n6126mb/

天文二十五年(一五五六年)十二月。

対馬、壱岐、そして肥前名護屋。

宗氏から権限奪取の余波を収めた佐伯利興(さえき としおき)が、次なる一手として選んだのは、筑前国怡土郡(いとぐん)であった。


九州最大の富の集積地、博多。

そこを正面から力で奪うのではない。博多に入る「喉元」を物理的に制圧し、物流の蛇口を握る。

そもそも龍造寺と今すぐに組み合うのは、分が悪い。


————————————————————


名護屋の港は、夜明け前の深い藍色に沈んでいた。

その静寂を破ったのは、重い荷を船に積み込む滑車の軋み音だった。


利興が座乗する旗艦を筆頭に、康範が指揮する重装船、合わせて十五隻。

兵数は一五〇〇。

その船倉には、対馬と名護屋の技術の粋を集めた「大筒」が厳重に固定されていた。

明の技術に朝鮮からの技術者が改良を加えた、この時代において唯一無二の破壊兵器である。


「利興殿、潮が満ちました。追い風も南西から入っております」

ここ肥前を管轄する山本康範(やまもと やすのり)が報告する。


「いいだろう。皆の者!出陣だ!」


利興は舳先に立ち、急速に白んでいく東の空を見つめた。

名護屋から糸島半島まで、海路で半日。

利興がこの航路を海図で精査した時、博多の致命的な弱点が浮かび上がった。


博多湾の入り口は二つ。

東は志賀島、西は糸島半島。

志賀島は大友の直轄に近いが、西の怡土郡は国人領主・原田隆種が握っている。

原田は大友に臣従の礼を尽くしてはいるが、その本質は独立心の強い国人である。


その証拠に当主の原田隆種(はらだ たかたね)は、

高祖山にそびえるを高祖城(たかすじょう)を居城としつつ、大内、少弐、大友と庇護勢力を変えながら

後年の豊臣秀吉による九州征伐では徹底抗戦を貫いている。


「ここを抜く」

利興は静かに、しかし断定的に呟いた。


ここを押さえれば、大友は博多湾の西の玄関を失う。

南蛮船、明船、そして対馬からの物資。

博多に入る物産の「血流」をせき止めることが可能になるのだ。


「康範。上陸と同時に沿岸の港をすべて封鎖しろ。

 一隻の漁船も博多へ走らせるな。情報が漏れる前に、高祖山の裾野を囲むぞ」


「承知。大筒の陸揚げ、山中への搬送を最優先いたします。

 滑車と(なわ)の準備は、名護屋での演習通り完璧に整っております」


利興の軍略には、武士の「名乗り」も「儀礼」も存在しない。

あるのは、ただ目的を完遂するための効率のみであった。


————————————————————


糸島半島西岸、福吉浜。

冬の朝の冷たい砂浜に、一五〇〇の兵が次々と降り立った。


波打ち際で震えながら遠巻きに眺める漁師たちは、

見たこともない異形の漆黒の鎧と、船から吊り上げられる巨大な鉄の筒に言葉を失っている。

彼らが知る「戦」は、馬に乗った武士が名乗りを上げ、槍を交えるものだ。

だが、目の前の軍勢は、まるで見知らぬ巨大な「装置」のように、一切の無駄なく分担された作業をこなしている。


「斥候を戻せ。高祖山城の動向は」

「はっ。城内、兵三〇〇余り。

 原田隆種は今朝の異変に気づき、城に籠っております。

 近隣の国人衆、二家が動こうとしておりますが、数は合わせて一〇〇に届きませぬ」


「その二家に使者を出せ。

 『戦わねば、今の土地の石高はそのまま安堵し、さらに名護屋の商いの利権を分け与える。

 利に疎い主従に殉じれば、明日からの飯が泥になるぞ』と。

 ……原田を見捨てれば、家族に白米を食わせられると伝えろ」


利興の調略は、常に「義」ではなく「利」を狙う。

半刻も経たぬうちに、周辺の国人は沈黙した。

彼らにとって、城に籠った主君と遠く府内から庇護の姿勢を見せる大友の権威と比べ

目の前の人間がもたらすであろう銀と、見たこともない大筒の威圧感の方が遥かに現実的な力であった。


利興は高祖山を見上げた。

険峻な山城だ。正面から攻めれば、どれほどの犠牲が出るか分からぬ。

だが、利興にはその必要はない。


「大筒を中腹まで引き上げろ。

 城の正面、石垣が最も脆い箇所を狙える位置だ。

 道がなければ、周りの農民たちに駄賃を渡し、藪を切り拓かせろ」


康範の指揮のもと、三〇〇の兵と集められた農民たちが工事を開始した。

滑車を巨大な松の木にかけ、太い索を何本も通し、喘ぎながら鉄の巨塊を垂直に近い斜面へと引き上げていく。

それは戦いというより、巨大な土木作業を見るかの如しであった。


「利興殿、これでは城側から丸見えです。矢が飛んで参りますぞ」

従軍している柳川調信(やながわ しげのぶ)が危惧を口にする。


「放っておけ。この距離なら矢は届かん。

 奴らは上から自分たちの破滅がゆっくりとせり上がってくるのを、ただ眺めていることしかできん。

 爪を噛むような思いだろうな」


不敵に笑う利興の表情をみて、調信は顔を引き攣らせたが

利興自身は向けられた顔に気づかなかった。


————————————————————


夕刻。高祖山城の包囲が完成した。

城内では、原田隆種が焦燥に駆られている。

利興の兵数がわずかであることに、最初は侮っていた。

この要害たる山城を、たかが一五〇〇で落とせるはずがない。

籠城して半月でも保てば、いずれ大友の後詰が来るはずだと。


だが山の中腹、城門の真正面に据えられた三門の大筒が、その常識を根底から粉砕した。


「降伏の使者は」

「……戻りませぬ。隆種、徹底抗戦の構え。城壁に弓隊を配備したようです」


「そうか。ならば始めよ。……放て!」


利興が短く命じた瞬間、冬の山が裂けるような轟音が響いた。

一発目の砲弾が、高祖山城の重厚な石垣を直撃した。

数トンの石が、まるで乾いた土塊のように崩れ落ち、轟音と共に斜面を転げ落ちる。

城兵たちの悲鳴が、山を駆け下りてきた。


「二発目、門を狙え。……無駄な弾は撃つな、銀の塊だと思え」


次の一撃は、巨大な城門の厚板を紙細工のように引き裂き、背後の土塀ごと吹き飛ばした。

城内からは、もはや声すら上がらなかった。見たこともない「天災」のような威力。

矢も槍も届かぬ距離から、一方的に自分たちの守りが消えていく。

その光景に、武士たちの戦意は瞬時に蒸発した。


半刻後、白旗が上がった。

鎌倉以来の歴史を誇る原田氏の誇りは、わずか数発の鉄球によって、物理的に粉砕されたのである。


————————————————————


「……命だけは、命だけはお助けいただきたい」

白装束を纏い、山を下りてきた原田隆種は、利興の前に崩れ落ちた。


「高祖城も、怡土の差配も、全て差し出します。

 どうか、家名の存続を……。某の首一つで此度の戦を収めてくだされ」


利興は、冷徹な目で隆種を見下ろした。

そこには、降伏を受け入れる慈悲も、敵を称える敬意もない。


「康範!」

「はっ」


隆種の表情が変化する暇もなかった。

康範の太刀が一閃し、怡土に根を張ってきた領主の首が、冬の枯れ草の上に転がった。


利興にとって、旧時代の権威を盾に交渉を試みる「古い武士」は、新しい仕組みを構築する上での不純物、あるいはノイズでしかなかった。

一度戦火を交えた原田を断罪することは、博多周辺の国人たちへの、これ以上ない「警告」となる。


————————————————————


夜。高祖山城の最上部に立った利興は、北側に広がる博多湾を眺めていた。

右手に能古島。その遥か向こうに、博多の灯りが揺れている。


「今後は私はこの城に居を移そう。

 半年以内に、志摩郡の国人をも全て取り込み湾の西半分を半直轄の体制にする。

 いつでも博多へ手を伸ばすことが出来るこの地に、私がいることは他の大名たちにも脅威になるだろう」


「御意。港の普請も同時に進めます。

 既に漁師たちを銀で雇い、水深の調査を始めさせました」


利興の背後から、柳川調信が数枚の書付を持って現れた。


「利興殿……府内の大友義鎮より、早馬が届きました。

 怡土の一件、相当な衝撃だったようです。アルメイダという南蛮人も動揺しているとか」


利興は、博多の灯りを見つめたまま、鼻で笑った。

「使者は用件を聞かず、丁重にもてなして送り返せ。

 ただし、『博多の商人と話す場を設けるならば、こちらも歩み寄る用意がある』とだけ言伝を持たせよ」


「……大友を飛び越えて、商人と話すのですか。それは義鎮公の面目を完全に潰すことになりますが」


「面目など、一文の価値もない。

 義鎮がどれだけ広大な領地を持っていようと、所詮は旧態依然の大名である。

 だからこの段に及んで使者を寄越すなど甘い対応をしてくるのだ。

 俺が欲しいのは博多の『機能』だ。商人がこちらを向いた時、大友の権威は取るに足らんものになる」


利興は、冷たい海風を深く吸い込んだ。

対馬から壱岐。壱岐から名護屋。名護屋から怡土。


地図の上に引かれた「点」が順調に海を挟む「面」となりつつある。


城内には、調信が作成した怡土郡の検地帳が並んでいる。

まだ粗削りな数字だが、そこには今日から利興が支配する新しい領民たちの、生存の記録が刻まれている。


明日、この城に怡土の全国人衆を集めよう。

語るのは、支配体制や新たな税などではない。

来年の収穫を二割増やすための、灌漑の仕組みと、肥料の流通だ。


「民は、自分たちを豊かにする者を主と選ぶ。

 佐伯の統治を経験し……大友とどちらを選ぶか、試してやれば良い」


博多の灯りは、今夜も明るい。

だが、その灯りを支える油は、いずれ佐伯領を通過しないと届かないことになるだろう。

利興は、静かに城の奥へと戻っていった。


————————————————————


同日。

博多の豪商・神屋寿禎(かみや じゅてい)の元にも、高祖城陥落の報が届いていた。


「……原田様が、一日で」

寿禎は、届いた書状を震える手で置いた。


「左様。大筒という雷のような武器を使い、城壁ごと粉砕したと。

 さらに、原田様は即刻処刑……。怡土の民には、直ちに米が配られているとのことです」


寿禎は窓を開け、暗い海の向こう、高祖山の方角を見やった。

そこには、今も利興が灯しているであろう明かりが見える気がした。


「いよいよか。……新たな勢力が、博多を飲み込もうとしている」


九州の歴史が、一人の辺境の国主によって、取り返しのつかない速度で書き換えられようとしていた。

身に余る反響をいただき嬉しい反面、重圧もありますが

少しでも楽しんでいただけるよう更新してまいります。


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