表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第二章 対馬富国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/72

閑話 遠雷

初めての執筆となります。

時代考証などが甘い部分がありますが、エンターテインメントとしてお楽しみください。


頑張って更新頻度を上げていきます。

天文二十五年(一五五六年)冬。

対馬で起きた下剋上の衝撃は、多少なりとも同じ九州の大名たちは耳にする事態となっていた。

特に商人から伝え聞く石高や物産の躍進と相まって、無視できぬ情報として注視する者も出てきたのである。


今後、佐伯利興(さえき としおき)が向き合うべき男たちの視線は

確かに、この一人の男に注がれていた。


————————————————————


---大友義鎮(おおとも よししげ):豊後・大友氏館---


豊後府内、大友氏館。

九州最大の版図を誇り、大陸や南蛮の珍品が溢れるこの館で二十一代当主・大友義鎮は

ポルトガル人の医師であり宣教師のルイス・デ・アルメイダと碁を打っていた。


パチリ、と硬質な音が広間に響く。

「大友殿。博多の商人たちの間で、妙な噂が流れておりますな」

アルメイダが慣れぬ手つきで石を置いた。

彼はこの年、府内に日本初の育児院を建てたばかりで、義鎮の知遇を得ている。


「対馬のことか。守護代が主を討ち、自ら国主の座に就いたと」

義鎮は視線を盤上に置いたまま、無造作に石を置いた。

「話は届いておる。佐伯利興

 ……宗家の微々たる一族だった男だ。先代を自害に追い込み、火薬を詰めた大筒で石垣を粉砕したというな」


「左様。しかし、彼が恐ろしいのはその武力だけではありませぬ。

 博多の商人たちは、彼を大層な商売上手と評しておりますな。

 土地を広げることよりも、交易と港の発展、情報の取得を重要視しておるようです」


「……さては商人あがりであろうかな」

義鎮は鼻で笑った。


「元来、土地を持たぬ者が国を治めればそうなる。あるいは本質は武士ではなく商いかも知れぬな。

 土地を奪えば石高が増え、兵が増える。それがこの日の本の(ことわり)だ。

 卑しき身分の出であるが故、理解が出来んのだろう」


義鎮は石を一つ手に持ち、アルメイダの拙い布石を見つめた。


「南蛮の商人……お前たちと同じ発想ではある。

 佐伯という男が其方たちと同じように出来るのであれば、少しだけ背筋が寒くなる。

 土地を奪わずとも、国を干上がらせることが出来るであろうからな。

 だが、利興とて対馬という小さな器の中の鼠。大友という巨象を動かすには足らぬ」


「その利興殿から、書状が届いておりましたな。

 名護屋の港を開き、唐津の利権を分かつ代わりに、南蛮貿易の仲介をすると」


「つまらん。虫のいい話だ」


義鎮は盤の端を指した。

「あれは自分が得をする絵を、こちらが得をするように見せかけて描いている。

 商人は、自分が損をする盤面は作らぬ。……アルメイダ、平戸に今年は何隻船が入っている」


「五隻でございます。しかし、その多くが松浦の港に寄り、そこには対馬の影があるとか」


「……博多を握る俺の頭越しに、北の窓口を固めようというわけか」


義鎮は冷たく笑った。

「佐伯利興。なかなか面白い男だな。だが、まだ泳がせる。

 大友の権威というものが、単なる銭の積み重ねで揺らぐほど脆いものか、試してやろうではないか」


義鎮の置いた一石は、盤上のアルメイダの陣を静かに、しかし確実に包囲し始めていた。


————————————————————


---龍造寺隆信(りゅうぞうじたかのぶ):肥前・水ヶ江城--


「唐津の収益、また三割が対馬に流れたか」

肥前水ヶ江城。龍造寺隆信は、報告を行う家臣を睨みつけた。


一度は家督を追われ、筑後に逃れながらも再起を果たした隆信にとって

肥前の支配権は何よりも優先されるべきものである。


「はっ……松浦家との取り決めで、港の実務と関銭の徴収を対馬宗家が握っておりますゆえ。

我らが手を出そうとすれば、対馬の船団が海上を封鎖し……」


「わかっている! 同じことを口にするな!」

隆信が怒鳴ると、広間が震えた。隆信の威圧感は、並の武士なら立ち竦むほどであろう。


隆信は、冬枯れの肥前平野を見つめた。

「利興という男……。俺が肥前の地を這いずり回り、泥にまみれて領土を広げている間に...

 奴は海の上で網を振り、俺が稼いだ銭の『出口』を塞ぎおった」


「隆信様、いかがなさいますか。

 一気に兵を出し、名護屋まで踏み潰しますか。奴らはまだ新参、根は深くないはず」


「今、唐津に兵を割けば大人しくなったばかりの少弐や大友が煩くなるわ」


隆信は苦々しく吐き捨てた。


「それだけではない。あの男は『唐津での交易には津料を』と言ってきた。

 ……我が領地からほぼ物産を吸い上げてなお、我らに銭を払えというのだ。これほど人を食った話があるか」


「……では、拒絶なさいますか」


「いや、言い値で払ってやる」

隆信の言葉に、家臣たちがざわめいた。


「勘違いするな。膝を屈したわけではない。相手が何をしているか分かった上で

 その仕組みに敢えて乗ってやるのだ。乗りながら、その中心部まで食い込み、隙を探す。

 ……知らない相手には勝てぬ。まず懐に入り、奴がどれだけの銭を動かし、

 どこに弱みを抱えているか、この目で確かめてやる」


隆信は不敵な笑みを浮かべた。

————————————————————


---島津貴久:薩摩・内城---


九州の最南端、薩摩内城。

分裂していた島津一族をまとめ上げつつある島津貴久は、嫡男の義久を前に

利興から届いた一通の書状を広げていた。


「父上……この対馬からの提案、いかがお考えで」

若き義久が、慎重に問いかける。


「……恐ろしい男だな」

貴久の呟きは、重かった。

「大友の義鎮はこれを侮り、龍造寺の隆信はこれを憎むだろう。

 だが、俺は畏怖を覚える。この男...

 佐伯利興は、我ら島津を利用しようとしているのではない。『利』で縛ろうとしているのだ」


書状には、琉球との取引を島津が主導し、対馬がその「北の出口」を保証するという

島津家にとって願ってもない好条件が並んでいた。


「琉球から薩摩、薩摩から対馬、そして大陸へ。

 この縦の線を一本引くだけで、南蛮の富は大友の支配する博多を避け、我らの手を経て流れる。

 ……義久、これを見ろ」

貴久は同封されていた地図を指した。


「利興は、敵を作らずに支配する形を知っている。

 大友を力で潰すのではなく、大友が触れられぬ『新しい富の道』を作ることで

 相対的に大友を枯らそうとしている。

 龍造寺には交易の場を与えて飼い慣らし、我ら島津には『対等の交易相手』という餌を投げた。

 ……この書状の行間から、あの男の算盤を弾く音が聞こえるようだ」


「……では、父上。この誘いには乗らぬのですか。

 国人衆への締め上げにも銭はいくらあっても足りませぬが」


「いや、乗る。ただし、条件を一つだけ変えて返答しよう」

貴久の目が、鋭く光った。


「中継ぎを対馬だけに独占させない。島津もまた、独自の『出口』を維持する権利を持つ。

 ……利興に依存しすぎれば、いずれ島津は対馬の小間使いになり下がる。

 あの男と組むには、こちらも同じ『(ことわり)』を持たねばならぬ」


貴久は立ち上がり、外を眺めた。薩

摩の青い空は、海の向こうへと続いている。


「兵を鍛えるだけでは、これからの世は生き残れん。

 銭を回し、民を豊かにし、国を一つの仕組みとして動かす。

 利興が対馬で見せたあの変革を、俺たち島津もここで再現するのだ。

 ……学ぶのだ、義久。あの男の戦い方を」


「強い相手に勝つには二つしかない。

正面からぶつかって砕くか、同じ強さを得て対等になるかだ。

島津は後者を選ぶ。対等にならねば、いずれあの巨大な巡りの中に飲み込まれるぞ」


————————————————————


---対馬:金石城---


対馬、金石城。

利興は、三通の書状を机の上に並べていた。


「大友、龍造寺、島津。……三者三様だな」

利興は、ふっと息を吐いた。


大友義鎮は、実質的な返信を寄越さない。傲慢な静観だ。

しかし、博多の商人たちの動きを通じて、彼が激しい焦燥の中にいることは手に取るようにわかる。


龍造寺隆信は、毒を吐きながらもこちらの申し出に応じた。

彼は牙を研ぎながら、こちらの仕組みを覗き込もうとしている。


そして島津貴久。

彼は条件の微調整を求めてきた。タダでは申し出は受けんという強い意志を感じる。


「……利興殿。島津の条件変更、いかがなさいますか」

控えていた柳川調信(やながわ しげのぶ)が尋ねる。


「受けるに決まっているだろう。島津が自力で強くなろうと足掻くのは、こちらの計算通りだ。

 九州の南に、俺と同じ言葉を話せる相手がいるのは、非常に心強い」


利興は筆を執り、返書を書き始めた。

そこには、島津の提案を全面的に受け入れる旨と、最後の一節が添えられた。


『島津の学びを、こちらも学ばせていただく。海に壁はなく、富に境はない』


「調信、これをすぐに薩摩へ飛ばせ。

 それと、龍造寺には『火薬の原料』を予定より二割多く送ってやれ。

 ……餌は、少し多すぎるくらいが丁度いい」


利興は窓の外を見た。冬の玄界灘が、銀色の光を跳ね返している。

九州の諸大名がこちらを認知し動き出した。

利興が投げた石が、巨大な波紋となって日の本を揺らし始めている。


「夜明けは近いな、調信」


利興の瞳には、九州という盤面を超えた、さらにその先にある「世界の形」が映っていた。

対馬という小さな点から始まった震動は、今、巨大なうねりとなって歴史の頁をめくろうとしていた。

身に余る反響をいただき嬉しい反面、重圧もありますが

少しでも楽しんでいただけるよう更新してまいります。

------

面白いと感じていただけましたら

評価、ブックマーク、リアクション、コメント。

更新の励みになりますので、どんな内容でもいただけると嬉しいです。


特に日間ランキングに載っていると、ブクマいただけていない皆様にも更新が知っていただけやすいんじゃないかと思ってます。

少しでも次話を読んで良いかなと思っていただけましたら

他の方にも届けるため、次回見つけやすくしていただくために、ぜひ「評価☆」をいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ