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天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第二章 対馬富国編

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32話 平戸への道

初めての執筆となります。

時代考証などが甘い部分がありますがエンターテインメントとしてお楽しみください。

天文二十二年(一五五三年)。

佐須盛円(さす もりのぶ)と今後の指針を定めた利興(としおき)は、船を走らせ壱岐の勝本浦に降り立った。

春から初夏にかけや対馬の海は驚くほど穏やかで、突き抜けるような群青色を湛えている。

————————————————————


壱岐の国府としている、生池城の広間には弟である佐伯利繁(さえき とししげ)山本康範(やまもと やすのり)の両名が座していた。

利興が中央に松浦半島の詳細な地図を広げると、二人は食い入るようにその紙面を見つめる。


神屋宗湛(かみや そうたん)殿を通じて、平戸の松浦隆信(まつら たかのぶ)に正式な書状を送った。

『対馬の銀を携え、平戸の港を訪ねたい』とな。

公式な返書はまだ届いていないが...

神屋の息がかかった商人の口からは、前向きな反応があったと聞いている。

……だが、その前に平戸への対処についてお前たちの持つ情報と意見を聞きたい」


利興の視線が、地図上の「平戸」と、その東に位置する「岸岳城(きしたけじょう)」の間を往復する。


「先日、壱岐に平戸を経由した琉球の商船が入ったな。博多商人の往来も増えておろう。

 ここ壱岐に入ってくる情報で、本土の動きに関わるものはあるか」


利繁は少しの間、記憶を整理するように目を伏せ、やがて顔を上げた。

「あります。お言葉の通り、博多の商人が頻繁に壱岐へ寄るようになりました。

 ……彼らの話では、上松浦の筆頭、波多(はた)氏の内情がいよいよ限界に近いようです」


「詳しく聞かせてくれ」


————————————————————


利繁が話した内容は、盛円の報告と一致していたが細部がさらに具体的だった。


上松浦党の総領家である波多氏。

その当主・波多親(はた ちかし)は、家臣団を束ねる力を持っていないようだ。

「岸岳城の蔵は、もはや空に等しいそうです。

 元々、多くの国人が倭寇にも関与しているようですが。

 年貢の横流しが複数の有力家臣によって常態化しており...

 それを知っていて利権を貪る派閥と、主君に忠義を尽くして困窮する派閥が、城内で激しく火花を散らしているとか」


利興は鼻で笑った。

「分裂の火種は、すでに導火線に火がついているということか」

「左様です。波多の有力家臣のうち、すでに三家が平戸の隆信と内通しているとのこと。

 隆信は、戦わずして波多の勢力を飲み込もうしています」


利興は地図の岸岳城を指で叩いた。

唐津の山間部にそびえる城だ。物理的な堅牢さはあるのだろうが、海からも街道からも遠く

経済的な動脈が断たれやすい欠点もある。


「波多を正面から叩くのは、下策の極みだ。山城での消耗戦は時間の無駄だろう。

 ……しかし、隆信が波多を飲み込む動きを、我々が黙って見過ごすわけにもいかんな。

 食い破られた残飯を拾うのではなく、機を見て食い込まねば...

 勢力を拡大された後では交渉の立場も変わってくるだろう」


康範が重々しく口を開いた。

「内側から崩すのが定石。しかし、それはすでに松浦が着手しております。我々が働きかける隙がございましょうか」


「ある。隆信とて、全てを一人で飲み込めるわけではない。

 これまで松浦党が一つに纏まらなかったのが何よりの証拠でもある。

 とはいえ現状を正確に把握する必要があるな……利繁、一度お前が平戸を見てきてくれ」


利繁は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに承知した。

「……私が行くのですか」

「ああ。守護代職にある私が行けば大事になりかねん。

 壱岐の代官であり、私の実弟であるお前が交易の交渉という名目で訪れるなら、向こうも無下にはできん。実務の打ち合わせという体裁をとって、平戸の現状をつぶさに見てまいれ」


————————————————————


利繁が平戸へ向けて出航し、十日後に帰還した。

その肌は潮風に焼かれており、初夏の渡航を生々しく物語っていた。

生池城の広間に利興、康範、そして此度は対馬より盛円を加え報告を聞く。


「どうだった、平戸は」

「……驚きました。博多より規模は小さいですが、商いは盛んです。

 港には琉球の船が二隻、それに唐人の商船もいました。荷の動きも極めて速い。

 そして、一際大きな屋敷を構える商人もおりました」


利興の目が細まる。

「……王直(おうちょく)か」


利繁は深く頷き、言葉を継いだ。

「はっ。明国の海商、王直。

 かつては肥前の五島を拠点にしていたと聞きますが...

 今では隆信が自ら屋敷を与え、平戸に招き入れています。

 王直の周りには、明の商人、琉球の使者、さらには南方の肌の黒い男たちまでが群がっていました。

 平戸の商売の半分以上は、王直が明から持ち込む生糸や絹織物、火薬の原料によって回っています」


言葉を続ける。

「松浦隆信、籠手田安昌の両名と合間見えることは出来ませんでしたが...

 王直という男は頭の片隅に留めておいていただきたく」


利興は無言で頷いた。

————————————————————

五月の半ば、神屋から返書が届けられた。

盛円が目を通し、利興のもとに持参する。

「神屋殿から。松浦隆信殿より伝言がある——との由です」

「読んでくれ」


盛円は書状を広げた。

「『対馬の守護代・佐伯利興殿のご意向、確と受け取った。銀を携えて平戸にお越しいただけるなら、歓迎する。六月の初め、平戸の港でお待ちする。籠手田安昌』」


(隆信本人ではなく、家老の籠手田が署名した)

これは外交上の作法か、それとも隆信自身がまだ判断を保留しているのか。


どちらにせよ——返事が来たことには変わりがない。

「歓迎する、か。籠手田安昌という人間は、松浦家随一の人物だと聞いている。

 幼くして家督を継承した隆信を支えてきたともな。その人間が署名してきたということは

 ——隆信の信任を受けた対応であることは間違い無いだろう」

「利興殿自ら、平戸に赴かれますか」

「向かおう。先に壱岐に経由し、利繁を伴う。先んじて平戸を見てきたため土地勘があるだろう」

————————————————————

平戸へ訪れる算段をつけ、数日壱岐に停泊していた利興の元へ

厳原の盛円から書状が届いた。


簡潔な文書に目を通す。


「義調様が先月、国府の広間で宴席を開かれました。

 費用は交易の収益から出されておる様です。金額は現時点では小さいですが、記録に残しておきます」


利興はしばらく書状を眺めた。


(来たか。思ったより早かったな)


宴席そのものは、当主として珍しいことではない。

問題は——「交易の収益から出した」という点である。


利興は義調に、交易の収益は宗氏の私財とは別に国庫にて管理する伝えていた。

無論、現在の大名の両国経営において考えられないことであることは説明するまでもないが...


小なりといえど利興と定めた原則を、義調は自ら動かした。

書状の通り、額は小さいだろう。

——最初の一歩は、小さいものだ。


かつて佐須盛廉(さす もりかど)が不正を始めたのも、最初は小さな横流しだったはずだ。

人間は、一度動かした手を止められない。

義調がそうなるとは——今はまだ、思わない。

しかし——注視しておく必要がある。


「盛円に返書を書く。義調様の宴席の費用について、内訳を全て記録するよう伝えてくれ。

 咎めるのではない——記録だ。余さずに書き留めておけば良い」


利繁が横で聞いていた。

「……義調様が動いたか」

「国庫の財を使って、私的な宴席を開いたらしい。」

「止めるのか」

「今は止めん。どこで何が起きているかが見えていれば。今は十分だ」


「しかし——国庫の浪費が続けば」

「続けば、時をいただいて話をしよう。今は、平戸に集中する」

利繁は頷いた。

しかし——その顔には不安の影がある。


利興もそれを感じていた。

(津奈殿の言葉が、現実になり始めた。聡明に見えた者も腹が満たされれば、次の欲が生まれるか)


いま優先すべきは松浦である。

優先順位を間違えることは出来ん。


————————————————————


壱岐出航の前夜、康範が利興の部屋を訪れた。

「利興殿に一つお伺いしたい」

「なんなりと」

「平戸で松浦隆信と直接お会いなされるのでしょう。何をお決めになるのでしょう」

「交易上の同盟か、それ以上か。関係の持ち方を見定めるつもりです」

「軍まで踏み込むか」

「今回はまだ、そこまで踏み込んだ話は致しません。

 まずは松浦隆信という人間を見る。信用に足る相手かどうかを確かめる。そう考えております。」


康範はしばらく考えた。

「仮に松浦が信頼に足る人物ではなかった場合、独力で波多とぶつかることが出来るものかな」

「現在の総兵数は一〇〇〇。実戦で動かせるのは、七〇〇から八〇〇。残りは調練を続けております」


「五〇〇の精鋭があれば勝てるでしょう。

 しかし消耗が大きい。岸岳城は山間部の堅固な城であるらしい。正攻法では時間がかかりすぎる」

「やはり松浦との連携を第一の手段として考えるべきですかな...」

「その通りかと。康範殿に動いていただくのは、いずれも松浦と合間みえたのちに」


康範は頷き、部屋を出る。


————————————————————

翌日、利興は利繁を伴い壱岐を出立した。

松浦隆信との謁見。

メジャーとは行かないまでも...

ふたりにとって名の通った武将との、初めての邂逅である。


松浦隆信という人間の器量はいかほどのものか。

——それを確かめに行く。

嵐の季節の前の玄界灘は静かに凪いでいた。

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