27話 銀を携えて
累計PV数がどんどん伸びているのが嬉しく、予定なかったのですが1話だけ更新させていただきました。
本当の本当に
今日の更新はお休みします。
次回の更新は3/28(土) 9:00の予定です。
コメントでアドバイスをいただいて...
史実武将のルビや、改行など、徐々に読んでいただきやすいように改良しています。
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天文十九年(一五五〇年)の秋。
秋の海は凪いでいた。
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九月に入ってすぐ、厳原の港を出港した。
今回は荷を管理する者とは別に、佐須盛円一人を伴っている。
盛円は対馬を離れるのは、今回が初めてとのことである。
これまで対馬-朝鮮間の交易に携わってきたとはいえ、兄である佐須盛廉の私貿易の側面が強かった。
今後は対馬の交易全体を管掌してもらうことになる。
神屋寿禎との取引が正式化すれば、老練な博多商人たちを向こうに回した駆け引きも必要となるだろう。
出来る限り早く、交渉の場に同席させておく必要があった。
船に乗り込む前、盛円が近くに身を寄せてきた。
あまりの緊張を感じ、思わず言葉をかける。
「盛円殿、そう身構えずとも良いのではないですか。」
「そう言われても...のう」
齢五◯に届こうかという壮年の男ですら、これから行うことには身構えるのだ。
そう思うと少し可笑しかった。
途中立ち寄る壱岐までは半日。壱岐で一泊して、翌朝博多へ向かう。
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壱岐の勝本浦に着いたのは、昼を過ぎた頃だった。
生池城の麓に、利繁が待っていた。
「兄上、海路はるばるのお越しありがとうございます。この度は銀を運ばれてきたとか。」
「前回の神屋殿のご希望がゆえ、二◯貫ほどな」
「かなりの額ですな、有効に扱えればいいのですが」
「そうだな」
二人で城の丘に上がる。
丘の上からは、勝本浦の港が見えた。
春に来たときより、船の数が増えているように見受けられる。
対馬との往来が増えた分と、博多へ向かう商船が数隻加わっているうようだ。
「康範殿は」
「今日は南の方に出ているよ。灌漑の工事の現場だ。来月には一本目の水路が完成する」
「順調か」
「想定よりは早い。康範殿が現場に毎日立って指揮しておられることもあるだろう。
あの方は鰐浦でも似たようなことをされてたし、山本康範ここにありって感じかな」
「壱岐の開発はどこまで進んでいる?」
「今年の収穫が終わった段階で、三万五〇〇〇石は超える見込みだね。灌漑工事が完成すれば来年はさらに増産できると思う」
領有当時の三万から三万五千——一年で五千石の積み増しだ。
「博多との交易の話が進めば、麦と海砂の販路が開く。さらに豊かに暮らせるようになるだろう」
「そうなれば交易の利益も乗せて...壱岐だけで五万石が見えてくるね」
「そういうことだ」
「……うまくいくといいな」
「うまくいかせてみせるさ」
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翌朝、壱岐を出た。
船が博多に着いたのは、昼前だった。
朝鮮からの木綿輸入により帆船の質も上がり、必然的に船足も上がっている。
船を寄せたのは、春に来たときと同じ港だ。
秋の博多の港は、春と比べても賑やかに感じられた。
農産物の実りのタイミングもあるのだろうが...
冬が訪れる前に取引を終わらせようとする商人たちの、荷を急かす声が飛び交っている。
盛円は港を見回した。
「……大きいですな」
「近年、対馬も交易が活発になりつつあるとはいえ、やはり人の数と土地では大きく敵いません。
ここを一大消費地として構え、壱岐を中継地点に、大量の産品が対馬を通す流れにします」
「全てを通すのは難しいでしょうな」
「目にみえる全ての荷を対馬の交易に繋げようとは考えていませんよ。
朝鮮との交易実態を鑑みれば、二割。それでなくとも一割通れば十分かと」
「……一割でも、相当な量ですな」
「その通りですな。なればこそ、神屋殿を動かすことの意味は大きい」
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神屋寿禎の屋敷に着いたのは、昼過ぎだった。
案内された部屋で待つと、しばらくして神屋がやってきた。
春に会ったときと同じ——決して慌てている素振りはないのだが...
不自然さが微塵も感じられない滑らかな動きだ。
「佐伯殿。銀はお持ちいただけたかな」
「こちらに」
背後に控える盛円が、荷の中から銀を取り出す。
灰吹法で仕上げた対馬の銀は、純度が高い。朝鮮との取引では、向こうが求める質に充分達している。
神屋は銀を手に取り、しばらく眺めた。
重さを確かめ、表面を確認する。
「……良い銀だ」
「対馬の銀山は、朝鮮から招いた技術者が後継を育てています。精錬技術の向上により品質は安定しています」
「量はどれだけ出せるものでしょうか」
「年間で三〇〇〇貫。石見の三割ほどではございますが...
博多での取引に優先的に使用いただければ...年に一〇〇貫を神屋殿にお贈りいたしましょう」
口を開かない神屋の反応を肯定と捉え、利興は続ける。
「今日は銀だけではなく、もう二つお話ししたいことがあります」
「聞こう」
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利興は懐から紙を取り出した。
一枚の紙面には数字が書き付けてある。
「一つ目は、壱岐の件です」
「壱岐?」
「はい。対馬から博多まで直接結ぶ航路は順風でも三日はかかります。
しかし壱岐を経由すれば、壱岐から博多は一日で着く。
対馬の荷を一度壱岐に集め、そこから博多に放出する。この仕組みを作りたいと思っています」
神屋は利興の手元の紙に視線を落とす。
「壱岐に大きな倉を構えるということかな」
「左様です。対馬の銀と朝鮮の物産を壱岐に集める。
博多商人の皆様が壱岐まで足をお運びいただく事もできますし。
逆に博多からの荷を壱岐に集めれば、対馬への輸送も容易になるでしょう」
「現状、壱岐まで博多の商人が足を延ばすことに益がおありかな」
「正直に申し上げれば今はまだ小さいでしょう。
しかし——壱岐の灌漑工事が成功すれば、壱岐の農産が大幅に増えます。
麦と海砂は建材として活用もしていただけるでしょう。
銀や朝鮮の品だけでなく、壱岐の産物も扱えるようになれば
——博多商人の皆様に壱岐に足をお運びいただく理由が生まれるかと」
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「二つ目の話をしてもよろしいでしょうか」
「続けろ」
「朝鮮から輸入した木綿を博多で売る経路と、南方の物産を買い付ける経路を作りたいと思っています」
「木綿か」
「はっ。
対馬は、朝鮮は釜山の倭館より木綿を輸入しています。
現在は対馬の民の衣料と帆布への使用が主でございますが...扱う量が増えれば、博多でも扱うことが出来るでしょう。
博多商人が木綿を必要としているのは、港で確認しました」
「ほう、確認と」
「春に伺った際には。衣服への需要は確認しております。
この度の我々の船舶の造りや、船足の速さにも関心を示されましたので...
市井で大々的に、対馬からの木綿で作った帆布を喧伝しておきました」
神屋はわずかに笑った。
「……抜かりのない男だな」
「神屋殿からのそのお言葉は、お褒めのお言葉と受け取らせていただきます」
神屋の視線は、ここまで隣で静かに控えていた盛円にも注がれた。
「その男は」
「佐須盛円と申します。対馬の交易管理を担っています。
今後、博多との取引が進めば、この者が対馬側の窓口になりましょう」
盛円は頭を下げた。
「……よろしくお願いいたします」
神屋は頷いた。
「銀ならびに木綿の件も検討いたしましょう。
ただし——今日すぐに動けるのは銀だけですな。まずここ博多の銀の相場からお伝え致す。」
「承知しました」
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神屋の提示した銀の相場は、利興が想定していた範囲内だった。
一度に新規の銀が大量に流通すると、インフレを及ぼす可能性がある
量は月に一◯貫から始めることに合意し、徐々に増やしていく。
これで年間三〇〇〇の資金が、商いを行わずに手に入ると思うとかなりの収穫である。
対馬側が釜山での取引で使う銀と、博多に回す銀は分けて管理する必要がある。
その仕組みは盛円が設計させよう。時には自ら考えさせることも大切だ。
人は当事者意識がなければ理解を進めないし、何よりやりがいを与えなければならない。
「佐伯殿はしがない一商人である儂の申し出を叶え、この度銀を持参くだされた。
約束を守り、信用のおける方であると理解は致した」
「忝く」
「しかし博多での取引は、儂一人で動くわけではない。
他の商人も巻き込む必要がある。儂の口添えがあれば難しいことではないと思うが...
——多少時間をいただきたい」
「わかりました」
「三年後に、より大きな取引をする。それが儂の目算だ。それで構わないか」
利興は頷いた。
「構いません。 我々も三年後の来る日に備え、準備を進めてまいりましょう」
「若い人間の三年は、儂の三年より濃い時間であろう。期待しておこう」
神屋は微笑んだ
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神屋の屋敷を出た頃には、日が沈んでいた。
盛円が隣を歩く。
「……上々の首尾でございましたな」
「そうだな」
「壱岐と木綿の件は、返事を待つことになりますが」
「急がん。神屋殿は動くと決めたら動く人間だ。今日の手応えで、両方とも時間の問題だとわかった」
「……利興殿は、神屋殿の反応を見越すような交渉をされましたな」
「春に一度お会いしていた。聡く有能な商人だ。どういう人間かはある程度見えてくる。
まずは神屋殿との約束を守る。信用を得るにはそこからだと思ったのだ」
「……対馬の荷がこの港に届く日が来るんですね」
「来る」
港の向こうに、秋の海が広がっていた。
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壱岐に戻ったのは、翌日の夕方だった。
利繁が生池城の丘で待っていた。
「どうだった」
「銀は話を通して正式に流通させる。壱岐と木綿は返事待ちだが、動く方向で間違いない」
「……正式に動かせるようになったのか」
「ああ、なんとかな」
「……晴康様に報告できたらよかったな」
「そうだな」
春に博多に赴いた時は、晴康がまだ生きていた。
わずかではあるが、博多の話を、これからの展望を聞かせることができた。
それだけで——充分であった思う。
「壱岐を中継地にする話は、神屋殿が他の博多商人と話をするそうだ。来年の灌漑工事の完成が追い風になる」
「そうか」
「神屋殿はどういう人間だった。前に会ったときと印象は変わったか」
「変わっていない。約束を守る人間と組むというのが信条らしい。そういうところはイメージ通りの商人で良かったと思うよ。」
「意外とシンプルだな」
「信頼は約束と数字で作るさ。余計なことは要らない。もちろん向こうがきちんと得をする打算はあるのだろうが」
「……兄貴に似てるな、その人」
「そうか?」
「なんとなくな」
「利興殿」
「なんだ、改まって」
「壱岐を頼む、と言ってくれたな。来年の灌漑が終われば、ここ交易拠点として一気に動かせると思う」
「ありがたいよ」
二人で笑った。
勝本浦の港が見えた。
夕暮れの光の中で、船が何隻か動いていた。
春に来たときより、確実に増えている。
「三年で二十万石——届くかな」
利繁が言った。
「届かせる。届かせるための努力は惜しまんさ」
「俺もだ」
秋の風が、壱岐の丘を吹き抜けた。
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【佐須盛円】 天文十九年・秋 博多から壱岐へ
船の上で、盛円は今日一日を振り返った。
神屋寿禎という人物と、初めて顔を合わせた。
老いていると言っても差し支えのない容姿ではあったが、目が異様に鋭かった。
利興と似ている——と少しだけ思った。
「約束を守り、信用のおける方」
神屋は利興をそう評していた。
交易に携わるという手段においては、兄の佐須盛廉とは変わらない。
兄はそこで私腹を肥やし、その報いを受けた。
自分は今、その過去を受け入れ対馬を豊かにする道を歩いている。
荷の流れを正確に記録し、より交易を発展させるため頭を凝らす。
それだけだ。
単純なことだが——兄はやろうとしなかったことだろう。
「盛円殿」
利興が声をかけてくる。
「はっ」
「今日の神屋殿との話、どう見た」
「神屋殿は未だ対馬の価値を試しているように見受けました。
我々と手を組む価値があるのか、我々が信に値する取引相手かどうか。
それを三年かけて確認するつもりでしょう」
「同じ見立てです。——盛円殿、交易の発展は其方の双肩にかかっている」
盛円は頭を下げた。
「必ずや、成果を挙げて見せましょう」
波の音だけが、船の周りに広がっていた。
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