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天下の鍵は海にあり!~対馬から始める交易国家運営録~  作者: ワタツミ
第一章 対馬転生編

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24/66

24話 秋の終わり

初めての執筆となります。

時代考証などが甘い部分がありますがエンターテインメントとしてお楽しみください

天文十八年(一五四九年)の秋。

佐須盛廉の反乱を収めた対馬には、静かな時が流れていた。

————————————————————

戦後処理には、十日を費やした。

佐須盛廉に従った下県の国人衆の生存者には、武装を解除させ一人ずつ引き立てて言葉を交わした。

首謀者は佐須盛廉一人だ。他の者は守護代の命に従ったに過ぎない。

国人衆たちの言い分は、利興に改めてそう判断させるものに充分な内容だった。


生き残ったものに関しては全て、咎めなし。

下県に戻って、これまで通り各自の土地を治めてよい

——兼ねてからの想定の通りことを収める。


その内容に関しては、反乱に対する恩赦という形で一人ずつに伝えた。

理由は二つある。

一つ目は、必要以上の下県の国人衆を刺激しないためだ。

彼らは盛廉に従っただけで、利興を憎んでいるわけではない。

(若くして急激に発言力を高めている兄弟に、警戒と妬心はあるにせよ...)

今後、国府のある厳原を中心とする下県の内政を動かすためには、彼らの力が不可欠である。


二つ目は、一連の責の所在を明確にすることで正当性を明示するためだ。

盛廉一人を処断して、他の者は咎めない——という形を取ることで、

利興が「盛廉の不正を糾し、対馬の安定と繁栄を求める」という名分に背かないことが、下県の国人衆に伝わる。


盛円は沙汰を言い渡す場に、常に控えていた。

盛円は国人衆の一人ひとりの名と、それぞれの事情を知っている。

誰が積極的に盛廉に賛同し。誰が蜂起に乗り気でなかったか。

本人の申し開きとは別に、利興に情報を告げる。


並行して、寛大な処置は横から口を挟む盛円の助命嘆願を聞き入れるという流れで

それぞれの国人衆に伝える。これにより兄に背いた盛円への不信感を緩和し

下県の国人衆は何かあれば盛円を頼るだろう。

今後、厳原の交易を管理させる盛円にとっても、下県の国人衆が協力的なことは都合がいい。

————————————————————

上県、そして壱岐からも終結させた軍勢もそれぞれの土地へ戻す。

負傷者の手当て。死者の確認を済ます。

佐須の手勢のうち、重傷者は厳原に留め置き、回復後に希望者に対しては兵役を命じる。

こうして一通り処理を済ませると、考えを今後の動向に移す。


守護代職は空席になった。

代々、守護代を担った佐須家の失脚は衝撃を持って受け止められている。

長年をかけて追いかけた不正は糾したが、現状では何かが変わったわけではない。

島の民の暮らしは、昨日と今日で変わっていない。

変えるのは——これからである。

————————————————————

十日後、利興は晴康のもとを訪ねた。

「戦の後の処理が片付きました」

「そうか」

晴康の声は、また少し弱くなっていた。

先月より、痩せ衰えているようにも見える。

「盛円殿が交易の管理を引き受けてくれています。

 下県の国人衆への取りまとめも、今後は盛円殿が動いてくれるでしょう」

「……盛円は、よい仕事をしているか」

「はい。兄である盛廉を裏切ったのも、抑えきれない正義感を持っていたからのようでもあります。

このまま責任のある立場を与え、己の差配で民が豊かになる実感を得られれば、更に働きを良くするはずです」


晴康は満足そうに笑みをつくる。

利興は一呼吸置き、意を決して尋ねる。

「晴康様」

「なんじゃ」

「お体は——いかがですか」

「……よくはない。」

「はい」

「対馬を落ち着けた。其方は次は博多への繋がりを考えておろう」

「はい。来春には動けると思っています」

「来春か」


晴康は目を閉じて続ける。

「……儂は、来春まで生きておらぬだろう」


利興は何も言わなかった。

「跡目は——義調に継がせる。義調が当主になっても、対馬を豊かにするための動きは止めずとも良い」

「はっ」

「義調は——まだ若い、幼いと言っても良いが、私欲で動く悪い人間ではないと思っておる。

 未熟な部分は支えてやってほしい」

「承りました」


晴康は目を開いた。

「……博多に赴くといことは、神屋寿禎に渡りをつけるか」

「はい、博多との交易を正式に拡大するための、条件の交渉を行います。

 対馬の銀、壱岐の中継地としての機能などこちらから掲げる手札もございますし。」

「条件の交渉か」

「神屋殿は博多で最も影響力のある商人の一人。神屋殿が認めれば——博多の他の商人も動きましょう。

 商いの規模は比較できないほど大きくなります。」

「……準備はできておるのか」

「対馬の今年の実りついては全てまとめております。

 石高、銀山の産出量、朝鮮交易の規模、壱岐の港の荷の動き——書き記した冊子を持参いたします」


晴康はかすかに笑った。

「無用の心配であったな。其方は昔から抜かることがない。

 子供を右筆に任じ、九年間見てきたが儂の方が、学ぶことが多かった程だ」

「……」

「其方の想いと知識を形にする裁量を与えること——それが儂の最後の役割だったと思っている。

 …おいぼれが口が過ぎておるか。下がってよい」

「はっ」

利興は部屋を出て廊下で、しばらく立ち止まった。

来春までに、できる限り対馬の内政を整えよう。

自分を信じた晴康に、豊かになる対馬の断片を見届けさせるのだ。


秋の廊下の冷たさが心地よく足の裏を刺激した。

————————————————————

その夜、利興は勘定方に出仕した。

久しぶりに、一人で冊子に記された数字と向き合う。

対馬の現状。石高八万石相当。銀山の産出量。朝鮮交易の規模。

壱岐の現状。石高三万石前後。勝本浦の荷の動き。麦と海産物の量。

二つの島を合わせると——石高相当で十一万石を超えていることになる。


転生前の史実の知識でいえば充分な大名であるようにも思う。

豊かになりつつある二つの島を、実質自分は差配しているのだ。

(だが、まだ道半ばだ)

利興はそう思った。


博多がある。神屋寿禎がいる。

そして——本土には耳馴染みのある大名たちが控えている。


当面は交易の拡大を目指すが、それは諸刃の剣となりうるものだ。

豊かではあるが、惰弱で組みやすい土地がある。

そう認識されれば、欲に駆られた大名たちの草刈り場となるだろう。


この島を豊かにする。

その方向性は変えない。

しかし豊かな対馬が脅かされるのであれば——喰われる前に、喰う。

利興は筆を置いた。

一人、想いを馳せる胸中とは対照的に、秋の夜の勘定方は静かだった。

————————————————————

十一月に入ると、晴康の体が急速に衰えた。

食が極端に細くなり、起き上がることが難しくなった。

声は出るものの、長くは話せなくなった。


利興は毎日、晴康の部屋を訪ねた。

たわいのない報告をしては顔色を見るのである。

銀の産出量、新たに扱い始めた朝鮮の物産、壱岐の港の整備の様子。

報告するほどでもない話題を持ちかけては、僅かの間だけ言葉を交わす。

それだけだった。しかし——利興には、それが大切だった。

部屋から退がる際に晴康が「また明日」と言う。


まだ話せる。

————————————————————

ある日、津奈が厳原にやってきた。

上県の国人衆への沙汰が一段落したということで、久方ぶりに国府へ顔を出したのである。

「晴康様のご容態は如何か」

と津奈が聞いた。

「毎日、少しずつ弱くなっております」

「……そうか」

「言葉を発することが出来るのも、残り僅かの刻でしょう。

 津奈殿は——晴康様に、何かおっしゃいたいことなどありますでしょうか」

「ある」

「では、この機会に共に訪ねることにいたしましょう」



二人で晴康の部屋を訪ねた。

晴康はいつものように床に横になっている。

津奈の顔を見て、目を細めた。

「……津奈殿か」

「はい」

「……上県は、如何かな」

「落ち着いております。国人衆も、これなる利興殿の新しき政を受け入れ始めています」

「そうか」


「本日は晴康様に——一つだけお伝えしたいことがあって参りました」

「……なんじゃ」

「某は先の御当主将盛様の御恩に、報いることができませんでした。

 しかし——晴康様が見出された利興殿と利繁殿がいま、この島を動かし豊かにされている。

 将盛様が望まれ、己の力の無さを嘆いていたことが、形になりつつあります。

 将盛様はお立場上、ご隠居が解かれることはないでしょう。

 自由に動かれることは宗家の争いの種にもなり望むところではございますまい。

 故にこの津奈調親、これなる佐伯利興を支え、対馬の繁栄のため力を尽くす所存。」

「……そうであるか」

「晴康様には感謝の念をお伝えしたかった」


晴康はかすかに頷いた。

それに応じるうように、津奈は深く頭を下げた。

頭を上げるまでは長い時間だった。


晴康は当主に就く以前、佐須に追いやられた将盛に仕えていた津奈にとって

——今日のこの言葉は、万感の想いを込めたものであるだろう。


部屋を辞し、振り返る津奈に言葉をかける。

「津奈殿、お心ありがたく頂戴致す」

「礼はいい。儂は——己のために佐須討伐動いた。

 将盛様の理想のために。この島の民を豊かにするため動いた。それは今後も変わらん」


津奈は歩き始めた。

その背中が、利興には力強く見えた。

————————————————————

秋が深まった。

利興は毎日、勘定方に出仕し。来春の博多行きの準備を少しずつ進めた。


神屋寿禎へ宛てた書状を書く。

対馬宗家の右筆・佐伯利興と名乗り、対馬の現状を紙一枚にまとめてある。

対馬の石高八万石。銀山の産出量。朝鮮交易の規模。壱岐の港の動き。

余計なことは記していない。数字だけである。

数字は正直であるし、読み取り方で人物を図ることも出来る。

この数字を見れば——神屋寿禎という人物には、対馬がどれほどの力を持っているか、わかるはずだ。


返事が来るかどうかは分からない。しかし——まずは送ることに意味がある。

最初の一手はこちらから指す。

利興は書状を封じ、博多へ向かう商船に乗せた。

累計PV数がどんどん伸びており、非常に嬉しいとともに身が引き締まる思いです。

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