(48) 第2回メレ・アイフェス集合会議⑧
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「おかしな話だよね。リルに限定されるなんて」
「照れているとかいうレベルじゃないようだな」
「だって、サイラスだよ?」
「確かに」
酷評が交わされたが当の本人から文句は、なかった。
サイラスは破損されない奇跡の羽根ペンを使い、黙々と文字を書き続けることに夢中になっていた。
名前は呼べないが、養い子の名前をエトゥール語で綴ることができる。
その判明した事実が、文字をかくという単調な行為に心を躍らせてもいた。
『リル』
そうだ。これがあの子の名前だ。
呼べないが、ちゃんと覚えている。
サイラスはその事実に安心した。
社会不適応者である自覚はあったが、養い子に対して名前を記憶できないほど無関心というわけではないことが証明されたのだ。
『リル』
この名前を書いた紙は、その証明になる。サイラスはその確認のために何度も養い子の名前を書き連ねた。
――――サイラスの字が汚いの
昔、誰かにそう言われたような気がする。誰だろう。
あらためてサイラスは自分が書いたエトゥール文字をみかえした。
ミミズがのたうちまくったような、ゆがんだ筆跡だった。線が安定せずにぶれている。確かに綺麗とは言い難い。
だが、汚いのは当然だった。
こんな古風な道具などという古代の遺物を、使いこなすのはカイル・リードぐらいだ。
そもそもサイラスの世界において、署名などは生体認証で行われ、『名前』を『書く』ことはない。
文字を覚えて書いているだけでも、賞賛に値するのだ。
サイラスは練習をかねて、繰り返し書いた。脳筋らしからぬ勤勉な姿だった。
「これ、どうしたらいい案件かな?」
「原因の追求と当面の対策というところだが――」
ディム・トゥーラはサイラスを振り返り、肝心の本人が心あらず状態でいることにようやく気づいた。
「サイラス」
「………………」
「サイラス」
「…………ん〜〜?」
気のない返事がきた。
ディム・トゥーラは重要な質問を投げることにした。
「サイラス、リルはこの事実を知っているのか?」
ボキっ!
異音とともにサイラスの手の中で羽根ペンが粉々に砕けた。
サイラスの無言の動揺ぶりにカイル達は全てを察した。
「言ってないのかぁ……サイラス、リルには事実を告げた方がいいよ。隠し通せるものじゃない。だいたい、今までどうしてたのさ?」
カイルの追求がいつになく容赦なかった。
ぐっ、とサイラスは詰まった。
「そ、それは、その…………『養い子』とか『妹弟子』とか……」
「え?まさか、名前で呼んでなかったの?ありえなくない?」
グサっ!
カイルの言葉は、サイラスの脳天を直撃した。
「それ、リルが気にしなかった?」
グサっ!
「養い親に名前を呼んでもらえないと、養子関係の解消を望んでるって誤解されない?相当傷つける行為だよ?」
グサっ!
カイル・リードの指摘は正しい。
それに、家を出て行方不明になり、東国の娼館に長期滞在をしていたという負債が加算されるのだ。
自業自得とはいえ、サイラスは重い事実を背負い絶望の底なし沼に沈む寸前だった。
「カイル、そこまでにしておけ。サイラスが満身創痍だ」
「あ…………」
サイラスが卓に突っ伏していた。
はたから見ても、落ち込んでいるのは明白だった。
「そもそも、カイルに相談に来た時点で相当追い詰められている」
「ディム、僕に対して失礼すぎる表現だよ、それって」
「事実だろう」
「おまけに僕に押し付けようとしている」
「お前も賢くなったなぁ」
ディム・トゥーラが面白そうな顔をした。完全に確信犯だった。
カイルは諦めの深い吐息をついた。
「僕がこの件を放置したらどうするのさ」
「俺が放置することはあっても、お前はないな」
「なんで?!」
「お前のお人好し度は筋金入りだし、サイラスの悩みはリルの悩みだ。それを放置できる冷徹な行動が取れるなら、俺は成長としてその選択を賞賛してやるよ」
「くっそ〜〜〜〜っ!」
カイルは悔しそうに立ち上がった。
ディム・トゥーラが腕組みをして笑う。
「サイラス、リルへの説明を引き受けるよ」
サイラスは、のろのろと顔をあげた。
金髪の同僚は、救世主のごとく慈悲の微笑を浮かべている。一番大きな問題に対しての解決策が提示されたことになる。
「…………本当か?」
「だって、サイラスにまかせたら1年くらい状況が停滞するでしょ?」
グサっ!
「カイル、トドメを刺してどうする」
「あ……、えっと……、うん、とりあえず、リルに説明するのが最優先だね。えっと、リルはロニオスのところだっけ?行こうか」
「い、今からか?」
サイラスが珍しく狼狽えている。




