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【新連載】【エトゥールの魔導師2】エトゥールの養い子〜貴方と手を繋ぎたい〜  作者: 阿樹弥生
第2章 貴方に名前を呼ばれたい

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(47) 第2回メレ・アイフェス集合会議⑦

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

『エトゥールの魔導師』一二三書房第7回WEB小説大賞一次選考を通過しました。感謝!


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「シルビアに口止めが必要かあ……」


 サイラスは吐息をもらした。


「お菓子のレシピ、もしくはお菓子」


 カイルがボソリと言う。


「は?」

「シルビアの買収に必要不可欠なものだよ。効果は保証する」

「なんだ、そりゃ」

「事実だ。カイルとイーレが、シルビアに説教されることを回避するための究極備品として多用している。シルビアの専属護衛の女性が、菓子職人並みの腕前で、シルビアは彼女にレシピを渡して、新作の菓子を作ってもらうことで幸福度があがるらしい」


 カイルはディム・トゥーラの解説にうんうんと頷いて同意する。


「………………」

「ちなみにレシピの提供者は俺だ」

「…………管理者の立場で何してんの……?」

「医療従事者を気苦労から解放するのも管理者の仕事だ」


 しれっと用意した口実を語るところが、ディム・トゥーラらしかった。彼はこの用意周到さで観測ステーションの研究馬鹿達を陰で牛耳っていたのだ。


「じゃあ、養い子が語っていたのはマジか?シルビアが常温保存の効かない東国(イストレ)の茶菓子のためにクーラボックスを作らせたって話」


 後ろめたさがあるのか、カイルとディムは揃って、サイラスから視線を逸らした。


「ディム・トゥーラ!」

「…………さっきも話したように、カイルのやらかし具合から比べると、かわいいものだ」

「ディム、なんだかんだと、僕を口実にするのはやめて」

「こいつのやらかし具合を基準にして許容していたら、地上文明が文明開花しちまうだろうが!」

「サイラス、さっきから何気に失礼だよ」


 カイルは諦め気味にやんわりと抗議した。


「だいたい俺から見ればシルビアの壊れっぷりだけで、記憶喪失じゃなく時空を超えて異世界に来た気分だ。全男性研究員の憧れの氷姫はどこに行った?」

「「あ〜〜〜」」


 確かに地上に降りる前のシルビア・ラリムは、無言無表情で職務を果たす銀髪の医局員で、多数のナンパ行為を跳ね除けた難攻不落の『氷姫』として有名だった。

 たまに見せる魅了あふれる微笑がいい、と語る研究員も多数誕生していた。


 だが、カイル達は真実を知っている。

 魅力あふれる古代絵画(モナ・リザ)ごとくの微笑は、シルビアがブチ切れている時に出現する唯一の表情(シグナル)だと――。

 数年の記憶がないサイラスにとってシルビアの変貌ぶりは、別人に近いこともカイルは理解できた。


「サイラスが記憶にない数年の地上生活の影響だと思っていいよ。あれがシルビアの素だけどね」

「…………あれが?」

「うん」

「シルビアのことより、失語症の方が問題だろう。サイラス、養い子の名前を言ってみろ」


 不意打ちのようにディム・トゥーラが本題に戻した。


「――――」


 サイラスは返答に詰まる。

 頭で理解しているのに、発声ができないのだ。


「お前の妹弟子の名前は?」

「――――」


 ディム・トゥーラは質問を続けた。


「今、一緒に行動している専属護衛は?」

「……アッシュ」

「俺達の医療担当者は?」

「シルビア・ラリム」

「西の民の若長」

「熊男のハーレイだろう」


 回答に余計な修飾がついていて、ディム・トゥーラはため息をついた。


「サイラス、若長はエトゥールで言えば、王族に等しい。不敬に当たる」

「本人は喜んでいたぞ」

「は?」

「西の地では熊は強者の比喩だってさ。熊男と罵倒したら、喜ばれた。脳筋にもほどがあるよな」

「脳筋代表のお前が言うな」


 棚上げをするサイラスをディム・トゥーラは嗜めた。

 聞いていたカイルはサイラスに言った。


「サイラス、エトゥールの文字は覚えた?」

「観測ステーションでディムに叩き込まれたぜ」

「養い子の名前がかけるか試してみてよ」

「カイル、試す以前の問題で、サイラスは羽根ペンを折る。観測ステーションでどれだけ破損したと思う?」


 ディム・トゥーラが警告をした。

 カイルは笑った。


「大丈夫、大丈夫、解決手段があるんだ。サイラス、アッシュに東国の投擲武器の飛鋲をもらってない?」

「……なんで、知ってる?」


 悪戯がバレた子供のように、サイラスは珍しく動揺を見せた。間違いなくあの投擲武器は暗器だった。


「別に暗器を仕入れたことは、怒らないよ。というか、以前のサイラスも、それで遊んでいたし」

「――ちょっと、待て。暗器うんぬんは報告書になかったぞ」


 カイルは、がしっとディム・トゥーラに左肩を掴まれた。

 冷や汗をかきつつ、カイルはあえてディム・トゥーラを振り返らずに話を続けた。


「羽根ペンを折らないコツは、飛鋲を扱うように軽く握ることだよ。やってみて」


 サイラスはカイルから羽根ペンを受け取ったが、助言のおかげで破損することを免れた。

 さらに目の前に高級紙とインク瓶がおかれた。


「養い子の名前、かける?」


サイラスは緊張しながら、記憶にある文字を書いた。


「お?」


サイラスは興奮気味にカイルを見た。

 自分の書いたエトゥール語を示す。


「これ、あってるよな?これ、養い子の名前だよな?」

「あってるよ」

「どういうことだ、カイル」


 ディム・トゥーラはカイルを見た。


「サイラスは正しくリルの名前を認知しているってこと。だから書くことはできる。記憶障害ではない。でも名前を呼べない――ディム、これってどう思う?」

神経伝達構造(シナプス)の障害か?」

「そんな単純な話かな?自動修復手段(チップ)があるのに?」

「確かに」

「しかも、リルの名前だけだよ」


 カイルは考えこんだ。

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