(2) 遊戯の達人②
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
8月に未破裂脳動脈瘤が発見され、入院手術を受けたので、かなり間があきました。無事退院できましたので、更新です。(土下座)
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
ディム・トゥーラの行動は、早かった。
彼は同調を切るとわずかな時間で準備をし、衛星軌道上の観測ステーションから、肉体で地上に降下してきたのだ。
過去にサイラス・リーが設定した地上降下のための移動装置は、ありえない異常により王都から南に500キロという不便な地点に設定されていた。
そこから、リルの生家に設置されたエトゥール場内への移動装置は、ある程度距離があった。
にもかかわらず、短時間で支援追跡者がエトゥールの聖堂の出現したことに、カイルの方が驚いてしまった。
「うわっ〜〜最短記録更新…………」
聖堂の扉が突然開き、ディム・トゥーラ本人が現れた時、カイルは思わず呟いた。
「こいつに飛んでもらった」
ディム・トゥーラは、付き従う白い虎の精霊獣を示した。一部を除いて精霊獣の空間跳躍能力は健在だった。
おそらく、移動装置間の距離を精霊獣の跳躍で補完したのだろうと、カイルは察した。
「先ほどの紙を見せてくれ」
カイルが紙片を差し出し、ディム・トゥーラはロニオス・ブラッドフォードが残したふざけすぎた書き置きを肉眼で確認した。
ディム・トゥーラの顳顬がぴくりとしたことを、カイルは見逃さなかった。
「……汚い字だな」
もっともな感想だった。
印刷技術がまだない地上の書物は人の手による写本が多く、その文字のバランスや斜体は、芸術作品に近い。
それに比べて紙片の文字は、ミミズがのたうちまくっているようだった。
シルビアの施療院の片隅で文字の読み書きの学習中の侍女や子供達の方が、まだ上手だよな、とカイルも正直に思った。
しかも、この汚い字には見覚えがあった。
「多分、サイラスが代筆している」
「なんで字がうまいリルに書かせなかった?」
「リルは導師の養い子だが、平民だからね。導師の出奔に協力したとわかれば、エトゥール王への反逆にも問われかねないよ」
「メレ・エトゥールはそこまで狭量じゃないだろう?」
「世の中には、動乱時に自国の領主の足を引っ張る批判者や煽動者にあふれているからね。メレ・エトゥールとメレ・アイフェスの不仲説や反逆説なんか、簡単に噂になるよ」
「猫の家出がそこまで問題になると」
「今、ロニオスをバカ扱いした?」
「父親を批判されたら、やっぱり腹立たしいか?」
「ううん、歓迎しちゃう」
「――」
ディム・トゥーラは、しばしカイルを見つめた。この親子関係も難あり、だった。
「申し訳ありません。私達の世話が至らぬばかりに……」
意気消沈して詫びるのは侍女のマリカだった。
マリカは精霊獣の出奔の理由を世話不足の不満ととらえているようだった。
「マリカの責じゃないよ」
「むしろ、よくあの我儘なジジィの世話をしてくれた。感謝する」
「…………」
「…………」
「…………」
本日はディム・トゥーラの毒舌が、いつも以上に磨きがかかっていた。
これはもしかして…………。
「ディム、もしかしてめちゃくちゃ怒ってる?」
「この騒動のどこに怒らない要素があるのか、説明してもらおうか?」
部屋の気温が下がったのは、気のせいだろうか。
ディム・トゥーラの言葉に、ファーレンシアとマリカが揃って蒼白になる。
さすがにディム・トゥーラは己の失言に気づいた。
「誤解を生んだようだが、俺の怒りの矛先は、地上を救った英雄であり、俺の師匠であり、あの飲んだくれの猫親父だ。姫達に非はない。むしろ迷惑をかけていることを詫びよう」
ディム・トゥーラが女性達にむかって頭を下げる。
それは貴族特有の洗練された礼儀作法であり、女性達は思わず感嘆の吐息をもらした。
カイルはいつのまにか作法をマスターしているディム・トゥーラに唖然とした。
「ちょっとディム……なんで、エトゥールの礼法を熟知しているの?!」
「お前が昔よこした書物の中にあった」
『昔よこした』とは、初期に転送した記憶装置のことだろうし、確かにエトゥールの書庫には、その類の書物が多数あった。
だが、文章だけで理解できる分野ではないのは確かだった。
ディム・トゥーラはカイルの思考を察したように、つけくわえた。
「もちろん、協力してくれる指導者には事欠かないからな」
「指導者って……?」
「エルネスト・ルフテールとセオディア・メレ・エトゥール」
「……はい?」
意外すぎる名前が、ディム・トゥーラの口からでた。
「エルネストは面白がってスパルタ指導をするし、メレ・エトゥールは服まで仕立ててくれた」
「ちょっと待って。そんな話は知らない」
「そりゃ、俺が話してないからな」
しれっと、ディム・トゥーラは言った。
カイルは秘密にされていたことに、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
「なんで?!」
「誰の尻拭いだと思っているんだ」
ディム・トゥーラは吐息とともに、呆れた視線をカイルに投げた。




