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【新連載】【エトゥールの魔導師2】エトゥールの養い子〜貴方と手を繋ぎたい〜  作者: 阿樹弥生
第2章 貴方に名前を呼ばれたい

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(53) 第2回メレ・アイフェス集合会議⑬

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「ずるいよ、ディム」

「なんとでもいえ。ロニオスが地上の絶滅動物(エクスティンクト)情報の全データを開示するまで、俺は彼に逆らうつもりはない」

「全開示が終了したら?」

「全力で安全地帯に回避するに決まっているだろう」


 未来の技術官僚は、サイラス同様に危険回避能力が高いようだった。

 二人の会話をきいていた話題の中心である猫型精霊獣の眼が妖しく光った。


『すると私が最終データを出し惜しみすれば、ディム・トゥーラは永遠に弟子という保証がなされるわけだな?』

「なんでそういう発想になる?!」

『いいことをきいた』

「ディム、珍しく墓穴を掘っているよ。もう絶滅動物情報は諦めたら?」


 カイルが慰めるように、ディム・トゥーラの肩を叩く。


「永遠にロニオスの弟子である可能性は、絶対に回避した方がいいよ。自由を放棄して、奴隷になるくらいマゾな選択だよ?」

『カイル・リード。とことん、私と話し合いをしたいみたいだな?』

「僕は僕の支援追跡者(バックアップ)を守る権利がある」


 カイルの助言に、ディム・トゥーラは真剣に考え込み葛藤している。

 研究題材をとるか、自由をとるか、そもそも葛藤するネタか――サイラスは思わず純白の猫を見つめた。

 ディム・トゥーラをやりこめ、困惑させる存在など、それこそ絶滅危惧候補の貴重種に等しい。

 筒抜けだったらしく、ロニオスの笑い声が聞こえた。もちろん、猫が笑うわけもなく、思念の産物だった。


『さて、サイラス・リー。講義を聴くつもりはあるかね?』

「ある。ただし、俺は自他とも認める脳筋だから、わかりやすく手短かに頼む」


 サイラスは予防線を張った。

 研究馬鹿達の講義や議論は、専門用語が飛び交う異次元の対話に等しい。サイラスはそれをさんざん目撃していた。

 しかも彼等は、時間経過を無視するのだ。


『よろしい。――さて、問題解決の手段は、状況整理から始めるのが基本中の基本だ。問題は、サイラス・リーが、認知しているにもかかわらず、養い子リルの名前が呼べない――これであっているかね?』

「…………あってる」

『リルもサイラス・リーに名前を呼ばれたい――そうだな?』

「はい、もちろんです」


 リルは勢いこむように答えた。

 養い子の即答に、サイラスはなぜだか照れくさい気分を味わった。

 カイル・リードが金色の瞳で自分をじっと見つめていることに気づき、サイラスは平静さを保つ努力をした。


『サイラス・リーは原因に心当たりがない、と?』

「ない――いや、記憶が喪失していることにリンクしているのか?」


 サイラスはつぶやいた。

 再生体の記憶欠落がそもそもありえない事故だ。この状況が異常なのだ。

 可能性はないと言い切れない。


『なるほど。解決するには時間がかかるにしても、応急処置を講じないのは、なぜだ?』

「「「応急処置?」」」


 若いメレ・アイフェス達の反応に、ロニオスの方がやや、呆然とした。


『待ちたまえ、君達は揃いも揃って、簡単な応急処置手段を思いつかないのか?情けない…………研究者とあろうものが、問題解決手段を提案できないとは…………研究都市の質が落ちたのか、エド・ロウに進言しなくては……』


 ロニオスの視線が、残念な子供達を見るものに完全に変わった。猫は首を左右に振って、不出来さを嘆いた。


「待ってよ、ロニオス。僕達は、さっきサイラスに事情を聞いたばかりで――」

『私もさきほど、リルに相談をきいたがね?名を呼ばないことがサイラスの意思ではないことが証明された今、応急処置案を10個程度は提案できないとは、落第レベルだぞ』


 ぐっ、とカイル達は酷評に詰まった。


「神経シナプスの再生とか……」

『体内チップが自動修復しているだろうし、それは応急処置ではない』

「記憶の再ダウンロードとか」と、ディム・トゥーラ。

『着眼点はいいが、それは記憶の喪失に関するものであって、名前が呼べないことの応急処置ではない』

「ロニオス、もったいぶらずに応急処置を教えてよ」

『考えることをやめると、脳が劣化するぞ』

「ロニオス」

「ロニオス様、代価として西の民の秘蔵酒の入手を交渉してきます。どうか教えてください」

『すぐに教えよう』


 コロっと、リルの条件にロニオスは陥落した。その手があったか――と、カイル達はリルの機知に感心した。

 ロニオスは黒髪の青年を見つめた。


『サイラス・リー。我々の文明なら、応急処置などお茶のこさいさいではないか?』

「と、いうと?」

『短音の音声合成と自動翻訳機能と精神感応変換装置――これだけで事足りる』

「………………はい?」

『鈍いな。君は彼女の名前である『リル』が発声できない。だが、短音の『リ』と『ル』が発声できないわけではない。録音して合成再生すればいいだけだ』

「………………はい?」

『君が考える「養い子」「妹弟子」「リル」の単言語にその合成音を再生定義すればいい。声帯を損傷した患者が、精神感応で会話するための装置など、シルビア・ラリムが詳しいだろう。それの応用だ。応急処置案としては最上ではないかね?』

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」


 カイルが復唱する。


「ええっと、サイラスの声で『リ』『ル』を合成して機械再生をすればいいのか」

「抑揚調整すればサイラスの声で確かに再生できる」

「声帯損傷時の装置なんてあるの?」

「あるぜ。端末打込み型から精神感応型まで、まあいろいろなタイプが」


 答えたのはサイラスだった。


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