表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説版ドリームチャレンジ(R-15)  作者: ドリームチャレンジ運営局


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第5話 一番になれない彼女

本作は15歳未満の方は閲覧できません。


本作には成人向け版があります。

18歳未満の方は閲覧できません。

小説版ドリームチャレンジ(Web版)

https://novel18.syosetu.com/n1691mi/

挿絵(By みてみん)


読者モデルとして名前が載り始めてからしばらく、翠は自分がようやく見つけられたのだと思っていた。


撮影スタジオの床を厚底サンダルで歩く。


白いトップスにデニムのショートパンツ。


小麦色の肌にライトが当たり、ブロンドの髪が揺れるたび、スタッフの視線がこちらへ向く。


「いいね」


そう言われるたび、翠は笑った。


「当然でしょ?」


けれど、誌面に載る女の子は翠だけではなかった。


隣のページには、もっと細くて、もっと清楚で、もっと男受けのいい笑顔を作れる子がいる。


別の企画には、フォロワー数の多い子が呼ばれる。


読者アンケートの順位は、いつも惜しいところで止まった。


三位。


五位。


二位。


一位だけが、どうしても取れない。


編集部の人は悪気なく言った。


「翠ちゃんは目立つんだけど、もう少し親しみやすさがあると上がるかもね」


親しみやすさ。


編集部の人間は、何気ない評価のようにそう言った。


その言葉を、翠は笑って流した。


けれど帰り道、スマホで自分の写真を何度も拡大した。


角度。


表情。


脚の見え方。


髪の流れ。


コメント欄には、かわいい、好き、憧れる、という言葉が並ぶ。


その下に、別のモデルの名前と比べる投稿が混じっていた。


『翠ちゃん、かわいいけど自分のタイプではないかな』


『派手で目立つけど、親しみやすい感じではないかも』


『ランキング上位の子と比べると、ちょっと近寄りにくい』


翠はスマホを伏せ、深く息を吐いた。


見つけられたはずだった。


けれど、見つけられた場所にも順位があり、そこでも勝ちきれない自分がいた。


黒い部屋では、第二マッチの判定がすでに下されていた。


勝者、英知。


敗者、翠。


僕はまたX-RAYで見える勝ち筋を選び、翠を次の段階へ進ませてしまった。


二度目の勝利。


そして今回、賭け対象として処理されるのは翠のトップスだった。


「勝者、英知様」


マックの声で、翠ははっとした表情を浮かべた。


「敗者、翠様と判定いたします」


翠はテーブルの上を睨みつけた。


「……うそでしょ」


声が少し震えていた。


「今の、絶対いける流れだったじゃん」


悔しさを隠す余裕もない。


さっきまでの軽い挑発は、喉の奥で少し引っかかっているようだった。


「なんでそこで勝つかなあ……」


翠は唇を噛む。


「ほんと、空気読めないんだけど」


「翠様」


マックが静かに告げた。


「第二マッチの敗北に伴い、賭け対象の処理へ移行いたします。本マッチにおける賭け対象は、現在着用されているトップスでございます」


翠の肩が、わずかに強張った。


「処理前確認を行います。ギブアップを申請されますか?」


翠はすぐには答えなかった。


唇を結び、テーブルの縁に置いた指を小さく握る。


サンダルの時のように、すぐ茶化すことはできないらしい。


ギブアップすれば、補填が発生する。


翠がすぐに答えられない理由が、僕にはまだ分からない。


今さら、簡単に降りられるほどの余裕など、彼女にはないのかもしれない。


「……ギブアップなんてしない」


翠は低く言った。


「ここで逃げたら、ほんとに負けたみたいじゃん」


「承知いたしました。翠様のギブアップ不申請を確認しました。これより、第二段階、トップスの処理を実行してください」


翠は小さく息を吸い、ゆっくりと立ち上がった。


素足のまま床に立つ姿は、さっきより少しだけ頼りなく見える。


「……そんなに見たいわけ?」


彼女は僕を睨んだ。


「言っとくけど、変な顔したら本気で怒るからね」


そう言いながら、ちらりと黒い壁を見る。


そこにはもう、観客の姿はない。


ただ、自分たちの姿だけが薄く映っている。


「……あっちも、見てるんだよね」


「はい。観覧席への公開は継続しております」


マックが答える。


「ただし、規定により音声干渉、合図、接触は一切遮断されております」


「分かってる」


翠は小さく吐き捨てる。


「分かってるけど……最悪」


それから、彼女は僕を見た。


「先に言っとくけど……あたし、今日ブラしてないんだよね」


その一言で、僕の思考が一瞬止まった。


視線をどこへ置けばいいのか分からなくなる。


顔を見ればからかわれる。


逸らしたら逸らしたで、動揺していることを白状しているようなものだった。


「あ、今めっちゃ動揺した」


翠は笑った。


「ふふっ、バレバレじゃん」


負けた直後だというのに、そこだけはいつもの調子を取り戻している。


いや、取り戻したふりをしているのかもしれない。


「……でも、正面からはさすがに無理」


翠は少しだけ声を落とした。


「後ろ向くから。変な想像しないでよね」


挿絵(By みてみん)


そう言って、翠はぷいと背を向けた。


長い髪が背中に流れ、黒い部屋の照明を受けて淡く揺れる。


顔が見えなくなっただけで、空気が少し変わった気がした。


翠は片手で胸元の布を押さえながら、もう片方の手でトップスの端に触れた。


衣擦れの音が、静かな部屋にやけに大きく響く。


これは勝負の結果だ。


取り決めに従った処理だ。


そう頭では分かっている。


けれど、目の前で進んでいる出来事は、あまりにも生々しかった。


「……ほんと、最悪」


翠が小さくこぼす。


「こんなの、聞いてないし」


文句を言いながらも、彼女は最後まで手を止めなかった。


やがて、外されたトップスが彼女の手の中に収まる。


翠はしばらく背を向けたままだった。


片腕で胸元を隠しているせいか、肩に少し力が入っている。


見えないからこそ、僕の意識はそこに引き寄せられてしまう。


挿絵(By みてみん)


「……ねえ」


翠が背を向けたまま、顔だけをこちらに向けた。


「もしかして今、すごい期待してた?」


返事に詰まると、翠は小さく笑った。


「ほんと、分かりやすいんだから」


挿絵(By みてみん)


彼女は胸元を両手で隠したまま、ゆっくりとこちらへ向き直った。


強気な笑みを作っているのに、頬には薄く赤みが差している。


「一回勝ったくらいで、全部見られると思った?」


翠は勝ち誇るように言う。


「そんな都合よくいくわけないじゃん」


僕は何も言えなかった。


視線をどこへ置けばいいのか分からない。


顔を見ればからかわれる。


胸元を見れば、もっとからかわれる。


逸らしたら逸らしたで、意識していることを白状しているようなものだった。


「……じゃあ、答え合わせ」


翠はわざと間を置いた。


こちらの反応を見ている。


怖がっているのか、楽しんでいるのか、その両方なのか分からない表情で。


そして、胸元を隠していた手をゆっくりと下ろした。


その瞬間、僕は思わず息を呑んだ。


挿絵(By みてみん)


トップスの下には、ハート形のニップレスシールが貼られていた。


肌を直接見せているわけではない。


それでも、さっきまで隠されていた場所が、今は隠されているのに隠されていないように見える。


その中途半端な距離感が、かえって僕をうろたえさせた。


褐色の肌に貼られた小さなハートの形が、妙に鮮明に目に焼きついた。


見てはいけないと思うほど、視線はそこへ戻ってしまう。


胸の輪郭、肩から鎖骨へ落ちる線、腕で隠しきれない柔らかさ。


「はい、答え合わせ終了」


翠は勝ち誇ったように笑う。


「変な期待した人、残念でしたー」


だが、その頬には薄く赤みが残っていた。


からかっている。


けれど、からかいきれてはいない。


マックが補足した。


翠は本日、ブラジャーを着用していない。


そのためクラブでは、代替品としてニップレスシールを用意している。


現在のニップレスシールは第四段階の賭け対象として扱われ、今回の処理対象は第二段階、トップスのみ。


「……そういうこと」


翠は少しだけ息を整えてから、また笑った。


「だから今回はトップスだけ。変な期待した人、ざんねーん」


「確認いたしました」


マックは淡々と頷いた。


「第二段階、トップス。翠様より提示済み賭け対象を受領いたします」


マックは黒い手袋をはめた手で、翠からトップスを受け取った。


その扱いは、サンダルの時と同じく、驚くほど丁寧だった。


「英知様」


マックが、畳まれたトップスを差し出す。


「こちらは、第二マッチの勝利により英知様へ移譲された賭け対象でございます。規定に基づき、所有権は英知様へ移ります。お受け取りくださいませ」


僕は、すぐには手を伸ばせなかった。


サンダルの時とは違う。


今差し出されているものは、もっと近い。


もっと彼女自身の輪郭に触れていたものだ。


さっきまで彼女の胸元を覆っていた布だと思うと、ただの衣類として見られなかった。


受け取った瞬間に、翠の体温まで自分のものにしてしまうような気がした。


恐る恐る手を伸ばし、トップスを受け取る。


その瞬間、黒い壁に映る自分の姿が目に入った。


勝者として、彼女の賭け対象を受け取る男。


その姿もまた、向こう側から見られている。


そう思うと、手の中の布が急に重くなった。


布には、まだ彼女の体温がわずかに残っていた。


胸元に触れていた部分は、ほんの少しだけ湿り気を帯びている。


近づいた拍子に、甘い香水の奥から、汗と肌の匂いがふっと立ち上った。


サンダルの時のような濃い匂いではない。


もっと近く、もっと柔らかい。


香水と体温と、彼女自身の匂いが混ざった、逃げ場のない生々しさがあった。


僕は思わず息を詰めた。


ただの布のはずなのに、手の中にあるそれは、さっきまでの彼女の気配をまだ残していた。


「……ちょっと」


翠の声が少し上ずった。


「今また、変なこと考えたでしょ」


からかうように言っているのに、自分でもトップスの匂いを意識してしまったのだろう。


頬の赤みが、さっきより濃くなっていた。


「匂いとか、そういうの気にしないでよね。汗かいてたとか、別にそういうんじゃないし」


言い訳めいた言葉が、逆に意識していることをはっきりさせていた。


僕は何も言えず、トップスを自分の側のテーブル脇にそっと置いた。


サンダルの隣に、音を立てないように。


置いても、指先に残った感触は消えなかった。


薄い布越しに残っていた熱と、汗の匂い。


勝ったのは僕だ。


けれど、その勝利に胸が高鳴ってしまう自分が、どうしようもなく嫌だった。


「……またその置き方」


翠は不満そうに言った。


「変に大事そうにされると、ほんと調子狂うんだけど」


「第二段階、トップスの処理を完了いたしました」


マックの言葉で、またひとつ区切りがついた。


しかし、終わったという感覚はない。


むしろ、ここから先の方が戻れない。


僕は、テーブル脇に置かれたサンダルとトップスを見て、そう感じた。


「そして、勝負はここで幕を下ろすわけではございません。続いて、第三マッチへの移行確認を行います」


「……もう?」


翠が眉をひそめた。


「ほんと、余韻ってものがないんだから」


「進行上、賭け対象処理の完了後、速やかに継続意思を確認する規定でございます。余韻は参加者各位の内心に委ねられます」


「はいはい。分かってます」


翠は椅子に座り直した。


さっきよりも少しだけ動きが慎重だった。


それでも、目だけは逃げていない。


「翠様。第三マッチへの参加を継続されますか?」


「するわ」


即答だった。


「ここでやめたら、ただ取られっぱなしじゃん」


けれど、その声は少しだけ無理をしていた。


強く言わなければ、自分の中の迷いに負けてしまう。


そんなふうにも聞こえた。


「それに、まだ終わってない。次、あたしが勝てばいいだけでしょ」


「承知いたしました。翠様の参加継続を確認しました。では、第三マッチの賭け対象を確認いたします」


マックが次の段階を告げる。


「英知様は、引き続き金チップ五枚。翠様は、第三段階、現在着用されているボトムスでございます」


ボトムス。


その言葉が落ちた瞬間、僕の呼吸が浅くなった。


第二マッチの時以上に、意味が重い。


翠は睨むようにこちらを見た。


「……っ。今、絶対変なこと考えたでしょ」


その表情は怒りだけではなかった。


恥ずかしさと、怖さと、それでも引きたくない意地が混じっている。


「いいよ」


翠は顎を上げた。


「そこまで言うなら、やってやろうじゃん」


「第二段階は終了。第三段階の賭け対象は、ここに提示されました」


マックが告げる。


「金チップ五枚と、翠様のボトムス。形は異なれど、規定上の価値は同一。天秤は再び、水平でございます」


水平。


その言葉が、ひどく歪んで聞こえた。


僕の側には、祖父の金から変わった五枚のチップ。


翠の側には、彼女が今身につけているもの。


それを同じ価値だと、この場所は平然と言う。


「双方の確認が完了いたしました」


マックの声は静かだった。


次の勝負の条件だけが、黒いテーブルの上に残された。


僕の側には、サンダルとトップス。


翠の側には、彼女がまだ守ろうとしているボトムス。


勝てば、また失わせる。


その事実だけが、黒い部屋の空気をさらに重くした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ