表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説版ドリームチャレンジ(R-15)  作者: ドリームチャレンジ運営局


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/8

第3話 最初の敗北

本作は15歳未満の方は閲覧できません。


本作には成人向け版があります。

18歳未満の方は閲覧できません。

小説版ドリームチャレンジ(Web版)

https://novel18.syosetu.com/n1691mi/

マックの声が、黒い部屋に静かに響いた。


「第一マッチ、ここに開幕でございます」


その言葉が落ちた瞬間、空気が変わった。


さっきまでの説明や軽口が、すべて前置きになった。


テーブルの中央に置かれた新品のカード。


僕の側に並ぶ金チップ五枚。


翠の足元で揺れる厚底サンダル。


四隅の警備員。


黒い壁の向こうにいる、見えない観客。


全部が、僕の視界の中で妙にはっきりしていた。


翠がカードを持ち上げる。


カードの裏面には、例の悪趣味なシルエットが並んでいた。


白と黒の装飾、ハート、女性の後背位を思わせる図柄。


さっき翠が文句を言ったせいで、余計に意識してしまう。


見ないようにしようとすると、逆に目に入る。


「英知様。第一ラウンドの基本ベットは金チップ二枚でございます」


マックが告げた。


僕は目の前のチップを見下ろした。


一枚、百万円。


それを二枚。


数字にすれば二百万円だ。


講義の合間に、学食で数十円の差を気にしている僕にとって、理解できる金額ではなかった。


それでも、ここではただの基本ベットだった。


僕は指先でチップを押し出した。


金属の硬質な音が、緑のフェルトの上で小さく鳴る。


向かい側で、翠が肘をついた。


「手、震えてない?」


「震えてません」


「ふーん。じゃあ、顔が震えてる」


「顔は震えないでしょ」


「そういうツッコミはできるんだ」


翠は笑った。


余裕たっぷりに見える笑顔だった。


けれど、さっきから彼女の指先はテーブルの縁を小さく叩き続けている。


黒い壁の向こうの観客を見たあとから、その癖は消えていなかった。


僕だけが緊張しているわけではない。


そう思った瞬間、ほんの少しだけ呼吸が楽になった。


翠がカードを配る。


僕に二枚。


翠に二枚。


カードがフェルトを滑る音は、妙に乾いていた。


僕の手札は二枚とも表向きで置かれている。


翠の手元では、一枚だけが表向き、もう一枚は伏せられたままだった。


「英知様。手札をご確認くださいませ」


僕の前に置かれた二枚は、どちらも表向きだった。


六。


そして、五。


合計十一。


悪くはない、と思った。


いや、ブラックジャックに詳しいわけではないが、二十一にはまだ遠い。


ここで一枚引けば、十が来ても二十一になる。


絵札でも十扱いだから、可能性はかなりあるはずだ。


けれど、指先が妙に重かった。


たった一枚を引くという行為が、二百万円分の判断になっている。


「英知様。選択をお願いいたします」


HITか、STANDか。


十一で止まる理由はない。


そう頭では分かっている。


少なくとも、僕が昔遊んだWebの脱衣ブラックジャックでは、十一で止まるとだいたい負けていた。


もちろん、あれはブラウザの中の話だ。


画面の向こうにいたのは、クリックすれば決まった反応を返す二次元の女の子だった。


今、目の前にいる翠は違う。


声がある。


息遣いがある。


テーブルの向こうで、こちらを見ている。


そして勝てば、本当に彼女の身につけているものが一つ失われる。


最初はサンダル。


けれど、説明された衣服区分を思い出せば、それだけで終わるとは限らない。


もし勝負が続けば、トップスも、ボトムスも、彼女の身体を隠しているものが一つずつ賭け対象になっていく。


白いチューブトップに包まれた胸元。


短いデニムから伸びる脚。


さっき視線を逸らそうとして、結局逸らせなかった場所。


それらが、勝負の結果として少しずつ剥がされていく光景が、勝手に頭の中へ浮かんだ。


見たい、と思ってしまった。


そう思った瞬間、喉の奥が熱くなる。


最低だ。


そう分かっているのに、胸の奥で興奮が小さく膨らんでいくのを止められなかった。


その事実を意識した瞬間、僕の知識は急に頼りなくなった。


脱衣ブラックジャック経験者。


文字にすると最低の肩書きだった。


「……HITで」


翠が一枚、僕の手元へカードを滑らせた。


追加カードは、表向きで止まる。


九。


合計二十。


胸の奥で、何かが跳ねた。


いける。


たぶん、これは強い。


僕は思わず顔を上げた。


「へえ」


翠がこちらを見ていた。


「二十見えた瞬間、ちょっと勝った顔した」


「……してません」


「してた。すごいしてた」


僕は黙った。


たぶん、していた。


僕の顔は、僕より先に勝利宣言をしていた。


翠の伏せカードが開かれた。


翠は公開された手札を見下ろして、小さく息を吐いた。


翠は山札からカードを一枚引いた。


追加カードは表向きで置かれ、数字が全員に示された。


数字がまだ届いていないのか、翠は続けてもう一枚、自分の手元へカードを滑らせた。


そのカードも表向きで止まった。


翠は公開された数字を見て、口角を上げた。


嫌な予感がした。


そこで翠は、カードを引く手を止めた。


マックが双方の手札を確認する。


「英知様、二十」


二十。


かなり強いはずだ。


「翠様、二十一」


視界が一瞬、止まった。


「第一ラウンド、勝者、翠様」


金チップ二枚が、僕の側から翠側の処理領域へ移される。


音は小さかった。


けれど、頭の中では何かが大きく崩れたように響いた。


「ざーんねん」


翠が笑った。


「二十で勝ったと思った?」


僕は何も言えなかった。


二十なら勝てると思った。


思ってしまった。


それが顔に出ていたのだろう。


翠は楽しそうに目を細める。


「そういう顔、ほんと分かりやすい」


* * *


第二ラウンドの基本ベットも、金チップ二枚だった。


僕の手元には、もう三枚しか残っていない。


まだ三枚ある。


そう考えようとした。


けれど、最初に並んでいた五枚を思い出すと、すでに失った二枚の方が大きく感じられた。


マックがベットを確認し、翠がカードを配る。


僕の手札は、十と七。


合計十七。


微妙だった。


二十一には届かない。


けれど、ここで引けばバーストする可能性も高い。


十が来れば終わる。


九でも終わる。


八でも終わる。


でも、十七で止まって勝てるのか。


翠は僕をじっと見ていた。


「悩んでる」


「そりゃ悩みますよ」


「十七って、いちばん嫌な数字だよね。引いても怖いし、止まっても怖いし」


軽い声だった。


だが、その軽さが逆に刺さった。


これは彼女にとっても勝負のはずなのに、なぜそんな顔ができるのか。


いや、できるように見せているだけなのか。


僕には分からなかった。


「英知様。選択をお願いいたします」


十七。


引くか、止まるか。


安全に見えるのはSTANDだ。


でも、翠が十八以上なら負ける。


ここで負ければ、残りは一枚になる。


二枚失って、さらに二枚失う。


その現実が、指先を冷たくした。


「……STAND」


僕は止まった。


止まるしかなかった。


翠の伏せカードが開かれる。


翠は公開された手札を確認し、山札へ手を伸ばした。


一枚を自分の手元へ滑らせる。


追加カードは表向きで置かれた。


その数字を見た瞬間、翠の口元がほんの少し動いた。


そこで、翠はそれ以上カードを引かなかった。


マックが確認する。


「英知様、十七」


僕は祈るように翠の手元を見た。


「翠様、十九」


「第二ラウンド、勝者、翠様」


また、チップが移動した。


金チップ二枚。


僕の手元に残ったのは、一枚だけだった。


「あれ?」


翠がわざとらしく首を傾げる。


「もしかして、もう終わりそう?」


「まだ、一枚あります」


「一枚ね」


翠は小さく笑った。


「五百万円が、もう百万円になっちゃったね」


その言葉で、胸の奥が冷えた。


五百万円。


祖父が残した金。


僕がここまで抱えてきたバッグの重み。


それが、もう一枚のチップに圧縮されている。


しかも、その一枚を失えば終わりだ。


何もできずに終わる。


翠のサンダルどころか、彼女の余裕を崩すことさえできずに。


「英知様」


マックの声は、最後まで静かだった。


「第三ラウンドにおいて、英知様の所持チップは基本ベットに満たないため、残り全額、金チップ一枚をベットしていただきます」


僕は最後の一枚に触れた。


薄い。


軽い。


なのに、指から離れなかった。


「どうぞ」


マックが促す。


僕はチップを押し出した。


これで、全部だった。


* * *


第三ラウンドのカードが配られる。


僕の手札は、八と三。


合計十一。


また十一。


最初のラウンドと同じように、一枚引くには悪くない数字だった。


僕は息を整えようとした。


大丈夫だ。


ここで勝てば、少しだけ戻せる。


いや、戻せるわけではない。


勝っても、次がある。


けれど少なくとも終わらずに済む。


祖父の五百万円を、たった三ラウンドで失った男にはならずに済む。


「英知様。選択をお願いいたします」


「HIT」


ほとんど反射だった。


翠がカードを配る。


追加カードは、僕の手元に表向きで置かれた。


八。


合計十九。


悪くない。


今度こそ、と思った。


翠は僕の顔を見て、少しだけ眉を上げた。


「また希望出た顔してる」


「……してません」


「してる。十九って見えた瞬間、ちょっと生き返った」


「そんなに分かりますか」


「分かる。隠すの下手すぎ」


翠の伏せカードが開かれる。


翠は公開された手札へ視線を落とし、ほんの少しだけ唇を噛んだ。


その仕草を見て、僕の胸が跳ねる。


今度こそ。


そう思った。


翠はディーラーとして、山札から自分のカードを引いた。


追加カードは表向きで置かれた。


ほんの短い沈黙が落ちた。


翠の指が、山札から離れる。


それ以上、引かない。


その動きだけで、嫌な予感が背筋を這い上がった。


マックがカードを確認する。


「英知様、十九」


僕は息を止めた。


「翠様、二十」


その数字を聞いた瞬間、身体の中から力が抜けた。


「第三ラウンド、勝者、翠様」


最後の金チップが、僕の前から消えた。


「以上をもちまして、第一マッチ終了でございます」


マックの声が、黒い部屋に丁寧に響いた。


「チップの流れは止まり、判定の時が参りました」


僕はテーブルの上を見ていた。


さっきまで五枚あったはずの金チップが、もう一枚もない。


五百万円がない。


祖父が残した一度きりのチャンスも、なくなった。


何もない。


「勝敗を確認いたしました」


マックは淡々と続ける。


「本マッチの勝者は、翠様でございます」


挿絵(By みてみん)


翠は椅子の背にもたれ、厚底サンダルのつま先を軽く鳴らした。


余裕ぶっているように見えた。


けれど、その肩からは、ほんの少しだけ力が抜けている。


勝ったことに安心しているようにも見えた。


「当然の結果ね。おつおつ」


軽い声だった。


「最初の一戦で終わりとか、ちょっと早すぎない?」


返す言葉がなかった。


最初のラウンドで二十を出して負けた。


二度目は十七で止まって負けた。


最後は十九で負けた。


決して、めちゃくちゃな判断をしたつもりはない。


それでも負けた。


すべて負けた。


マックが規定を読み上げる。


僕が継続を希望する場合、追加賭け金の提示により再戦は可能。


ただし、次のマッチで翠が提示する賭け対象と同価値の金額を、その場で現金として用意する必要がある。


後払い、口約束、外部資産の証明のみでの追加は認められない。


もちろん、僕にそんな現金はない。


バッグの中にあった五百万円は、もう消えた。


祖父が残した最後のチャンスは、何ひとつ形になることなく、今この瞬間に潰えた。


「追加賭け金の提示が確認できないため、英知様の継続権は失効いたします」


マックの丁寧な声が、かえって残酷に響いた。


「残念ですが、英知様。今回のドリームチャレンジは、ここで終了でございます」


「え、ほんとに終わり?」


翠が目を丸くした。


「あたし、まだ何も取られてないんだけど」


彼女は自分のサンダルを軽く鳴らし、勝ち誇ったように笑った。


その足元さえ、僕には届かなかった。


「五百万円払って、何もできずに負けただけ」


翠の言葉は、軽い。


軽いからこそ、深く刺さる。


「逆にすごいね。じゃあね」


マックが一礼した。


「本日はご参加いただき、誠にありがとうございました」


礼儀正しく、淡々としていて、だからこそ救いがない。


僕は、負けてはいけない最初の場面で負けてしまった。


一つでも勝てば、何かが変わったかもしれない。


せめて一度だけでも、翠の余裕を崩せたかもしれない。


だが、現実には何も起こらなかった。


五百万円を失い、挑戦権を失い、祖父が残した可能性まで失った。


こんなことなら、参加するべきではなかった。


こんなことなら、あのお金を別のことに使えばよかった。


いや、そもそも祖父の家になど行かなければよかったのかもしれない。


強い後悔だけが、胸の奥で黒く膨らんでいく。


息が詰まり、視界の端が暗く滲んだ。


黒い壁。


見えない観客。


翠の笑い声。


マックの丁寧な声。


全部が遠ざかっていく。


やがて、僕の意識はゆっくりと暗闇に沈んでいった。


* * *


誰かの声がする。


最初は、音なのか記憶なのか分からなかった。


ただ暗い。


音もなく、光もなく、身体の重ささえない。


僕はどこかに浮かんでいるようだった。


「……や」


遠くから、誰かが呼んでいる。


「英知や」


聞き覚えのある声だった。


だが、その声の主はもうこの世にいないはずだった。


「おお。負けてしまったか、英知」


挿絵(By みてみん)


目の前に、祖父が立っていた。


亡くなったはずの祖父。


金庫に五百万円と会員証と手紙を残し、僕をドリームチャレンジへ送り込んだ張本人。


「じいちゃん……?」


声がかすれた。


祖父はいつものような、どこか飄々とした顔をしていた。


死んだ人間にいつもの顔も何もないはずなのに、僕の記憶の中の祖父そのままだった。


「死んだはずのワシが出てきて、驚いておるのも無理はない」


祖父はうむ、と頷いた。


「正直、ワシ自身も驚いておるわ」


「そこは驚かないでよ」


思わず言ってしまった。


状況が異常すぎて、まともな反応をする余裕がなかった。


「じゃが、そんなことよりもじゃ」


祖父は急に表情を引き締めた。


「英知よ。負けてしまうとは情けない」


腹が立った。


「いや、待ってよ。普通に無理だよ」


自分でも驚くくらい、言葉が出てきた。


「ブラックジャックって運もあるし、そもそもディーラー側が有利なんじゃないの? 翠がディーラーで、僕は二十とか十九とか出して負けたんだけど」


「その通りじゃ」


祖父はあっさり認めた。


「ブラックジャックは、基本的にディーラー側が有利にできておる。今回で言えば、翠ちゃんの側じゃな」


「じゃあ、なんでもっとお金残してくれなかったの」


「そりゃ、全部使ってしまったからじゃ」


「は?」


「ワシの金じゃ。何に使おうがワシの自由じゃろう」


確かにその通りだが、なんだか釈然としない。


「それに、仮に金が残っていたとしても、ワシは最初から、お前に何度も再戦させるつもりはなかった」


祖父は少しだけ真面目な声になった。


「いや、再戦させたくなかったのじゃ」


「どういう意味?」


「今、こうしてお前と再び会えたこと。それこそが、すべての理由じゃ」


僕には、その意味が分からなかった。


祖父は続ける。


「お前には、ワシからある能力が受け継がれておる。ただし、その能力が目覚めるには条件がある」


暗闇の中で、祖父の声だけが妙にはっきり響いた。


「それは、心の底から強く後悔することじゃ」


後悔。


胸の奥に、さっきまでの黒い重さが戻ってくる。


五百万円を失ったこと。


翠に何もできずに負けたこと。


祖父の手紙を信じてしまったこと。


それでも、あの場所へ行かなければよかったと完全には言い切れないこと。


全部が混ざって、胃の奥を掴まれるようだった。


「お前は戦いに敗れ、悔しさのあまり、目の前が真っ暗になったじゃろう? その強い後悔によって、能力が開花したのじゃ」


祖父が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。


だが、亡くなった祖父と会話しているという異常な状況を前にして、否定することもできなかった。


それに、胸の奥で何かがざわついている。


後悔の底に沈んでいたものが、ゆっくり形を持ち始めるような感覚があった。


「では、お前が目覚めた能力について説明してやろう」


祖父は指を一本立てた。


「まず一つ目は、やり直しのSAVE&LOADじゃ」


「……名前、安直すぎない?」


思わず苦笑した。


「分かりやすいのが一番じゃ」


祖父は胸を張った。


「これは、時間を巻き戻してやり直す能力じゃ。戻れる時間は、最大で一日前まで。その範囲内であれば、どの時点へ戻るかもある程度調整できる」


「強い後悔……」


「ただし、発動には強い後悔が必要になる。後悔を失えば、戻ることはできん。最大でも一日前までじゃから、体は子供、頭脳は大人、みたいに小学生から人生をやり直して無双することもできんぞ」


祖父もきっと、それを試したかったのだろう。


「二つ目は、透視能力X-RAYじゃ」


祖父は二本目の指を立てた。


「これは、カードを透かして見ることができる能力じゃ」


「カードを?」


「そうじゃ。カードだけじゃ」


祖父は妙に悲しそうな顔をした。


「壁も服も、もちろん人間も透けん。本当に残念じゃ」


「何に使うつもりだったんだよ」


「男には、聞かんでも分かることがある」


「……分かるのが嫌だよ、じいちゃん」


少しだけ、息が楽になった。


祖父と話している。


死んだはずの祖父と、わけの分からない能力の説明を聞きながら、くだらない会話をしている。


異常なのに、妙に懐かしかった。


「ゲームなら回数制限でも付きそうな能力じゃが、これは現実じゃ」


祖父は軽く肩をすくめた。


「じゃが、見えることと勝てることは別じゃ。見えたものをどう使うか、どこまで踏み込むかは、お前自身が決めることになる」


祖父の輪郭が、少しずつ薄れていく。


暗闇の奥から、何かに引き戻されるような感覚があった。


「どうやら、時間切れのようじゃ」


「待って、じいちゃん」


聞きたいことは山ほどあった。


ドリームチャレンジとは何なのか。


祖父はどうしてあの会員証を持っていたのか。


翠は何者なのか。


僕は本当に戻れるのか。


けれど、言葉になる前に、祖父の姿はさらに遠ざかった。


「ではな、英知」


祖父は笑った。


「ワシは常に、お前を見守っておる。そしてワシも翠ちゃんの裸もエッチなところも見たい。頑張れよ、英知」


「いろいろ台無しだよ!」


返事はなかった。


闇が白く滲む。


僕は、自分が落ちているのか浮かんでいるのかも分からないまま、意識を引き戻されていった。


カードを見透すX-RAY。


最大一日前まで、戻る時点を調整できるSAVE&LOAD。


そして、心の底からの後悔。


次に目を開けたとき、僕はまた、すべてを失う前の場所に立つことになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ