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オレとカノジョのヒーロー活動  作者: 赤城青
第一章 透明の悪意
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第二幕 醜悪なる魔物 ①

『謎の『ヴィラン』が都市に出現⁉ 聖來都市の監視、又は悪討武器が機能せず。故障の可能性を検討か⁉』

『えー、考えられる可能性は①都市機能の故障。②機能をすり抜ける特殊な『ヴィラン』。③『ヴィラン』とは別の生物兵器だと私は考えています。まあ①は異常が発見出来ていないという報告が上がりましたので、可能性とは低いですねー』

『あー、私これから取引先へと出向いてたんですが、もう突然にその『ヴィラン』が現われたんです。もう理由が解らず、ただパニック状態で逃げてました』

『いや、我が社のビルを登っている『ヴィラン』がいると報告があってね。社はパニックでしたよ。まあ幸い怪我人はいなかったのは幸運ですね』

『このドローンの映像をご覧ください。どうやら都市が視認していない悪は三体でしょうか? この赤い人型のは人なのでしょうか? この蜘蛛と赤い存在は争っているように視えますね』

『蜘蛛の『ヴィラン』は赤の存在に倒されていますが、あの翼を生やしている『ヴィラン』は未だに発見出来ていません』

『あの赤い霧を纏った者の正体は一体何なのでしょうか』

『臨時ニュースをお伝え致します。聖來都市警戒レベル最大レッドを発令しました。住民の皆様は避難指示。又は臨機応変に対応してください』


 どれもかしこもこのニュースが流れている。朝刊も同じ内容だ。


「想像よりは早くこの事態になったね。警戒レベル《レッド》も妥当だろうね」


 場所は鬼木先生の研究室。

 こんな状況でも臆することなくコーヒーを入れている鬼木先生。

 目の下にはいつもより酷いくまが出来ていた。


「……先生。ちゃんと飯は食べてるか? その調子じゃ倒れるぞ」

「心配する事はもうないよ。やるべき事は終わったからね。後は種が芽ばくのを待つだけさ」

「お、なにかしらの手は打ったって事か。流石は先生だな」


 そうオレが褒めると、鬼木先生は少し苦い表情をする。


「……まあ。必要な手続きは完了した。もう……事はない」

「先生? どうかしたか?」

「いや、なんでも。それより春公君。秋葉ちゃんはどうしているんだい?」

「秋葉は中学校の地下施設に避難させたよ。今は物騒ですからね」

「そうか。それなら安心だ」


 赤霧秋葉。三つ下の今は中学二年になる春公の妹だ。

 オレとは異なって警察情報科という分野を学んでいる。そうオレが護らなければならない家族である。


「秋葉ちゃんが普通に学園生活を送れているのはいい事だ。……それにしてももう二年前になるか。力哉が亡くなって」

「先生には本当に感謝してますよ。オレ達兄妹の面倒見てくれて」

「それはいい。……まあ実は言うとね。君達による贖罪のようなモノなんだ」


 コツンとコーヒー入りのティーカップを手渡した。


「私は君の父が大変な時に助けてあげる事が出来なかった。呑気に寝ていたんだ。そして気付いた時には全てが終わっていたよ」

「……それは」


 あの時、オレも秋葉も同様である。気付いたら終わっていた。

 『ヴィラン』に墜ちた者の残骸はバベル職員によって回収される為に立ち会う事も葬儀をあげる事も出来なかった。それが血を継ぐ肉親であっても叶わず、逆に煙たがられるのだ。

 学校のオレに対してのやり取りを見ればわかるだろう。


「私はね。悔いている。どうしてあの時……力哉の力になってあげられなかった事をね。一人で戦わせた事を後悔している。だから私はヴィラン研究に力を注いだ」

「……それは知っている。オレは先生の研究が上手くいく事を応援しているし、手伝いたいとも考えている」

「ありがとう。けど私は君が思う程に立派な人間じゃないよ」


 果たしてそうなのだろうか。少なくとも鬼木先生がいなかったらオレはあの幻聴に堕ちてヴィランになっていただろう。


「……本当にこの世から悪病が消えてくれる事を願うよ」


 切に願うようにティーカップを持つ鬼木先生。

 オレも鬼木先生の入れたコーヒーを口に含んだ。オレはこのなんともしない優しい味が気に入っている。

 そして頭の片隅でこの世から『悪』が消え去るなど夢物語だと同感した。


      1


 セイラと共に蜘蛛魔女を討伐して一日が経過していた。

 だがあの『悪魔』を取り逃がした事により聖來都市は警戒レベル最大の《レッド》を発令し、今は警察組織、守護者達が住民の避難のちに警備巡回で出払っている。


「……そろそろお前の目的を話して貰おうか」

「それはお話した筈ですよ。この惑星で探しモノを探すと」


 場所はこの状況で呑気に営業をしているカフェ。

 その中で水を飲む勇者達に向かって迷惑そうに店員が睨んでいる。接客態度の悪い店だ。

 ジローっと視線を送るオレに対してセイラは気まずそうに視線を逸らした。


「そう言ってたな。……だけど全部じゃないだろ?」


 思わず目を逸らしていた事実に向き合う俺は震える拳を手で抑えた。


「セイラは……オレをどうしたいんだ?」

「協力して頂こうと考えています。わたし達は一人では能力を発揮する事が出来ません」


 と率直に告げるセイラに思わず大きな溜息を吐いてしまった。

 ここで言う『わたし達』とはセイラの惑星での種族の事だろう。


「……協力ねー。ようはお前と協力して『ヴィラン』を殺せって事だろ?」

「間違ってはいませんね」

「オレより強い人間なんていくらでもいるだろうよ」

「確かにハルヒロさんより強い個体はいるでしょうが、貴方でなくてはならない理由があります」


 普段は魅せない強い意思を宿すセイラ。


「……理由?」

「はい。βηφΔЭγ(アインセルン)にはパートナーとの適合率が必要です。その中で私は惑星の中では落ちこぼれでした。その理由は誰とでも適合率がマイナスを示しておりパートナーを見つける事が出来なかったのです」

「その適合率がオレとだけはあったと?」

「はい。3.14%くらいは」

「……円周率か! けどそれは地球人だからという理由じゃないのか?」

「いえ、わたしがハルヒロさんと会ってから、貴方以外は適合不可能でした」


 又も大きく溜息をついた。


「……わたしはハルヒロさんが欲しいです」

「オレはお前の物でもないし、お前の探しモノにも興味がない」


 はっきりと拒絶を口にする。

 ここで断らなければ、オレが大っ嫌いな守護者と同類になる。

 彼等の行いを否定する事は出来ないが、率先して人殺しをしたくない。

 だがここにはオレの自らの手を汚したくないという醜さを自身で自覚している。


「だが、インビジブルの件は協力してもいい」


 だからこそオレは一歩だけ割り切る。

 インビジブルを放置したら、いつか妹に被害が及ぶ可能性は無視できない。

 インビジブルを倒すにはセイラの能力が必要だ。


「……一先ずは了承します」

「よし、早速だがあの悪魔の居場所とかわかるか?」


 現時点で大人しいという事は発作が収まり、その本体は身を隠しているのだろう。

 そしてこの都市に複数の『インビジブル』が潜んでいると考えてもいい。


「わかりません。ですが近い内に大きく動くと思います」

「……そうだろうな」

「それに気になる事があるとすれば……あの悪魔がハルヒロさんを狙っていた事です」

「……それなんだよなー」

「ちなみにハルヒロさんを恨んでいる者に心当たりはありますか?」

「…………心当たりしかない」


 妹に不自由のない生活を送らせる為に、周囲からの敵を力で黙らせた。

 先輩、同級生、後輩とか関係ない。向かってくる敵は容赦なく再起不能にさせた事は珍しくない。そうする事で立ち向かってくる者はいなくなる。

 その影響下で妹に手を出す者はいない。そんな事をすれば無事で帰れる保証はないと周知されているからである。

 その行いに後悔はない。そうしなければ悪の子はこの世界では生きられないからだ。

 仮にその中に復讐で動く者がいたとしても文句を言うつもりはない。


「知っています。確認の為に訊ねました」

「いい性格してるな。おい」


 オレの全ての情報を覗いただけはある。本来ならストーカーで捕まえたいくらいだ。


「──なにしているの? 春公」


 怪訝そうにオレを見下す鈴乃。まさに振り返れば奴がいた。


「いや、そんなの休憩をとってるだけだろ?」

「一人で?」

「……へ?」


 まさかとセイラを視るや、ぽいっと気まずそうに視線から逸れる。

 セイラは制服を着用しており『認識阻害』で姿を消す必要がないのだが……、まさかパートナーの契約を蹴ったのが理由ではないかと疑いたくなった。


「……ちょっと考え事していただけだ」

「誰かと喋って」

「独り言だ。ほっとけ……、それよりお前達はインビジブルの情報は出回っていないのか?」

「『インビジブル』?」


 強引に話題を変えようとしたが、ついオレ達が呼称している言葉を使ってしまった。


「……いまテレビで熱狂している都市から認識されないヴィランだよ」


 だがこれは降って降りてきた幸運。守護者陣営から情報を引っ張るチャンスでもある。


「『インビジブル』。その名にふさわしい名前ね。と言っても私達もテレビ以上の情報はないわ。空を飛んで逃げたヴィラン……、インビジブルは消息不明だし、大方、人に戻っているか、ヴィランのままで都市の目を欺いているか」

「……いや、人には戻らんだろう」


 とサンドイッチとラテを添えたオボンを手に視えていないセイラの隣に座った。

 セイラは監視機能からも人の目すら誤魔化す事に対して、インビジブルはスキャンだけが反応しない。

 セイラの能力よりインビジブルは劣っているがなんだろう。違和感というかどこか気持ち悪い。

 確信に迫っているが、どこかの常識に葛藤している気持ち悪さだ。


「春公?」

「ああ、すまん。それよりあの悪魔に心当たりがある」

「なんですって?」


 大蜘蛛に襲われた話と裏付ける為に逃げ回っていたルートを伝える。監視カメラの映像で嘘ではないとわかるだろう。

 そして悪魔と遭遇した際に他の人を狙わずにオレを狙ってきた事。

 そして赤い霧の謎の人物に助けられた事を虚偽を混ぜて伝えた。

 βηφΔЭγ(アインセルン)の場面でセイラは監視カメラと周囲の光景をそう映るように認識阻害をしてくれている。

 そうオレとセイラが変身した事は誰にも見られていないということだ。


「最初に出くわしたインビジブルは目撃者を消す為だろうが、二体目のあの悪魔は明らかにオレを狙っていた。他に近い一般人が大勢いたのにだ。こう言いたくないが、あの悪魔はオレに憎悪を抱いている奴だ」

「……それは大勢いそうね」

「否定はしてくれないんだな」


 やけくそにオレは水を飲み干すと、セイラは一人で水を注ぎに行っていた。

 マイペースな奴である。後でオレの分の貴重な水もお願いしよう。

 まあカフェで水を頼む客なんて迷惑だろうけど金がないから仕方がない。


「そういう事なら一人……心当たりがあるわ。あの悪魔が現れた時間にアリバイがないであろう人物に」

「だれだ?」

「五十嵐斗真。貴方がきのう見せしめに選んだ人よ」



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