第五幕 呪われた末裔 ③
あれからまるまる1日経過した。
孔袁のおっさんにひたすらボコられたと思うが、その記憶を失っており思い出せなかった。
身体は終わった頃にはボロボロで、セイラの修復のお陰で大事はないが、長い棒みたいな物体を見るだけで身体の震えが止まらなかった。
別のトラウマを植え付けられただけなのでは?
と思ったが、「ならもっと追い込みましょう」と言い出しかねないので押し黙った。
「パパン。大丈夫?」
体操座りで部屋の角に座っていたオレにつんつんと頭を突くナギに答える元気がなかった。
「…………孔袁さんに気に入られている、ね」
いつの間にか現れたルーシィはポツリと呟いた。
気に入られている?
その発言には疑問の余地はある。オレをボコボコにしている時のあの楽しそうな空気に別の意味で気に入られていそうだ。
「そんな事よりちょっと来て、ね」
言われるがままにオレとナギは連行される形で別の部屋に連れられた。
中に入ると、カチャカチャという機械音と冷却された床に驚く。
詳しくないが最新のPCに最新端末。そして見た事がない機材まで配置されており、他の部屋と比べて殺風景ではない。
その中で孔袁のおっさんがキーボードをポチポチと叩いている。とても似合わない。
「…………終わった」
「お疲れさまで、す。…………なにが終わったんです、か?」
「………………」
「……なんか高額な請求が来ていま、す? しかもなんかフリーズしてますけ、ど?」
「………………すまない」
確かにある意味終わっている。
なんとも気まずい空気が流れる中でオレは一人イメージ通りでほっとした。
孔袁のおっさんは武道を極めすぎて、その他の事はポンコツだった。
「…………はあ」
重いため息を吐いた後にルーシィは仕方がなく、孔袁のおっさんを押し退けてPCに向き合う。
ルーシィはどうも苦労人の気質を感じるのは間違っていないのだろう。
「……ナギちゃん。あんな大人にならないようにね」
「うん」
取り敢えずナギの教育には良くないので注意する事にした。
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「……協力者から返信を伝える、ね。本日2321発の中央区第一層発の貨物リニアの一フロアを用意完了だって」
どこか疲れた顔をするルーシィは軽い口調でとんでもない事を告げた。
「……それって物資の搬入する外行き列車? それを用意する協力者って……」
協力者はバベルの中でとても高位な立場にいるって事にならないか?
「外行き列車の付近って厳重警戒されているってママンが言ってた」
「……確かに、ね。あそこはこの都市の中でも最高セキュリティレベル容易く突破出来ない、ね」
ルーシィもどうすればいいのかわからないと言わんばかりに孔袁のおっさんに視線を送る。
「……足はある」
どうやら孔袁のおっさんの方で策を用意しているようだ。正面突破とか言い出さないか非常に不安だ。
「わたしに任せてください」
──は?
といきなり現れたセイラにオレとナギはドン引きする。
「わたしの能力なら突破するのは難しくありません」
確かにね? 確かに貴方の認識阻害を使えば楽に突破出来るんだけどさ?
「…………あの、セイラさん? オレなにも聞いてないけど?」
「すみません。これも条件に含まれています」
孔袁のおっさんと交わしている条件。
詳しい内容をオレに秘匿するのも条件の内ってところか。
どうやら今回の一件というより、日ノ本の拠点にある予言は無視出来ない案件みたいだ。
詳しい話は後で聞く。……答え合わせもしたいしな。
「…………あの、ね? だれ?」
置いてけぼりのルーシィは戸惑いの声で聞いた。
オレは思わず孔袁のおっさんに「え? おしえてなかったの?」という視線を送った。
「…………忘れていた」
そうだよね。
孔袁のおっさんのポンコツぶりに親近感を覚える。
「わたしはセイラ。貴方たち日ノ本の民に伝われているエネミーという存在です」
「………………今更だがエネミーって敵って意味だよね?」
「そうですね。前任者がどう行動していたのかは知りませんが、いい迷惑です」
前任者。ある定期的に宇宙から送られている?
その理由はあるモノを探すため。
その過程でなにかをやってエネミーと呼ばれるようになった?
「わたしには認識阻害という能力を持っています。深いところまでは行けるでしょう」
「…………認識阻害、ね? そういう能力を使う異星人の話は聞いた事ある、ね」
オレが思っていたより、宇宙人は珍しくなかったのか、とツッコミたいがそれより気になるのはセイラが楽に行けると断言しなかった事に違和感を感じる。
「貴方達には通用しなかったのが欠点ですが」
セイラが行けると断言しない理由はそれかと納得した。
孔袁のおっさんはどうか知らないが、ルーシィには認識阻害は通用しなかった。
その理由は未だにわかっていない。
「それはな、ぜ?」
「考えられる理由は三つです。精霊力の親和性が高いと認識阻害は効きにくく破られます」
精霊力の親和性? オレとナギとルーシィはきっと同じ顔をしているに違いない。
「二つ目は孔袁さんみたいな理性を宿した強力なヴィランにはわたしの認識阻害は通用しません」
「…………」
強力なヴィランにはそれ相応の能力があるから認識阻害が効かない?
「最後にわたし達と似た性質を持つ存在です」
「……それってセイラみたいな宇宙人ってところか?」
「肯定ですが、それだけではありません。例えばルーシィさんのような特異な超能力の持ち主も同様です。貴方のそれはわたし達に近しい」
「……後天的に獲得された異能だからってことだ、ね?」
後天的に超能力を獲得する事は極めて珍しい。
薬物で得る類もある都市伝説も出回っている。
それでもあの軌道を変える能力が特殊な事はオレでもわかる。
どう違うのかい超能力を持たないオレには説明出来ないが、セイラはどうやら解が出来ているようだった。
「……後天的ですか。今のこの惑星の不安定のアストラル度の値なら奇跡も起こるのも不思議ではないでしょう。ハルヒロさん。以前に話した内容を覚えていますか?」
「なんだ?」
「超能力と我々とは性質が違うという話です」
それって確か、悪魔の透明悪に遭遇する前にした話だったか?
情報量とか、アクセスとかよくわからない事を言っていたのは覚えている。
「あの補足です。わたしは精霊力と呼ばれているエネルギーを変換して奇跡を起こしています。それを可能にしているのは正確にはわたしではありません」
「……つまり?」
「全てのアストラルには意思があります。つまり人を選ぶのです。この惑星に住む住民はアストラルを感知する事が出来ないからして精霊力との親和性など皆無でしょう。一部を除いてですが」
一部のルーシィに視線を向けるセイラの話たが、正直ついていけていない。
アストラル? 精霊力となにが違うのか? はたまた同じなのか?
アストラルの感知など、まるで異世界転生して来たのではないかと錯覚してします。
「ハルヒロさん。超能力とルーシィさんの能力の違いはなんだと思いますか?」
「…………わからん」
「例えば鈴乃さんとの試合を思い出してください。貴方はあの時に彼女の能力を封じる選択をしました。その際に彼女はある事をやった筈です」
ある事? 能力を封じる?
「能力抑制の薬を飲んだとかそういう話じゃないよな?」
と言葉にしてみて、違和感を感じた。
「……いや、そっか、そういう事か…………確かにおかしい」
何故、超能力をカースと呼称されているのか、それは言葉通りで呪われた者の名残である。
能力は常に発動している状態で決して消える事など出来ない。
それでは生活が出来ないので、能力者達には無償で能力抑制薬が支給されている。
薬が無ければ生きていられない程の呪い人とルーシィには決定的な違いが存在する。
「能力のオンとオフ」
「正解です。ルーシィさんの異能はわたしの能力と近いと言えるでしょう。即ち精霊力の行使を奇跡的に可能にした存在と言えます」
「……つまりルーシィはセイラ達と同じように、アストラルの感知?が出来るようになった?」
「肯定です。そしてその能力の根底にあるモノは願望しかない」
「…………精霊力がその願望を叶えた能力を獲得した?」
それが事実なら精霊力ってとてつもなくやばいシロモノじゃないか?
全部は理解していなかったが、アインベルン時に感じたエネルギーの威力は凄まじかった。
「……人の願望に応えようと動いてくれるかは精霊力に宿るアストラルです。その親和性の高さによって能力は強大になります。ルーシィさんにはその素質があり、精霊力の感知を獲得した。それによってわたしの認識阻害は通用しなかったのがわたしの推測です」
オレ達が知る超能力とは違う異能を持つルーシィがいかに特別な存在か理解したが、そこでふと疑問に思う。
「ルーシィさんの能力は貴方達の魔法に近しいのでしょう」




