第三幕 妖呪 ④
聖來地下避難所は中央区を中心に基本的に道は繋がっている。スーパーとかコンビニもあるから生活的にはなにも問題はない。
寮は相部屋で、いつもの授業を受け、訓練を受ける。
問題があるとしたら、不自由な事であった。
地下避難所という空間は常にシステムに監視されていた。
仮にヴィランになったモノなら即座に周囲に埋め込まれている悪撃武器によってこの世から消されるように出来ていた。
共同生活に、管理生活に、ストレスを溜まり、ヴィランになるケースは珍しくない。
「……そろそろ帰ろうかな」
「え? 外は危険だよ、秋葉ちゃん」
「だってこの生活二週間だよ? 早く帰って兄さんの世話しなくちゃ。兄さん成分が不足してるよ」
「うわ、出たブラコン」
兄の前では決して言わない事を言う私はいつも通り、友人達とタブネット前で雑用作業で遊んでいた。
警察情報科。結構偏差値が高くないと入学できなくて、上手くいけば就職も安定すると言われている基本的にエスカレーター式の中学校に通っている。
その中学2年生である赤霧秋葉は兄と違ってコミュニケーション力が高い。
守護者の学校と違って『ヴィランの子は必ずヴィランになる』という偏見思考は少なく、兄に恐れてそういう輩は秋葉に絡んでこないのが大きい。
「でも確かに侵入者達の狙いって守護者達でしょ? インビジブルと違って、私達には関係ないでしょ」
「……そだね」
インビジブル。私は顔に出さないように我慢して頷いた。お世話になった私にとって恩師だったのだ。そんな人があんな事をした事が信じられなかった。
兄さんはあの人の事は今でも尊敬しているって言っていた。私もあの人を尊敬してる。将来、あの人みたいな優しい人になりたいっと思わせられる人だったから。
そうこう考えていると、いきなりドンっと意義ありと言わんばかりに不真面目な友人が立ち上がった。
「そんな事より、一昨日のアイン様の動画が公開されたよねッ⁉︎ ミタミタミタミタミタッ⁉︎ 」
「おおっと落ち着け、すごい顔してるよ?」
雑用をサボっていた友人の一人が今話題の聖來都市に現れた動画を見て、目をハートにして狂っていた。
その映像は赤い霧を纏い、巨人に立ち向かい、そして先々日は人々の救助している動画が拡散された。
「もう凄すぎて悶絶なんだけどッ⁉︎」
「確かに凄いけど……」
「だって自分の事しか考えていない守護者達、事件が起こってからしか動けない警察よりは俄然に推せない?」
「いやあんたは警察志望やろがい」
「でもさ、あれって超能力者だよね? 肉体強化? それともなんだろ?」
「北鷹グループの新型ラウンズじゃないかな? ほらメルカバと共同開発したってやつ」
「あー、それっぽいかも……だとしたらやっぱ凄すぎ北鷹グループ」
とそうこうしている内に私が担当している雑用は終わると、ふと避難所の人達の中にいた見慣れないダサいパーカーを深く被っている人物に視界に入った。
あれって…………。
ふと頭がぐらりと揺さぶられるいつもの感覚が襲う。
「秋葉ちゃん、秋葉ちゃん?」
「…………うん? どうしたの?」
「いやいや秋葉ちゃんこそどうしたの? なんかぼーと睨んでいたよ?」
「え? あーちょっと疲れてたかも? やっぱ帰りたいなー」
「うん。だよね? ここの生活ももううんざりだよね」
あははっと呑気に話している私は何故かいつもの胸騒ぎと嫌な予感に不安を感じ、視界から消えた怪しい人物を探した。
∂
通話を切った西郷雅鳴はバベルを睨みつける。
「……やはりお前の息子は問題児だな」
考えるのは報告に上げなかった春公についてだった。
まさか、あんなに予想外の行動をするとは、
「厄介な連中まで出張っている。さてどうしたモノか」
と悩んでいると、先程のとは別の端末が震え出す。
『雅鳴ぼん。やっほー』
「……サリーか、要件は?」
『少しだけ頼みたい事があるんだけどさー、いま大丈夫?」
「いいが、ぼんはやめろ」
『孔袁さん達が脱出したいらしいから、また情報をくれないかな』
「………………」
『雅鳴ぼんの言いたい事はわかるけど、殺されなかっただけましじゃない? だって君に憎悪を抱いてもおかしくないからね』
「だろうな。脱出については手を貸すが、当然、あの人にはやりすぎないように伝えてくれ。特に──」
『──それは大丈夫じゃない?』
通信越しだと詳しい話は出来ない。特にもう内通者だと気付いているであろう監督者に証拠を握られかねない。
『それにしてもまさかハル公が巻き込まれているとはね。これも運命かね』
「……サリーはどの程度まで情報を知ってる?」
『確証はないけど、変わった嬢ちゃんがエネミーかも知れない事。そして狐の妖呪を保護していた事くらいかな』
「……そうか」
恐ろしい女だ。サリーという情報屋は昔から利己的で、利用できるモノはなんでも使う。
鬼木時雨の一件も、繋がっている自分に詳しい内容をなに一つ伝えなかった。
時雨とも繋がっていた事、時雨が透明悪だった事など。
時雨の要望もあったのだろうが、一番は都市機能の停滞にあったのだろう。
その為に時雨を見殺しにしてしまった。
一番腹が立つのは時雨があんな事になっている事に気付かなかった自分自身だった。
ぎしりと近くにあった看板の残骸を手で粉砕する。
「……忠告だ。ガーディアンに気をつけろ」
『三重スパイも大変だねー』
「大元は動かないが、厄介な奴が狐を狙っているらしい」
千年間、動かなかった時計の針は動き出す。
それは取り返しがつかない針か? それとも希望の針かはわからない。
聖來都市を中心に世界は壊れ始めた。




