第三幕 妖呪 ①
シイナ。約束しよ。
いつか、貴方の呪いを解くよ。
そう告げた彼女はいま何をしているのだろう?
どごかで元気でいるのかな? 生きてる?
相変わらず、貴方がなにが言いたかったのかあたしにはわからなかった。けどきっとあなたはいつも正しい。
「報告。対象モールの倒壊を視認。西郷総括の生存確認出来ず。サイコメトラーから『猿』が出現し、逃走し消息不明との事です」
そんな報告にシイナはいつもの既視感を覚える。
「……その場にあった死体について、サイコメトラーから報告はなかった?」
「そのような報告はありませんが、今確認を取りましょう」
取り敢えずは打てる手は打った。
犠牲は出たが、侵入達の情報は最低限入手した。これならば打てる選択肢は限られるが戦える。
「……監督者。襲撃された支部の共通点がありました」
佐藤さん。この対策室では西郷総括の次に権限を持っている非常に優秀だ。本来なら客人のあたしが指示出来る人じゃないが、これも西郷総括から押し付けられたのが原因か?
「……佐藤さん。いいの? この場で話しても?」
その件に関しては、余所者のあたしが突っ込む話じゃなかった為に放置した。どこの都市でも抱える問題なのだ。
「流石は監督者。気付いておられるとは」
「………まあ、あれほどの殺意ならそういう事やっているのかなってね」
あれほどの被害が出たんだ。それ程の理由がある。
一番の残酷は死者こそ出ていないが、再起不能の傷で今も苦しんでいる南支部だった。今の技術ならサイボーグ化という選択肢もあるのだが、それも出来ない程の重症で、延命処置しか出来なかった。今まさに悶え苦しんで生き繋いでいる。死んだ方がマシな苦痛を永遠と繰り返す。あたしは正直想像したくなかった。
それ程の恨みを抱える理由と狙われた支部の共通点を照らし合わせれば侵入者達の正体は見えてくる。
「都市外調査を主に活動している支部」
「正解です」
都市外調査を行なっている支部は意外と少ない。そこにはバベルからの認可が必要で、それ相応の実力があり、なにかと制約があるという事だ。
詳しい内容は恐らくこの場に集結しているメンバーも知らない。西郷統括も詳しくは知らない。それ程に機密事項になっているのだ。
「……推測ですが、都市外調査ではなんとも非人道な行いを行なっていたのでしょう」
「あのー、佐藤さん? いいの? この場で下手したら殺される事言っちゃって」
案の定、周囲の仲間も佐藤さんにドン引きしている。
「いいのです。西郷統括亡き後の椅子には私が座りますので」
それでいいのか? 聖萊都市守護者のトップは?
これからの守護者達の行く末……いや、ヴィランが減少している時点でどこの都市も行く末は厳しい。
あたしにとってはとても良い事だが、多くの同士が職を失う。これらの問題もどうなるかもわからないのだから考えても仕方がない。
「……西郷統括は生きていると思いますよ?」
「なんですって?」
その時だった。一本の通信が入ったのは、
『あー、あー、こちら西郷雅鳴。すまない。油断した』
西郷統括の生存に佐藤さん以外の仲間達は喜びの歓声を上げた。
そんな佐藤さんは苦虫を噛み締めた顔をして、
「チッ……ご無事でなりよりです。西郷統括」
『うん? あぁ佐藤くんか? なんか舌打ちが聞こえた気がしたけど?』
「気のせいです。そんな事より状況を聞かせてください」
『それがモールから数百メートルくらい飛ばされただけだよ? 運良く看板で勢いを殺せたから軽傷で済んだけど』
いや、それもう即死レベルじゃ?
まあ、都市守護者の中で最強なだけに規格外なのだろう。
そんな存在だからこそ、聞かなければならない。
「西郷統括。あの『猿』に勝てますか?」
『……どうだろう? 彼も私も本気を出せていなかったし、正直勝てる気がしなかった』
予想はしていたが、侵入者達のレベルは都市外でも最強クラスなのだろう。
「ならもう一人の『風』は?」
『……それならお前さん達でも対応出来るだろう。新たな情報も得たのだろう?』
「どうして知っているのですか?」
『自分が踏み込む時にモールから撤退している守護者の部隊が見えたのでな、それ以外の理由はない』
「そうですか」
あたしは西郷統括がなにかを隠していると見破る。証拠があっても無くても問いただす事はしない。
余所者のあたしが出来るのは、最低限に事を終わらせて、あたしが知りたい情報を拾い集めるのみ。
「他になにか気付いた事はありますか?」
『なにもないな』
「そうですか」
どうやら聖來都市も一筋縄にはいかないらしい。
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「……いやーやるね。流石は日ノ本の民の過激派。まさかガーディアンの尻尾に触れるとはね。これは予想外なんじゃないかな?」
『…………』
「まさか、西地区の襲撃を囮に、あんな手を使って、アジトを襲撃されるなんてね、もうボクちゃんはお手上げです」
秘密組織である我々の組織のアジトを潰された事に思わず驚愕するグリードは通信相手の上司に愉快そうに話した。
まるでボクにはなにも責任はないと言わんばかりに他人事を装っていたが、通信相手は未だに無言。
怖すぎる。
「ボクなんか、一瞥で殺されたし」
あんなに完璧に綺麗に眉間に弾丸を受けたのは初めてだった。どんな能力だろうと考察する暇はなかったのだ。
『痕跡は?』
「残してないよ。あそこのアジトはただのダミーだったから」
『なら不問だ。そいつについては放置でお前は狐に専念しろ』
「了解だよ。ボス」




