第二幕 外からの侵入者 ⑧
「……わかりやすい軌道だな」
セイラに用意してもらったビー玉を指で弾く。
セイラの予測とオレの先見で軌道を読む。
タイミングは全面的にセイラに任せ、放たれるビー玉は軌道を変える爆薬に命中する。
「なッ」
なにが起こったのか目視したルーシィは信じられないと言わんばかりに無表情の顔が崩される。
そして狙い通りに噴水に爆薬が落ち────爆破した。
キーンという耳鳴りに特有の火薬の匂い、そして砂煙が舞う。
あの程度の爆発でルーシィが死ぬとは思えない。
一瞬の油断は出来ない。相手も条件は一緒だが、この様なトラブルを想定していない弱者じゃないだろう。
その答えが返すように放たれる銃弾の気配にガンドレットで弾く。
「やってくれる、ね」
疲れた表情で無傷のルーシィはオレを睨みつけている。
上手くあの爆破を逃して助かったのだろうが、ルーシィが立つ噴水の足場に綻びが生まれている。
あと一息で足場は崩せそうだが、それ以上に地盤が崩れそうに見える。
「もうその爆薬は使わない方がいい。自殺したいなら止めないが?」
「……そうだね。認めるね。君は本気でやらないと殺せないってね」
「そうか。そうしろよ。出来るならな」
オレは当たらないだろうなと思いつつ牽制の指弾を放つが、ビー玉の軌道はルーシィを中心に渦を巻き、弾丸の如く俺のこめかみに迫った。予定通りガンドレットで防いですぐに前に出た。
そのオレの進行を阻止しようと拳銃を構えるのより早くオレは指弾を放った。
「……狙ってるね」
再び軌道は円を描いて、俺のこめかみに迫ったビー玉とそれに追撃した銃弾の弾丸もガンドレットで防いだ。
再び指弾を放つと、予測通り軌道は先程とは逆回転を描き、逆のこめかみに迫るが、しゃがんで避ける。
ルーシィの能力が通じない相手を前に声に動揺が走る。
「どうして、避けられる?」
「……お前本当に気付いてないのか?」
未だに気付いていないルーシィに答えを教えるほどお人好しじゃないオレは切り札を切る。
R
「ば、爆薬?」
普段のルーシィならそんな爆薬を見ても、脅威にすらならなかったのだろうが、普通なら殺せている状況で死なない男が持ち出した事に最大な危機感知が警報を上げる。
「死ぬなよ」
彼は躊躇なくそれを投げると、ルーシィは最大限の防御体制に能力を上げた。ルーシィの身その爆薬は身体には当たらず逸らされる。だが────
────ば、爆発しない? まさかッ!?
理解した瞬間、私がいかに踊らされていたのか顔を青くした。
H
分かりやすい物をセイラに創造して作って貰った偽物を投げたオレは身体強化した脚で直進する。
偽物だと気付いたところで既に遅い。俺はもうルーシィの懐にまで迫っていたからだ。
「うらあああああああああああああああああああああ」
身体強化したオレの拳プラスセイラお手製のガンドレットプラス爆破によるダメージ。オレのパンチはルーシィの足場の噴水を容赦なく破壊した。
R
足場をやられた? なに、あのパワー? 彼の能力は軌道を読める類じゃなく、パワー系の能力だった?
地面に着地したルーシィは彼と同じ土俵に立たされている。
制空権が失われた今の私は追い詰められた。
だが、今ならまだ取り返せる。
彼は今、ようやく私から足場を奪った事によって油断している。
今なら私が投げた爆薬に対応出来ない。
私は最後の一つの爆薬を投げ────
────本当に?
彼は爆薬をあのとんでもない指弾で軌道を変え、私に跳ね返してきた。
もう一度跳ね返してきた爆薬に今の私は対応出来るか?
連戦に連戦に酷使した私の能力は休ませろと告げている。
そんな中で彼に最大質力を2度も使わされた。
次はもしかしたら使えないかもしれな────その時だった。ぱぁんと衝撃が────走った。
「────はぃ────?」
な、に?
私の額になにかが貫いた感覚を感じた。
撃たれた?
私が?
軌道は?
なにも発動してなかった?
なぜ?
迷ったから?
爆薬を使うか、使わないかで迷って?
いや、爆薬に頼った時点でこうなる運命だった?
こんなところで死ぬ?
まだ殺さないといけない人が、苦しませたい人がいる。
まだ守らないといけない人がいる世界で退場させられる?
そんなの……あれ?
生きてる……?
よく見れば、地面にビー玉が転がっていた。
彼が使っていたビー玉を指弾が額に命中したのだ。これが銃弾だったら死んでいた事実に恐怖を感じる。
そもそも彼が銃を使っていたら、常時発動で能力を使い回避した。彼が私を殺す気がない事による油断で出来た結果だ。
「……どういうつもり?」
「いや、本当に当たるとは思わなかった。不快にさせたなら謝ま……ってなんで殺そうとしているお前が逆ギレなんだよ?」
「そうじゃない。どうして……私を殺そうとしない?」
「最初に言っただろ。俺は殺す気はないって」
「貴方を殺そうとしていても、障害を排除しない? 理解できないね」
理解も、共感も出来ない。
初めて、私はこういう理解不能な偽善者に対して怖いと感じてしまった。
「できる限りは手を差し伸べる。そういう生き方で死にたいって願うのはお前にとっては理解できないことか?」
「できないね。害虫は殺さないと平和はない」
「……人間と虫とで例えるのは間違ってる。いま俺達は対話をしている。お前が望む平和はお前自身が望めばいいだけの話だ」
その言葉に思考がぐらぐらしている脳が呆然としている。
どうして敵である彼と殺すと決めた相手と話している?
そもそもどうして彼は『私とこうして命を賭けて敵対している?』
時間を稼ぐためだとしても、私に危害を……稼ぐ? 危害?
そういえば、彼との戦闘が始まってから一度も……。
私も能力で集中していたからといって、一度もないのはおかしい。
「…………どういうこと?」
「いやだから、見逃すからここから出て行けってこと──」
「──そうじゃない。貴方は気付いている、ね?」
ある可能性が頭を巡り、声を震わせながらそして確信をもって言うと、この状況で彼は『不敵に笑う』を隠さなかった。




