第二幕 外からの侵入者 ⑦
この世界には消さなければならないモノが存在している。
この世界には決して許せない奴らが笑って生きていた。
その笑みを、苦痛で歪ませ、生きている事が苦痛に思えるように、何度も願った。
けれど私には、私達には力が無かった。
ただ奪われるのを見ている事しか出来なかった。
あの人に出会うまでは……
「……まさか、正面から来るなんて予想外だね」
巻き込まれていた筈の彼の『帽子』を睨みつける。
どうやら考えられる中で最も愚かな選択肢を取って現れた事に少なからず動揺する。
「わかっている上でやっているなら死ぬ覚悟は出来ているんだよね?」
「……知らないな。オレはお前に殺される義理はない」
『守護者』のロゴが入った帽子を脱ぎ捨てた彼の瞳に恐怖はない。
気に入らない。まるでこの場を乗り越える自信があると言わんばかりに、
まるでお前の能力は大した事がないかと、あいつらと同じ瞳をしていた。
「それにオレはお前を殺さない」
「……殺さない? 殺せないの間違えだよね?」
今の彼に私を殺す術はない。私の能力の前ではあらゆる攻撃は意味を成さない。
当然、弱点はある。だが彼に弱点を突く術はない。
「……違いないな。オレはどうやったってお前に攻撃できない」
そう言う彼は不敵に笑う姿に背筋がスーッと冷めた。
この場所で有利なのは私だ。
制空権を握っているのは私である。
空から爆弾が降っていて、ただの的でしかない獲物だ。
狩られる獲物が、何も出来ない彼が笑っていられる心情が私には理解出来ない。
「それよりここにあった死体はどうしたんだ?」
「貴方に答える義理はある? これから死ぬ貴方にね」
天井に向けた拳銃の引き金を引いた。
発砲音と共に放たれる銃弾の軌道を歪ませる。
狙いは眉間。ここを撃たれればどんな超人も死に絶える。
「…………今のオレの言葉に重みが無いのはわかっている前提で言ってやる」
軽く首を曲げて弾丸を避けて見せた彼の動きに瞠目する。
まさか私が歪ませた銃弾の軌道を読まれた?
「今すぐにオレの前から消えろ。見逃してやる」
「……貴方ほど傲慢な人の相手は疲れるね」
その傲慢な態度を静寂に変える銃弾を放つが、左腕のガントレットで弾かれる。
よく視れば、右腕と両脚にも同様の装備が付けられていた。
どこでそのような装備を用意したのか、疑問だが三度の私の銃弾が通じなかった。
どんな能力なのかわからない。今まで会った輩に比べて凄みもオーラが無い。
だけどこの獲物は今まで会った厄介の輩の部類に入る。
「……何者なの?」
「…………さあ?」
かっこよく決めようと思ったが、土壇場で思い浮かばなかった。
6
「『──で? 速攻で逃げ出したハルヒロさん。これからどうしますか?』」
散々ルーシィに挑発を浴びせた俺は次の手を打たれる前に近くのショップに逃げ込んだのである。
その行動があまりにも俊敏だった事からルーシィは唖然と見送っていた。
「あのまま向き合ってたら確実に殺されるし、あいつをあの場に釘付けにするように挑発をした。後は時間まで逃げ切るだけ」
「『……あれだけ【お前の相手は簡単だ】と言っていた筈ですが、この体たらくとは……』」
セイラの呆れた声が脳裏に響く。
君はオレにどんな期待をしているのか少しだけ気になったが、今はそれどころではない。
「安心していいぞ。セイラ────あいつの攻略法に確信を得たところだ」
「『……本当に馬鹿げた事を実行すると?』」
「馬鹿げたって……オレ一人だったらこんな無謀な賭けはしない。オレ達『二人』だから出来る」
オレ一人の力なんて高が知れてる。
まず無能力のオレが拳銃を持った相手に真正面から挑むなんて命知らずな事はしたくない(当たり前)。普通の人間は銃弾を避けたり、ガントレットで弾を弾いたりしない(当たり前)。
だがセイラの予測と俺の先見が組み合わせられれば『初見』で先見の能力が使える。
一時的な肉体強化で今まで無理だった肉体行使に幅が大きくなった。
なにより『一人』じゃないって事がこんなにも心強い事を知った。
「『………………確かにあの程度の脅威なら『βηφΔЭγ』を使用するまではないでしょう』」
「……わかってる」
その切り札をこの場で切るつもりはない。少なくとも『今は』。
「やるぞ」
R
散々挑発してきた獲物が尻尾を巻いて逃げ出す姿を唖然と見送っていた。
一体、なにがしたいのだろう?と冷静になって考えても『時間稼ぎ』しか理由が見つからなかった。
こんなわかりやすい時間稼ぎにわざわざ付き合う価値はあるのだろうか?
彼に圧倒的な能力はない。あの御方のような圧倒的な武の化身でもない。
対話をするだけの力はない。そして冷酷な殺気をまるで感じない。
相手にしたくない類のただの『人』だと断ずる。
「……ごめんね」
そういう輩に付き合う価値はないので早々に決着を付けようと爆薬に手を伸ばす。
いくら弾丸を避けれても、追尾してくる爆薬からはどうやっても避ける事は不可能だからだ。
もしかしたら彼はこの『爆薬』の存在を予見して撤退したのかも知れない。
そうだとしたら彼の行動は正しい。
そして薄ら気持ち悪い。
まるでルーシィの行動一つ一つを誘導されているのではと思わざるを得ない。
「そうだとしても、これで終わりだね」
ボール状の爆薬のスイッチを押し、手慣れたアンダースローで投げた。
爆薬は手から離れたところで不規則な軌道を取った。
演算通りに彼が隠れているショップを吹き飛ばす爆薬は──『ドガ──』──不自然に曲がり別のショップの壁を爆破した。
「は?」
なに? どういうこと? 軌道の演算を間違えた? そんな初歩的なミスを今ここで?
放心している最中、彼は堂々とショップから姿を現す。
「もしかして本気で殺そうとしてないのか?」
「…………」
爆弾を持つ私を前に、笑う『彼』の瞳には恐怖はない。
「うるさい、ね」
不規則に軌道を歪ませ、再度、爆薬を投げる。
爆薬は演算した通りに歪ませた軌道は最終的に彼に向かう。
そんな中で彼は怖がって逃げるわけでもなく、ただ成り行きを見守っていた。




