第二幕 外からの侵入者 ⑥
「服装か!」
その推理は今まで納得がいかなかった点を綺麗に埋めた。
オレとギャルと気絶男はどこから見ても一般人の服装で、守護者の印であるマークは身に着けていなかった。
「狙われなかったオレ達の共通は『守護者マーク』が無かったから……狙いは守護者だったって事だな」
「そう、だと思います。睦美ちゃんのオシャレ思考に助けら、れました」
そう告げる文学少女は苦笑した。
「……別にあんなダサい制服を着たくなかったからじゃないしー。偶然だしー。ただの」
最初こそ恥ずかしそうにしていたギャルはふと身体を震わした。
「でも、そっかあたしが真面目にちゃんに制服なんて着用してたら……今頃……」
死んでいた事実に今更恐怖を感じているのだろう。
人を殺そうと引き金を引いた奴が殺される事に動揺するのか? と口が滑りそうになった。
別に恐怖を感じるのはいい。オレだってする。
それでもオレは引き金を引くなら死ぬ覚悟はいつでも備えて置くべきだと、自己に言い聞かせている。
そのエゴを矛盾を押し付ける事は間違っているが、オレはこいつらを受け入れられない理由の一つなのだ。
他人から全てを奪おうとする奴に限って、自身が奪われる立場になればやめてくださいと懇願する。オレは過去にそういう輩を踏み砕いた事が何度もあった。
変わろうと決意したが、オレの根本的なエゴは変えられそうにない。
人はそう上手くは変われないっと師匠が言っていた。
その通りだ。師匠。
「……侵入者の目的が『守護者の排除』なら、自身を餌に貴方達を釣った?」
話が進まないのが嫌気がさしたのか無口だったナギは俺をじぃいいいいと見ながら言った。
うん。ナギが狙われた理由って無理やりその帽子を着せたボクのせいだよね?
ごめんね?と心の中で謝りながら、続けて言った。
「だろうな。そして通信の途絶えた部隊の様子を確かめようと、これからも守護者達がここに押し寄せてくる」
「……あの侵入者に勝てる?」
「負けるだろうな。あいつに対しての攻撃手段がない」
軌道を変えるって事はいくら接近戦に持ち込んでも、蹴りの軌道を変えられるとしたら、終わりだ。
けどやれる事はある。
「まず優先順位を決めよう」
「は?」
「ここでジタバタしてもしょうがないだろう。優先順位が決まれば方向性がわかるだろ?」
オレの提案に否定的な声は出なかったが、ギャルはオレが仕切っている事に不満そうである。
「まず第一にここを脱出して重傷の二人を安全な場所で治療する」
「……賛成だけど、ここを出るにはあの侵入者がいるルートを通らないといけなくない?」
「いや、そうでもない。このショッピングモールはインビジブル襲撃の爪痕があった。何ヵ所か崩落して段差は少しだけ厳しいが人が通れるくらいの竪穴があった筈だ。侵入者のいる区画を抜けられる」
「……あった気がする。確かにあそこなら下のフロアーに行けて、そのまま脱出できそうだけど、まだこのモールにテロリストの仲間が潜んでいるかも」
「それはほぼない。あのルーシィの能力は個に特化した代物だ。誰かと協力なんてしたら逆に弱体化する。警戒はする事は悪い事じゃないが、いてもお前達なら対処は出来るだろ」
このモールにいるのは、セイラの索敵能力で割れている。
「……あのテロリストももうあの場所にいないかもしれないじゃない⁉」
「制空権を捨てる馬鹿じゃないだろ」
「……せい、くうけん……? ……それもそうね‼」
多分、このギャルはわかっていないようだから説明する事にする。
「オレの推測だがあのテロリストの能力は『軌道を変える』だと思う」
「あれは念力か風の能力よッ」
「なら出来るか? 飛んでくる銃弾を一弾、一弾念力で操ったり風で操ったり」
「…………………………そうね。そんなこと不可能よ」
「軌道という曖昧な能力の存在に疑念を抱くのもわかるが、今は吞み込んでくれ」
ルーシィの能力の正体の考察は今は深くは探らない。今はやるべきことを淡々と行う事を優先させる。
「あいつが変えた軌道を読んで、それに沿って攻撃を当てるしかない」
「……そんなこと出来る人間はいないわ」
東橋鈴乃なら雷で緻密な軌道そのものを変えられる。そもそも接近戦に持ち込んでも直感と脳筋でどうにか出来そうだ。
そしてオレの師匠ならそもそも戦わず、勝つ。
そんな芸当はオレには出来ない。セイラの能力を使ってミストマンに変身すれば勝負になるだろうが、今は使えない。
取れる選択肢は限られるがやるしかない。
「じゃんけんの必勝法って知ってるか?」
「はあ? いきなりなに?」
「相手の出す手を一つだけ封じればいい。相手に『パー』を封じれば、俺は『グー』で待ち構えるだけでいい」
「ない、いきなりわけわからんこと言ってんの? キモ」
ギャルの視線は相変わらず冷めている。わかりにくかったかな~? 子供にもわかるように話しているのに…………キモイって言い過ぎじゃね?
「あいつが……あのテロリストがやっているのはそれだよ。遠距離攻撃を封じ、あの噴水の上に立つ事で制空権を確保して近距離も潰している。あいつを殺すつもりならこのモールを崩壊させて圧倒的重量で圧し潰すしかない」
遠回しに仇討ちという無謀はやめろと伝えると、押し殺しても瞳の奥に宿している憎悪を刺激されたギャルは俺の胸ぐらを掴む。
「ッッ!! ならどうすればいいのよッ!?」
「……勝てばいいだろ」
「そんなの無理よッ!! 今のあたし達じゃあの女の前じゃなにも出来ない。仲間の仇も、あの女から逃げることなんて……できないのよ」
恨みつらみは痛いほどに理解できる。それを実行できない理不尽を何度呪ったか。
だが今の時代その思考そのものが禁忌とされている。
ヴィランという存在は世界から自由を奪った。
大切な人の死を悲しんじゃいけない。命を奪った者に恨みを抱いちゃいけない。
理不尽に抗っちゃいけない。ヴィランは殺さなきゃいけない。大切な人を殺さなきゃダメだと思考を誘導された。
その中で優しい人だけが淘汰される。残酷な世界だ。
「時間稼ぎはオレがやる」
「は?」
その場にいる全員がなに言ってんだこいつという顔をしていた。
「だ、大丈夫?」
心配そうに裾を引っ張るナギに笑いかける。
「どうしてあんたが? あんたはあたし達より階級が下でなにも能力がない無能力者……あの女の無敵な能力に敵いっこないでしょッ!?」
「狩りと戦闘は違うぞ?」
「は? なに言ってんの?」
意味がわからない顔をしているが、内心オレが言いたい事が分かっているのか、ヒステリックに叫ぶ事はしていない。
「お前たちの本分はヴィランとの戦闘いや狩りだ。いかに自身の有利な条件を作り出してヴィランを殺す訓練を叩きこまれてる。バーサーカーのような知能のない獣を狩るためにこれまで頑張ってきたのは、この応急処置の対応でわかる。俺じゃお前達には勝てないってな」
「だったらッ」
「相手はヴィランじゃなく、知性のある『人間』の相手の対処なら、オレが適任だ」
今まではこういう風に回りくどく対話せずに拳で黙らせていた。こういう風に言葉を選ぶ事を意識して話すのは久しぶりだ。
本音の中で嘘を織り交ぜる。師匠がいつもオレに使う話術をふと思い出しながらこれから嘘を話す。
「ヴィランを相手ならお前達に任せたさ。けど人間相手の能力者ならオレの方が時間稼ぎにはなる」
「……あんたは無能力で……ッ、あのテロリストに勝てる筈がない」
「じゃんけんで例えるならあいこを出し続ければいい」
ルーシィの能力が本当に『軌道を変える』のであれば遠距離攻撃は全て無力化され、跳ね返ってくる厄介な能力だ。
だが欠点があるとしたら、それはオレと同じに違いない。
勝ち筋はある。それに至るまでの過程が今の状況なら運が味方しない限り勝てない。
「相手を殺すだけが勝ち方じゃない。今はこの重傷者を救う為にここを脱出させ、この現状をバベルに知らせて対処可能な援軍を呼ぶ。それが俺達が取れる勝ち方だ」
「……ッ……あんたのいう通りよ」
「……睦美……」
納得がいってないが仲間の為にと言葉を呑んだギャルに同じく悔しそうにする格闘家女子に成り行きを見守る文学少女はオレに視線を送る。
「って言ってもあっさりやられるかもしれない。もうちょっとだけ詰めさせてもらう。特にナギには聞きたい事がある」
気絶した男が目覚めるまで作戦会議は続いた。




