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オレとカノジョのヒーロー活動  作者: 赤城青
第二章 地下世界の怪物
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第二幕 外からの侵入者 ②


『……いや、家に帰して……』

『ぶひぶひ、いくら願ったって助けなんて来ないんだぁあ』

『助けて……リンカーマーンぁあああん』

『フハハハハハはっはははははははははっはははっははっははははッッ』

『な、なにものだ!?』

『幼女を自室に監禁するヘンタイに自由の拳を喰らえぇえええええええ』

『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ』


 翌朝にある再放送の特撮モノをセイラがテレビを陣取って鑑賞していた。

 どうして今そんなピンポイントの話をやっているのかツッコみたいが、今はそういう場合じゃない。


「……えっとなにしてるの?」

「もぐもぐもぐもぐ」


 狐耳をした褐色肌の彼女は備蓄していたレーションをもぐもぐ食べていた。


 あれから気絶した彼女を自宅に連れ込み布団に寝かせた。


 どうも犯罪臭がするが、なにもありましない。なんやかんや疲れた俺はガレージで寝て、彼女の存在に興味津々のセイラに看病を任せた(男の俺が看病するのとなにを考えているのかわからないセイラに看病させるか天秤にかけたのだった)。


「……ごちそうさま?」

「うん。まあいいけどね。けどね、ボクの分も残しておいてね」


 子供の頃から備蓄されたレーションの存在を忘れていた。

 賞味期限は大丈夫なはずであるから問題はないはずだ。そこらへんの良し悪しはセイラさんはご存知のはずだから問題はないのだ。

 いざお腹が壊れたら、認識阻害をもらおう。


「……セイラさん、セイラさん? どこまで話した?」

「リンカーマーンは実は男の娘フェチくらいです」

「うん。わかった」


 せめて誘拐目的で攫ったわけじゃないって告げてくれないかな?

 男の俺が言うよりは遥かにいいと思うが、え? リンカーマーンって男の娘が好きなの?

 ちょっと1話から今度見てみようかな。


「それで……君は?」

「ナギ」

「オーケー。ナギちゃん」

「……ちゃん付けキモイ」


 いきなり初対面の女性を呼び捨てにする勇気がなかっただけでキモイってひどくない?


「わかった。ナギ。……それで君は何者だ?」

「…………」


 早々に単刀直入に切り出すと、ナギはじーっとオレの目を見る。

 人と会話する際は目を見て話せっとよく師匠から教えられた。

 人の顔の仕草一つ一つに感情が最も現れるのは瞳だ。瞳の動きは相手が嘘をついているのか自然と読み取る事ができる。

 なので見つめ合う行為は一種の警戒といってもいい。


「真実を言っても貴方は信じないと思う」

「それは内容によるな。けど事情を聞いとかないと、これからどうするかの方針をたてられない」

「そう。なら話す。ナギは───────今から20年後の世界からタイムスリップしてきた」

「ほうほう。タイムスリップ…………うん?」


 この娘はなにを言っているのだろう?


「20年後の未来では宇宙人が襲来し、地球滅亡間近まで迫っている。タイムマシンを開発したママンがエージェントだったナギをこの時代に送ってくれた。最悪の未来を変えろと、そのためにはナギを生んで、キャバクラ通いで後ろからナイフで刺されて死んだパパンを探していた」

「お、おう。随分とユニークな父親だな」

「うん。ようやく会えた。パパン」


 オレに向かって嬉しそうに微笑むナギに淹れたてのお茶を零した。


「パパン……パパッ!?」


 話半分に聞いていたら、どでかい爆弾を投下してきた。

 オレってあともう少しで子供生むのッ!? 妻いるのにキャバクラ通いで包丁で殺されるってなにッ!?


「……やりますね。ナツキヨさん」

「君はテレビでも見てなさい」


 あとナツキヨってだれやねん?


「ちなみになんだけど……『ママン』はどんな人なんだ?」

「『ママン』は…………」


 信じたわけじゃないが、軽い気持ちで将来のお嫁さんの情報を聞いてみたが、その時の瞳の動きが尋常がないくらいに()()を表していた。


「……いやね。将来のお嫁さんって事はね? どんなおっぱいしてるのか気になるってのが男だからね? 『娘』がこんなに可愛くてオレには似てないだろうしね? 美人なのは確実なんだよね? だからそこらへんを詳しくね?」

「…………『ママン』は優しい。ナギの為に人生を捧げてくれた」


 地雷を回避するように砕けて話しているのを察してか、ここで初めて笑った顔に安心する。


「オレの母さんと一緒だな」

「……あなた……『パパン』の『ママン』?」

「オレの記憶にはもう母さんの面影はないけど、父さんが言ってた。『お前の幸せを一番に願ってた。正直嫉妬するくらいにな』って、オレはそれだけで嬉しかった」


 その時の父さんの顔は少しだけ悔しそうな顔をしていた事を覚えている。


「将来のオレがどう仕様もない馬鹿になっても、娘の為ならどんな事でも捧げられる人間になりたいと思う今のオレがいる。きっとナギの『ママン』も同じなんだと思う……多分な」

「…………そうですね」


 ナギの瞳に揺らぎは無い。

 やはりオレの励ましの言葉はナギには届いていないようだ。

 オレの言葉に嘘はない。嘘は無いが本音は告げていない。

 父さんが初めてヴィランになって数日たって、初めて父さんの言葉を疑った。

 本当は、母さんはオレのこと愛していなかったのではないか?

 オレが生まれたから、母さんは死んだのではないか? ふとそんな事を考えてしまう。

 ナギの瞳を見ていると、まるで鏡でよく見る瞳を思い出した。


「似てるな」

「……え?」


 周囲の声が雑音に鳴り替わる瞬間を鮮明に覚えている。

 誰かの声援も、罵る罵声も、心にもない励ましも、相手の瞳に宿る本音を読み切ってしまった時、周囲が雑音に変わった。

 オレとナギはよく似ているのかもしれない。


「いや、やっぱりオレの血が流れているのがわかる。お前がオレの娘だと信じられる」

「え? …………うん」


 何故か、どうしようという顔をするナギは誤魔化すようにうんうんと頷いている。


「そういえばナギの『ママン』の名前って…………その前にオレの名前は知っているよね?」


 いくら幼い頃に亡くなった父親の名前を知らない筈がない。未来から父親の特徴を知らずに過去に来ないだろうし、まさかこんなシリアス展開でこんな大嘘を言うわけがないだろうとは頭でわかっていても念の為に確認しておいて損はない。


「……当然知ってる」

「うんうん」

「……田中夏喜代(たなかなつきよ)

「……たなか? なつきよ?」

「田中はナギのママンの旧姓。パパンは婿養子」


 捲し上げる勢いで、瞳を動揺させらがら言うナギ。


「いやもう騙されないからねッ!?」


 セイラの適当な発言から俺の名前を『ナツキヨ』だと勘違いしたのだろう。セイラは狙ってそうしたのかオレにはわからない。


「……まさかあんな突拍子もない事を信じるとは思わなかった」


 心底信じられないように言うナギに言い返す言葉がないオレ。

 認めたくなかったが、瞳から『嘘』がわかるなんてのは迷信なのではと思い始めている。


「いやキミねぇ、いくらなんでも未来からタイムスリップなんて信じるわけないだろう? せっかくのってあげたのになぁ……」


 かっこわるいが、あるのかないのかわからないオレの矜持を守る為にそんな事を口にすると、そうだよねとナギは苦笑いする。

 じーっとオレを見ているセイラさんとは違って優しい子だ。


「ごほん。とりあえずオレの名前は赤霧 春公だ」

「わかった。パパン」

「…………話を戻して大丈夫か?」

「なんだっけ?」

「君は何者かってことだ」


 『ヴィランの子』。そうセイラは結論を出した。

 狐の耳に狐の尻尾が生えているナギの外見は普通じゃない。

 そしてなによりナギの存在はこの都市の目にかかっていなかった。

 先生と同じように『透明悪』なのか、それとも別の生命体なのか、どんな答えでも今更驚きはしない。

 だってこの家には宇宙人がテレビを見ているのだからなッ!!


「ナギは……ナギ」

「……その耳と尻尾はナギの『ママン』も生えているのか?」

「生えていない。どうしてナギに狐の耳と尻尾が生えているのか、実はナギにはわからない」

「そうなのか?」

「ママンは言ってた。外の世界は貴方のような耳をしている獣が外でさかっているって」

「……それって動物の話だよね? そうだよね?」


 こんな無垢そうな娘になにを教えてるんだ。


「ナギはナギの事を知らないけど……知っている人達を知ってる」

「だれなんだ?」

「『仲介屋』と呼ばれている集団。いざという時は頼れとママンに言われた」

「……『仲介屋』?」


 仲介という事は売り手と買い手の間に入る代理人。

 仲介人も含めて、その奥にいる取引相手も薄気味悪いな。


「その『仲介屋』ってのはどんな連中なんだ?」

「…………あなた達じゃないの?」


 蒼い瞳にじっと俺とテレビを鑑賞するセイラに向けられる。

 どうやらその疑いからこの場に大人しく留まっているのだろう。


「オレ達はそんな怪しい集団じゃない」

「怪しい集団もそうやって否定しますよ? ハルヒロさん」

「た、確かに……ってセイラさんはどっちの味方なんですかねぇ?」


 ちょうどリンカーマーンのエンドロームに入ったのか、ようやくこっちの会話に交じってきたセイラを見るナギの表情は怪訝に変わる。


「……その『仲介屋』の特徴が貴方達に類似している」

「特徴って?」

「変人」

「…………あれ? 喧嘩売られてる?」


 遠回しに罵倒するナギに軽口を叩くも、ナギの視線は依然とセイラに向けられている。


「『変人』とはそのままの意味で普通の人ではないという意味。ならわたしはその中には含まれません」

「……そう。あなたからは『ナギ』とも違う。初めて遭遇する気配がする」


 ナギのセイラへの観察に内心で同意する。 

 セイラの気配は希薄。存在感はある筈なのだが、ふとそこにいるようでいないと錯覚する事がある。

 まるで霧が晴れる前兆のような幻のように感じるのだ。

 そんな気配を感じ取ったナギもセイラの存在を異質に、別種に見えているようだ。


「……セイラの話は置いといてだ、まずはその『仲介屋』を探すのが先だな」

「その意見には同意します。わたしもその『仲介屋』には興味があります」

「とりあえずマスターに電話……できないから直で行ってくる」

「……あの情報屋のマスターは知っているでしょうが、教えてくれるかはわかりません」

「……? まあその情報にどれだけの金をせびらせられるかによるな」


 セイラの言動に違和感を感じながら、今度の方針を話す。


「あと秋葉に連絡を───」

「──ちょっと待って」


 オレの声を戸惑っているナギに遮られる。


「どうしてあなた達まで『仲介屋』に会うっていつの間に決まった?」

「「今」」

「だからどうして」

「「興味あるから」」


 ここまではっきり言うオレ達にどうやって断るべきか困ったように顔に現れるナギ。


「やめて……。これ以上にナギに関わったら、危険な目に合うと思う」

「だったらオレ達も手伝う。いざって時は盾にす……ごほんごほん。盾になるから安心しろ」

「……今の内に消す?」

「冗談はさておき、困っている人に手を差し伸べる人になりたいからオレはナギの手助けがしたいんだ」


 あの時の誓いを守るように、オレの口はそんな事を吐いていた。

 その言葉にナギは顔を引きつるように、


「……胡散臭さ」


 と小言を漏らした。言ったオレも『だろうね』と頷くのだった。



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